テラーノベル
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オレンジ色に染まり始めた教室。 窓から差し込む西日が、埃をキラキラと反射させている。 俺は自分の席に座ったまま、ぼんやりとその光を眺めていた。
桜
熱があるわけじゃない。 ただ、節々の力が抜けるような、それでいて神経の裏側が逆撫でされるような、落ち着かない感覚が続いている。
楡井
楡井がいつもの明るい声で話しかけてくる。 隣には、相変わらず飄々とした笑みを浮かべた蘇枋。
いつもなら「行く」と即答していただろう。 だが今は、喉の奥が妙に強張って、言葉を紡ぐことすら億劫だった。
桜
やっとの思いで絞り出した声は、自分でも驚くほど低く、掠れていた。 何かを察したのか、蘇枋の細められた瞳が一瞬だけ鋭くオレを射抜く。
蘇枋
蘇枋の目を見た楡井も察したらしい。
楡井
桜
キーンコーン、カーンコーンと、チャイムが鳴り響く。 同時にクラスメイト達が教室から出ていった。楡井と蘇枋もその人波に流され、帰っていった。
桜
重いため息がこぼれた。 ようやく重い腰を上げ、一歩を踏み出す。 膝が笑い、歩き方は酷くぎこちない。 視界が少しずつ、熱を帯びたように滲み始めていた。
誰にも見られないように、逃げるように廊下へ出る。
リン……。 微かに、耳元で音がした。 首に巻き付いた、ブルーグレーのチョーカー。 そこに揺れる小さな鈴が、俺の動きに合わせて頼りなく鳴る。
桜
普段は気にならないこの音が、今日はやけに頭に響く。
階段を降りる足取りは、一段ごとに重さを増していく。
校門を出て、人混みを避けるように裏道を抜けた。 目的地なんて、最初から一箇所しかない。
家(ボロアパート)に着いたその時。 錆びた階段にに背を預け、飴をくわえて、退屈そうにスマホをいじっている男の姿が目に入った。
すぐにオレに気づいて、そばまで来る。
梶
自身の名前を呼ばれた瞬間。 張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。
...ドクン
桜
膝から崩れ落ちる。 だが、地面の硬さを感じる前に、強い腕が俺の体を横から強引に引き寄せた。
梶
耳元に降ってきた、低く、絶対的な響き。 鼻先をかすめる、重厚な「Dom」の匂い。 その瞬間、俺の体はこれまでにないほど激しく脈打った。
風邪じゃない。疲れでもない。 この一週間、俺の体が、細胞のひとつひとつが、この男に屈服し、支配されることを待ちわびていたのだと。
Subとしての本能が、主を見つけた歓喜をあげた。
桜
うまく回らない舌で、しがみつくように彼のシャツを掴む。 首元の鈴が、助けを求めるように激しく鳴り響いた。
コメント
1件
本当は右折に表紙を描いていただいていたのですが、どうやら消えてしまったらしく、今回は無しとなりました。長く待っていただいた皆さんには本当に申し訳なく思ってます。ごめんなさいm(_ _;)m ゆっくり投稿とはなりますが、気長に待っていただけると幸いです。