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緑 。
緑 。
教室で声をかけてきたのは、いつものように無邪気に笑う緑だった。
小学校からずっと一緒の、幼なじみ。
隣の席に座るのも、もう自然なことのように思えていた。
桃 。
桃 。
緑 。
緑 。
その瞬間、胸の奥がちくりとした。
橙。緑が今、気になってる子。
私がこの気持ちに気づいたのは、いつからだったんだろう。
きっと、あの子の名前を緑が何度も口にするようになった頃だ。
桃 。
平然と笑って返したけど、声が少し震えてしまった気がする。
緑は気づいてない。
いつだって、無邪気で鈍感なまま。
放課後、二人で並んで歩く。
風が髪を揺らして、緑の横顔をちらりと見た。
目尻に浮かぶ笑い皺。
中学の頃より、少し大人っぽくなった横顔。
好き。ずっと好きだった。
だけどそれを言ってしまえば、今の関係が壊れてしまう。
笑い合えるこの時間が、失われるかもしれない。
緑 。
不意に聞かれたその言葉に、足が止まりそうになった。
桃 。
緑 。
緑 。
桃 。
振られてない。
だって、まだ何も伝えてないから。
伝えられるはずがない。
緑 。
緑 。
その先の言葉を遮るように、私は歩き出した。
聞きたくなかった。
緑の口から、あの子の名前が出るのが怖かった。
桃 。
緑 。
いつも通りの笑顔で走ってくる緑。
その笑顔が、いちばん胸に痛い。
私だけが、一人で走れない。
好きな気持ちが、足を重くしていく。
隣にいるのに、どんどん遠くなるような気がした。