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クレープ屋の前は、思ったより人が多くて、緑と私は少しだけ列に並んだ。
夕方の風は少し涼しくて、制服の袖を揺らした。
緑 。
緑 。
桃 。
桃 。
そう返すと、緑は小さく笑った。
緑 。
緑 。
あぁ、こういうところだ。
何気ない一言で、心を乱してくる。
桃 。
緑 。
緑 。
結局、ふたりで違う味を買って、近くのベンチに腰掛けた。
クレープの包みを開くと、苺の甘酸っぱい香りがふわりと立ちのぼる。
緑 。
緑 。
桃 。
緑 。
口元に自分のクレープを差し出す緑。
抵抗する間もなく、私は一口差し出された。
桃 。
緑 。
緑 。
こうやって、距離を詰めてくる。
何でもないふりして、簡単に心の内側に入ってくる。
でも_それは、きっと誰にでも同じ。
私だけ特別じゃない。
桃 。
言いかけて、言葉が詰まった。
今日こそ言おうと思ったのに。
胸の奥に抑え込んできたこの気持ちに、やっと名前をつけようとしたのに。
緑 。
……やっぱり、間に合わなかった。
クレープの甘さが、急に苦くなった気がした。
口の中に残る苺の香りが、やけに胸に染みた。
桃 。
どうして、そんな笑顔で言えるんだろう。
自分でも不思議だった。
喉の奥が詰まっているのに、口だけは勝手に動いていた。
緑は、嬉しそうに笑った。
緑 。
うん、応援する。
だって私は、「幼なじみ」で、「友達」だから。
この気持ちに、名前をつけるなら__
"片思い"。
それも、誰にも知られない、静かな痛み。