テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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第1話 - あ

2023年10月04日

#スカッと

タナカトシキ

アスカ

ヤマト、陣痛がはじまったわ。

アスカ

いま病院についたところだけど、今日の夜には産まれるって。

アスカ

助産師さんにそう言われたわ。

ヤマト

え、マジか。

ヤマト

俺、まだ仕事中なんだけど。

ヤマト

今からそっち行っても間に合わないんじゃね？

アスカ

まだお昼前だよ。

アスカ

今から車で来てくれれば、3時間くらいで来れるでしょう？

ヤマト

行っても、俺は分娩室の外でウロウロしているだけだろ？

アスカ

それでも、そばにいてほしいのよ。

アスカ

だって初めての出産で不安だし、何が起こるかわからないんだもの…

ヤマト

お義母さんがいるんだろう？

ヤマト

別におれが付き添わなくても平気だろうよ。

ヤマト

子供じゃないんだから、いちいち俺を頼るな。

アスカ

そんな、これからあなたの子が産まれるのに…。

アスカ

ちょっと冷たすぎると思うわ。

アスカ

本当は立ち合い出産にしたかったくらいなのに。

ヤマト

俺は血を見るのは苦手なんだよ！

ヤマト

それに出産するところなんか見たら、お前のコトを女として見れなくなるぞ。

ヤマト

それでも俺に立ち会ってほしいのか？

アスカ

それは…。

ヤマト

イヤなんだろ？

ヤマト

俺に良い夫でいてほしいなら、お前も出産くらい1人で頑張れよ。

ヤマト

俺は、お前のために働いてやってるんだから。

アスカ

わかったわ。

アスカ

また陣痛の波が来たみたいだから、もういい。

ヤマト

もう俺の仕事の邪魔をするなよ。

ヤマト

連絡は産まれてからでいい。

ヤマト

じゃ、がんばれよ。

～翌日～

アスカ

ヤマト、赤ちゃんが産まれたわ。

アスカ

健康な女の子よ。

ヤマト

そっか。無事に産まれたか。

ヤマト

良かったな。

アスカ

ずいぶんと他人事のようにいうわね。

アスカ

第一子よ？初めてのあなたの赤ちゃんなのに。

アスカ

どうしてそんなに冷静なの？

ヤマト

だってまだ会ってないし、実感もわかないよ。

アスカ

じゃあ、いつ会いに来てくれるの。

アスカ

出生届も出さないといけないし、きちんと会いに来てくれるよね。

ヤマト

そうだな、日曜日に行くよ。

ヤマト

役所の手続きがあるなら仕方ない。

アスカ

仕方ないって…自分の娘が産まれたのに。

アスカ

嬉しくないの？

ヤマト

うーん、嬉しくないこともないけど

ヤマト

自由が無くなるのがつらいかな

アスカ

ええ…。

アスカ

自由が無くなるのは私のほうなんだけど。

アスカ

今だって、出産で疲れ果ててるわよ。

アスカ

少しはいたわってくれても良いと思うんだけど。

ヤマト

それは悪かったよ。

ヤマト

いろいろと忙しくて、そこまで気づかなかったよ

アスカ

そう。

アスカ

じゃあ、日曜日ね。待ってるわ。

ヤマト

ああ。またな。

～翌日～

ヤヨイ

アスカさん、こんにちは。

ヤヨイ

赤ちゃんが産まれたんですってね。

ヤヨイ

おめでとうございます♪

アスカ

ありがとう、ヤヨイさん。

アスカ

もう出産したことを知ってたのね。

ヤヨイ

ええ、課長が教えてくれましたよ。

ヤヨイ

つい最近、アスカさんが出産したってね。

アスカ

そう。職場の皆さんは元気？

ヤヨイ

ええ、元気ですよ。

ヤヨイ

仕事も順調だし、アスカさんがいなくても

ヤヨイ

なんとか仕事は回っています。

アスカ

そう。それならよかったわ。

ヤヨイ

アスカさんも、無理に復帰しなくても良いんじゃないですか？

アスカ

え、なんで？

アスカ

私は子供が1歳になったら復職するつもりだけど…。

ヤヨイ

え～

ヤヨイ

そんなに早くに復職したら、お子さんが可愛そうじゃないですか。

アスカ

そうかな。

アスカ

そのくらいから復職してる人、ウチの会社にもたくさんいるよね。

ヤヨイ

そうですけど、アスカさんのお家は

ヤヨイ

ご主人のヤマトさんも激務じゃないですか。

ヤヨイ

復職したら、ワンオペになること間違いなしですよね。

アスカ

それはそうだけど。

アスカ

ワンオペも覚悟の上での復職よ。

アスカ

あんまり他人にとやかく言われたくないんだけど。

ヤヨイ

あ、ゴメンナサイ。

ヤヨイ

ちょっと口出ししすぎましたね。

ヤヨイ

つい心配になったもので…。

アスカ

ご心配ありがとう。

アスカ

でも私のほうは大丈夫よ。

アスカ

いざとなったらシッターも頼めるし、主人の実家も近いから。

ヤヨイ

あら、ヤマト先輩のご両親とも仲良しなんですか？

アスカ

そうね。可愛がってもらえてるわ。

アスカ

結婚前から仲良くさせてもらってるの。

ヤヨイ

へえ、そうなんですか。

ヤヨイ

いいですね、義両親と仲良しで。

アスカ

ええ、そうね。

アスカ

じゃあ、そろそろ授乳の時間だから。

ヤヨイ

そうですね、大事な時間にお邪魔しました。

ヤヨイ

じゃあ、赤ちゃんのお世話頑張ってくださいね。

アスカ

ありがとう。

～1か月後～

アスカ

あなた、明日にはそっちに帰るわ。

アスカ

父が車で送ってくれるとは言ってるけど。

アスカ

本当に迎えに来られないの？

アスカ

車の3時間の距離って、父にとっては結構な負担なんだけど…。

ヤマト

ああ、そのこと？

ヤマト

お義父さんには申し訳ないけど、明日は無理だな。

ヤマト

仕事が立て込んでてさ。

アスカ

そう…。

アスカ

前からこの日に帰宅するって決めていたのに、

アスカ

どうしても無理なのね？

ヤマト

なんど聞かれても、無理な物はムリだよ。

ヤマト

そんなにお義父さんに申し訳ないっていうのなら、

ヤマト

1人で電車で帰ってこればいいじゃないか。

アスカ

なに言ってるのよ。

アスカ

1人で新生児を抱えて、両手に荷物を持って出かけるのが

アスカ

どんなに大変か、知らないからそんなに軽く言えるのよ！

アスカ

一日に何回も授乳しなきゃいけないし、

アスカ

オムツ替えも頻繁だし、何度も泣くのよ？

アスカ

想像しただけで疲れちゃうわよ。

ヤマト

そんなに大変なら、もっと実家にいればいいじゃん。

ヤマト

別に、お前がいなくても何も不便はないし。

ヤマト

なんなら、1人のほうが気が楽だもんな。

アスカ

そんなに長く家をあけるわけにはいかないわよ。

アスカ

それに、あなたにも早く子育てに慣れてもらわないと、困るわ。

アスカ

私が復職したあとは、あなたにも協力してもらわないとやっていけないんだから。

ヤマト

協力って言ってもさぁ、保育園に預けるんだろう？

ヤマト

俺は毎日帰宅が遅いし、やれる事なんてほとんどないぜ？

アスカ

そんなことないわよ！

アスカ

娘のミヤが熱を出したら、私たちのどちらかが会社を休むのよ。

アスカ

そういう時、子供のコトが何も分かってなかったら、困るのはアナタでしょ。

ヤマト

何を言ってるんだww

ヤマト

子供が体調を崩したら、休むのは母親のお前のほうに決まってるよ。

アスカ

え？

アスカ

なんで私だけ？

ヤマト

当たり前だろう。

ヤマト

俺は一家の大黒柱だから、そう簡単に仕事は休めない。

ヤマト

それに比べて、お前はお気楽な時短勤務なんだから、休みやすいだろ？

アスカ

ちょっと勝手なコトを言わないで。

アスカ

私、ヒマつぶしに働くワケじゃないのよ。

アスカ

休んだらそれなりに同僚にも迷惑を掛けることになるのよ。

アスカ

そんな簡単に言われたら困るわよ。

ヤマト

なんだよ、めんどくさいなぁ。

ヤマト

これだから女は面倒なんだ。

アスカ

はい？

ヤマト

子育てを理由に、すぐ人に頼ろうとするなよ。

アスカ

人に頼るって…あなた、父親でしょう？

アスカ

父親として、夫として最低限のコトもしてくれないの？

アスカ

今だって私は産休中なのに、生活費も完全に折半だし

アスカ

出産一時金が出るとはいえ、入院費用も全部私が出したよ？

アスカ

おまけに赤ちゃんのための物も全部私が買いそろえたわ。

アスカ

つまり、全部私が子供のコトをやっていて、あなたは何にもしてないじゃない。

アスカ

実家にお迎えに来るくらい、やってくれても良いと思うんだけど。

ヤマト

はあ？何を好き勝手なコトを言っちゃってんの。

ヤマト

俺は別に、子供を産んでくれなんて頼んでないし。

ヤマト

お前が産みたいっていって産んだんだから、

ヤマト

子供に関する金を出すのは当然のことだろ！

アスカ

なんですって。

アスカ

信じられないわ。

アスカ

子供が勝手に出来たと思ってるの？

ヤマト

悪かった、言い過ぎたよ。

ヤマト

帰ってきたら、少しは手伝うからさ。

アスカ

手伝い…？

ヤマト

そうだよ。まあ、帰ったらな。

ヤマト

義父さんには申し訳ないけど、よろしく言っといて。

アスカ

え、ちょっと。

ヤマト

じゃ、俺まだ仕事中だから。

アスカ

仕事中って…もう夜の10時よ。

アスカ

そんなに忙しい仕事じゃないはずなのに…。

アスカ

ほんと信じらんないわ。

～翌日の夜20時～

アスカ

ヤマト、今帰ったところだけど…。

アスカ

今どこにいるの？

アスカ

私が帰ってくる日に、家にいないってどういうコト？

アスカ

父も怒ってるんだけど。

アスカ

おまけに家の様子もなんかおかしい。

アスカ

どういうことなの？

ヤマト

ああ、おかえりアスカ。

ヤマト

ちょっと友達と飲みに出かけているんだ。

ヤマト

独身貴族も今日で終了って思うと、名残惜しくてさww

アスカ

独身貴族って…。

アスカ

本当に父親の自覚ゼロね。

アスカ

里帰り出産中も、一度ミヤの顔を見に来てくれただけで

アスカ

あとは一度も来てくれなかったし…。

ヤマト

遠くて大変だからさ。

ヤマト

それに義実家って気を使うだろ？

ヤマト

行くのも気が進まなかったんだよなぁ。

アスカ

その遠くて大変な距離を、70歳の父が運転して

アスカ

私とミヤを送り届けてくれたんだけどね？

アスカ

せめてお礼を言おうとか思わなかったの？

ヤマト

だって、送ってもらったのはお前だろう？

ヤマト

俺が礼を言うのって、なんか変じゃね？

アスカ

ヘンじゃないわよ。

アスカ

本来なら、私達を連れて帰るのも、あなたがやるべき事なんだけど。

ヤマト

ああ、そうだね。

ヤマト

義父さんは泊っていくんだろう？

アスカ

そうよ。今から帰ったら夜中になっちゃうからね。

アスカ

父には一晩泊まっていってもらうつもりよ。

ヤマト

それなら、俺はもう少し飲んでから帰るよ。

ヤマト

それで、明日の朝お礼を言うわ。

アスカ

はぁ？

ヤマト

だから、飲んでから帰るって。

アスカ

…よくそんなウソが抜け抜けと言えたわね。

アスカ

飲み会なんて嘘でしょ。

アスカ

今、女と一緒でしょ？

ヤマト

へ？

ヤマト

急に何言ってんの？

ヤマト

俺は友達と飲んでるんだよ。

アスカ

良く言うわねww

アスカ

私のタンスに、買った覚えのない下着がしまってあったんだけど。

ヤマト

え？なんだって！

アスカ

それにお化粧用のドレッサーには、私の物じゃないメイク用品が入ってるし

アスカ

シューズボックスにも真新しいヒールがしまわれてたわ。

ヤマト

な、何を言ってるんだよ!

ヤマト

出産前に自分で買ったのを忘れてただけだろう！

アスカ

あんたバカ？

アスカ

本当に何も分かってないわね。

アスカ

赤ちゃんがいたら、ヒールの高い靴なんて履けないものなの！

アスカ

それに私、こんな成分の強い化粧品なんて買わないわ。

アスカ

つまりこれは、アンタが浮気している何よりの証拠よ！

ヤマト

いやいや、俺は浮気なんてしてないってば。

ヤマト

なにかの間違いだよ…。

アスカ

出産で里帰りする前から、おかしいと思ってたのよ。

アスカ

急にお金を出し渋るようになったし、

アスカ

休日出勤とかしているわりには給料も、休出手当が付いてないしね。

ヤマト

そ、それは代休をとってたからだよ。

アスカ

あなたがそうやってごまかそうとするのも、想定の範囲内よ。

アスカ

ちゃんと証拠、掴んでますから。

ヤマト

え？

アスカ

実は家の寝室に、小型のベビーモニターを仕込んでおいたのよ。

アスカ

小さくて隠しやすかったから、とても役に立ったわ。

ヤマト

ま、まさかお前、隠し撮りしてたのか！

ヤマト

なんて陰湿な奴なんだ！

アスカ

いやあね。赤ちゃんが産まれた時に、役に立つと思って買っておいたのよ。

アスカ

機能性も確かめられたし、あなたの浮気の証拠もつかんだしで

アスカ

一石二鳥だったわ。

ヤマト

ウソだろう、本当にそこまでするなんて…。

アスカ

誤解しないでね。私は子育てツールの機能を確認しただけだから。

アスカ

遠隔操作で画像も確認出来るんだから、ほんと便利よね。

アスカ

おかげで、浮気相手が同僚のヤヨイだってことも分かったわよ！

ヤマト

マジか…。

アスカ

ここまで分かった事だし、あなたはもう帰ってこなくていいわよ。

アスカ

そのままヤヨイの家に住ませてもらいなさいな。

アスカ

内容証明はすぐ送って差し上げますから！

ヤマト

ちょ、ちょっと待ってくれよ。

ヤマト

ちょっと浮気しただけで離婚とか…冗談だよな？

ヤマト

子供が産まれたばかりで気が立ってるだけなんだろ？

ヤマト

ほら、産後ガルガル期ってやつ。

ヤマト

ほんの出来心だからさ、許してくれるよな？

アスカ

いいえ。無理よ。

アスカ

このLINE、父も見てるけど…。

アスカ

アンタのコト、クズ野郎って言ってるわねww

アスカ

反省うんぬんの前に、もう生理的に無理。

アスカ

離婚一択よ。

ヤマト

そんな、ちょっとまってくれ。

ヤマト

こんな急に離婚とか、冗談だといってくれ。

ヤマト

俺にも心の準備というものが…。

アスカ

あら、浮気した時点で心の準備は出来てたんでしょ？

ヤマト

ちがう、ヤヨイとはただの火遊びだ！

アスカ

あら、ヤヨイもそばにいるんでしょうに、そんなコト言っちゃって平気？

アスカ

まあ、私には関係ないけどね。

ヤマト

俺はお前とは別れない！

ヤマト

ちゃんと子育てもするから、許してくれ。

ヤマト

頼む、家に帰らせてくれよ…。

～後日談～

アスカ

ヤマトはあのあと、すぐ家に帰ってきました。

アスカ

でも私はもちろん、一緒にいた父も大激怒！

アスカ

家にあがるなり、ヤマトは土下座して謝ってきました。

アスカ

でもこちらは新生児がいる身です。

アスカ

いつまでも押し問答するのも疲れるので、

アスカ

父と協力して、家からつまみ出してやりました。

アスカ

そして、家にある必要な物をすべてかき集め、

アスカ

私の実家に宅配便で送ったのです。

アスカ

夫とはもう、一緒に暮らすつもりはなかったからです。

アスカ

実家にまた戻った私は、産まれたばかりの娘と両親とで平和に暮らしています。

アスカ

離婚に関しては、知人の弁護士に依頼したので、じきにカタがつくでしょう。

アスカ

ヤマトもヤヨイも、私の同僚でもあるので、

アスカ

不倫で離婚騒動になっていることは、職場でも噂になっているようです。

アスカ

2人とも、その噂のせいで肩身の狭い思いをしているとか…。

アスカ

でもつぐないはしっかりしてもらうつもりです。

アスカ

慰謝料も養育費も、娘のミヤのために必要なものですからね。

アスカ

離婚問題を決着させたら、私も職場復帰に向けて動くつもりです。

アスカ

職場の上司にも相談し、復職後は実家の近くに異動させてもらう予定なのです。

アスカ

人生色々ありますが、前向きに頑張っていこうと思います！

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タナカトシキ

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