ヴァイオリンの音が鳴り響く。
月光に照らされて、淡く、淡く。
楽器が潮風に当たるのは望ましくないはずなのに、そんなの何一つ気にしない、そんなひと。
黒と白のモノクロが、誰よりも似合うひと。
そう言ったら困ったように笑って、冬場で少しかさついた唇が蠢いた。
私がぐっと押し黙ればまた困ったように笑って。
ね?と唇に指先を当てた彼の指はひどく白い
ああ、ほらまた困った顔をして。
私に押し負けた、みたいな顔をしてさ。
ピアノが似合う、モノクロの貴人。
仮面を被った、嘘まみれの貴人。
高らかに嗤う彼は今までで一番楽しそうで。
ボロボロのマントも、割れかけてる仮面から覗く金の瞳も、普段完璧に着こなしている大きな帽子も、今は何よりも不格好なのに
きみはこの日の為に生きていたんだね。
いつも生気が感じられない陶器のような頬は紅潮して、紡ぐ言葉の為にかさついた唇を舐めて、絶対誰にも見せなかった仮面の下の金の瞳をぎらつかせて。
紳士の仮面を剥ぎ取った気分はどう?
少しはその、決して潰えることのない飽くなき探究心が満たされると良いのだけれど。
かさついた唇を、舐る。
どうしようもなく、頬に熱が集うのを感じる。
ゆったりと、舌舐めずりをして、
声帯が鳴る
蒐集番号 Ⅰ:リュグナー
物腰柔らかな男性。 月夜とピアノと海が似合う男性。 世界一の嘘つきな男性。 死にながら生きているような男性。 ひどく胡散臭い男性。
どこか歪んでしまった男性。 なにか失ってしまった男性。 なぜか愉しそうだった男性。
あなたの為の、暗転。
調子の外れた、ひどく優しい鼻歌。
目を細めて上を見上げるのはひとりの男性。
「月こそがワタシのスポットライトに最も相応しいでしょうに」なんて不貞腐れたように呟く男はなんだか幼く見える
かっ、かっ、かっ。
踵の上がった靴から甲高い音が響き、虚しく反響する。
咳払いを、ひとつ。
かさついた唇を舐り、にやりと仮面を手にとって。
リュグナー
頬に熱が集う
リュグナー
頭に霧がかかる
リュグナー
綺羅星が弾ける
これにて幕引き。
コメント
3件
この後「私優しいので」て言ってるのが脳内再生される(?) すげえ……語彙力高すぎて怯える() 月夜が似合う男に悪い男はいないからね(※そんなこともない) 仮面って、いいよね(?)
わたしは死神と烏学園長に全てを狂わされてることがよくわかるよね