あと1回鐘の音が鳴る前に時のゼンマイを巻かなければ時が止まってしまう
しかしその前に、親友のナルルが倒れた木に潰され瀕死の状態にあった
いつもは呼べば駆けつけてくれる神様も嵐に声がかき消され届かない
ムルル・デール

ムルル・デール
神様!

ムルル・デール
ナルルが木に潰されて血が止まらないんだ!

ムルル・デール
助けに来てくれよ!

ムルル・デール
なあ!

ムルル・デール
どうしたら…

ムルル・デール
どうしたらナルルは助かるんだ…!

ムルル・デール

ムルル・デール
(今から神様の元へ急いで行けば)

ムルル・デール
(ナルルは助かるだろうか?)

ムルル・デール
(いや
往復で2時間はかかる)

ムルル・デール
(その間にナルルは死んでしまうかもしれないし)

ムルル・デール
(時のゼンマイを巻く作業もまだ残っている)

ムルル・デール
(ナルルはもう助からないんだろうか?)

ムルル・デール
(神様が僕らのことに気付いてくれたら)

ムルル・デール
(ナルルを治してくれるだろうに時間がない)

ムルル・デール
(神様
どうかこっちの異変に気付いて!)

ムルル・デール
(それまでナルルが無事でいてくれたら…)

ムルル・デール

ムルル・デール
そうか!

ムルル・デール
時間を止めればいいんだ!

ムルル・デール
時のゼンマイを巻かなければいいんだ!

ムルル・デール
(時のゼンマイを巻かなければ時が止まる)

ムルル・デール
(神様なんだから時が止まっても動くことができるだろう)

ムルル・デール
(そうすればきっと
こっちの異変に気付いて助けに来てくれる!)

ムルル・デール
(ナルルは助かるかも知れないんだ!)

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
ゲホゲホッ…

ムルル・デール
ナルル
大丈夫か?!

ナルル・エピログ
ム…ムルル?

ムルル・デール
無理して喋らなくていいぞ!

ナルル・エピログ
ム…ルル

ナルル・エピログ
僕のことは放っておいて

ナルル・エピログ
時のゼンマイを巻きに行きなよ

ナルル・エピログ
大切な仕事なんだから…

ムルル・デール
大丈夫だ

ムルル・デール
時はいったん止める!

ムルル・デール
ゼンマイを巻かなかったら

ムルル・デール
ナルルを助けるための時間ができるんだよ

ムルル・デール
だからもう安心しろ!

ナルル・エピログ
ダ…メだよ

ナルル・エピログ
僕なんかの都合で時なんか止めちゃ…

ナルル・エピログ
僕らの仕事は時を欠かさず動かすためにゼンマイを巻くことだ

ナルル・エピログ
時を止めるなんてその使命に反するし

ナルル・エピログ
世の理にも反しちゃうよ…

ムルル・デール
そんなこと関係ないだろ?!

ムルル・デール
今はお前の命のほうが大事だ!

ナルル・エピログ
ダメだって
…そんなことしちゃ

ナルル・エピログ
神様に怒られるよ?

ムルル・デール
怒られたっていい!

ムルル・デール
俺たちに課せられた使命なんてどうだっていい!

ムルル・デール
だから二人で…

ムルル・デール
二人で一緒に怒られよう…!

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
ハアハア…

ムルル・デール
(大丈夫だ)

ムルル・デール
(今のお前の状態も
この冷たい雨風も)

ムルル・デール
(もうすぐやってくる12回目の鐘の音とともに鎮まるからな!)

ムルル・デール
(もうちょっと…
もうちょっと耐えてくれ…!)

12回目の鐘が鳴る。嵐の中でもこの鐘の音は響き渡る
ムルル・デール

ムルル・デール
(どうなったんだ?)

ムルル・デール
(時は止まったのか?)

ムルル・デール
(今は再び時が動き出している)

ムルル・デール
(神様は来てくれたのかな?)

ムルル・デール
(ナルルを治してくれたのかな?)

ムルル・デール
(ナルルを治してくれたんだよな、神様?)

ムルル・デール

ムルル・デール
(だったらなんで)

ムルル・デール
(ナルルは木に潰されたままなんだよ!)

ムルル・デール
(だったらなんで)

ムルル・デール
(ナルルの血が止まってないんだよ!)

ムルル・デール
なあ神様!

ムルル・デール
なんでナルルは助かっていないんだ!

ムルル・デール
12回目の鐘は鳴ったよな?!

ムルル・デール
時は止まったんだよな?!

ムルル・デール
神様が来てゼンマイを巻いてくれたから

ムルル・デール
こうして再び時が
動き出したんだよ
な?!

ムルル・デール
かみさまあ!!

ムルル・デール
どうなっているん
だ!!

ムルル・デール
返事をしてくれ
!!

嵐は過ぎ去った。所々にいた虫たちが外に出て活動を始めている
神様

神様
すごい雨だったのう

神様
小枝から流れ落ちる雫が

神様
顔にかかって冷たいわい

神様
雨に濡れるのは嫌なもんだ

ムルル・デール

ムルル・デール
なあ神様?

神様
どうした?

ムルル・デール
まさか雨に濡れるのが嫌で外に出たくないから

ムルル・デール
ナルルを助けに来なかったのか?

神様

神様
そんなことではない

ムルル・デール
じゃあどうしてだ!

ムルル・デール
どうしてナルルを助けてくれなかった!

ムルル・デール
お前が来ていたらナルルは助かっていたのに…!

そういって、ムルルはナルルの顔にかかった雫をぬぐった
神様
ナルルはどうしたって助からなかったよ

ムルル・デール
どうして?

神様
わしがそのように創ったからだ

ムルル・デール

ムルル・デール
どういうことだ?

神様
ナルルはわしがお前に絶望を与えるためだけに創ったということだ

ムルル・デール
…意味が分からない

神様
お前は時のゼンマイを巻かなかっただろう?

神様
時が止まったかどうか気にならんか?

ムルル・デール
そんなこと気にしてどうする?

ムルル・デール
俺は時のゼンマイを巻かなかった

ムルル・デール
だから時は止まったんだろう?

神様
いいや
時のゼンマイを巻かなくても

神様
時は変わらず動き続ける

ムルル・デール
何を言っている?

神様
時のゼンマイを巻くことが

神様
時を動かす動力になると言う話

神様
あれは全部嘘だ

ムルル・デール
は?!

神様
お前らが毎日時のゼンマイを巻きに行かなくても

神様
変わらず時は動き続けられたんだ

神様
そもそも時は何者にも干渉することができない

神様
神様であるわしでさえもな

ムルル・デール
じゃあ
どうしてそんなこと俺らにさせたんだよ?!

神様
それがお前の罪の償いだからだよ

神様

神様
ムゲニ・シェパード…!

ムルル・デール
…!

ムルル・デール

ムルル・デール
ハアハア…

神様
思い出してきたか?

神様
大量殺人鬼ムゲニ・シェパード?

ムルル・デール
あああああああ…

神様
お前は前世で大量の罪のない人間を殺してきた

神様
隣人たちの最愛の妻や夫

神様
愛する子供や大切な友人まで

神様
お前は何の理由もなしに殺していったんだ

ムルル・デール
あああああああ…

神様
死刑が下されるまでに

神様
お前は実に何十もの命を奪った

神様
前世のお前は神も他人も信じず

神様
一人で生きているような奴だった

神様
お前が死に
お前の罪の重さを分からせようと

神様
わしはナルルという一番の親友を与えてやった

神様
時の管理をするという生きる意味も与えてやった

神様

神様
この瞬間
お前から奪ってやるためにな

神様
ナルルの事故もわしが仕組んだことだ

ムルル・デール
あああああああ…

神様
お前が無慈悲に人の命をもてあそんだ

神様
その罪の深さを理解するといい

神様
からかい半分ですべてを奪われた者の

神様
辛さと悲しさをかみしめるといい

ムルル・デール
あああああああ…
