天馬宅
わぁ……✨️
司
適当に座ってくれ。
うん♪
司
怪我してるんだろ。見せてみろ。
ああ、分かったよ。
そう言うや否や、なんの躊躇いもなく上裸になった。
司
ばッッッッッ!?!?
え?
慌てて後ろを向き、その体を見ないよう努めた。
司
すまん!!今のはオレが悪かった!!
えっと…見てもいいよ?神主くんなら。
司
やめろッ!!!
司
え、えっと……お前、男なんだろう?せめて男になってくれんか…?
えっ
そ、それは……
は、恥ずかしいからちょっと…
司
どこに羞恥を感じるのか全く分からんのだが!?
うぅ…男の何の魅力も無い体なんか君に見せたくないよ…
司
いや、しかしだな…その姿じゃ治療するに出来ん、
いいよ、見ても。人間の男はこの体好きだろう?
司
好き……ではないとは言いきれんが!!
司
とにかく頼む!!
…
き…嫌いにならないでね。
司
ならんならん。
…分かったよ。
い、いいよ。
司
おお。
…
司
……あんまり変わってないが。
どこがさ。
司
髪が短くなって、胸が無くなっただけじゃないか。
「だけ」って…
…それより、これでもう脱いでいいのかい?
司
ああ。
…本当は見せたくないけど、
……はい。
司
……ほぅ、
正直、恥じらいながら脱ぐ様は女姿の時よりも……というのはここだけの秘密だ。
司
随分と派手にやったな。
妖の体は左半身が酷く抉れており、中々にグロい。
ああ…少しね。
司
じっとしてろよ。
巻物に書いてある通りに印を組み、術を唱えた。
司
ゼェ、ゼェ…これ、中々に体力を使うな…
も、もう大丈夫だよ!ありがとう。あとは自分で治せるよ。
司
ああ、そうしてくれ。
…も、もう戻っていいかな?
司
む、戻ってしまうのか?
だ、だってこの姿恥ずかしいし…
司
オレはそっちの方が好きだがなぁ
!!
…〜〜〜
司
(オレが好きならこの姿でいたいが、やっぱり恥ずかしいからどうしよう……みたいな顔してるな。)
…本当にこっちの方が好きなのかい?
司
ああ。
…そう。
司
(結局その姿でいるのか…)
司
…茶でも出そう。
あっ、それなら僕が…
司
一応怪我人なんだ。そこで休んでろ。
あ…うん。
司
("僕"…さっき"僕"って言ったか!?)
司
(クソ…妖のくせに…)
司
(……ちょっと、本当にちょっとだけ可愛い…っ)
司
待たせてすまな…
司
!?
ぐちゃぐちゃになった洗濯物が床に散らばっていた。
司
な、な……っ?!?!
あっ…ご、ごめんなさいっ!
司
いやいや、どうした?!
これ、外に干されてて…雨の匂いがしたから、取り込んで畳もうと…
で、でも僕、衣服を畳んだこと無くて…
ぐ、ぐちゃぐちゃにしちゃった…
司
…
ごめんなさい…嫌いになったかい…?
司
(……クソ、)
司
(ちょっと!!ちょっとだけ可愛い…っ)
司
はぁーーー…
あっ…ご、ごめ…
司
いい。お前なりの善意なんだろう。
司
ありがとう。気持ちだけで十分だ。
僕のこと、嫌いじゃない?
司
ああ。
じゃあ好き?
司
うーん…
ふふ、冗談さ。
お茶、ありがとう。
司
あ、ああ。これはオレが畳んでおくからそれ飲んで待ってろ。
うん。
神主くん、お名前なんて言うんだい?
司
ん?あぁ、天馬司だ。
司
えっと…字はこう書く。
天馬司……ふふ、いいお名前だねぇ
ねぇ、司くんって呼んでもいいかな?
司
好きにしてくれ。
ふふっ、司くん♡
司
(嬉しそうにしおって…)
司
…お前の名前は?
僕かい?
……ふふっ
類
類って言うんだ。字はこう書くよ。
司
ほぅ…類か。
司
いいな。綺麗な響きで。
類
ふふ、だろう?僕も気に入ってるんだ。
司
ふぅん…
翌日
司
Zzz...
司
……パチ
司
(ふわ……今何時だ?)
司
(む、類がいない……)
司
(……しかも、何か焦げ臭いような、)
司
ま、まさか…っ
司
類っ!!!
類
あっ、おはよう司くん♪
司
!?
机には酷く焦げた食材が並べられていた。
司
る、類……?こ、これは一体…
類
えへへ…泊めてもらったお礼に、朝餉を作ってみたんだ。
司
あ、朝餉…??!
類
人間の味覚が分からないから、美味しいかどうかは分からないんだけど…
司
(これは…少なくとも食欲はそそらん見た目だが…)
類の手をよく見てみると、たくさんの傷口がある。
司
…
司
…戴こう。
類
う、うん!
司
…
類
ど、どう…?
口に入れた妖の手料理は、思った通り苦かったが、ほんの少し甘かった。
司
正直に言うと、美味くは無いな。
類
う"っ…や、やっぱり…
司
うむ。
類
…美味しくないのに、怒らないんだね。
司
む?怒るだと?
類
食材を無駄にするな、とか…こんな不味いもの食わすな、とか…
司
……言われたことがあるのか?
類
…
司
言っておくが、オレはそんな事じゃ怒らん
司
類なりに頑張ってくれたんだろう?むしろ嬉しいな。
類
司くん…
類
うぅ……本当にごめんね。君はこんなに優しいのに…僕は君に、美味しいご飯1つすらも作ってあげられないよ…
司
だから気にせんでいいと…
司
…いや、教えてやろうか?
類
え?
司
オレも料理くらい出来るし、教えてやってもいいぞ。
類
ほ、本当かい?教えて欲しい!
司
ああ。とりあえず、味噌汁と卵焼きくらいから教えてやろう。
司
まず、卵を割るんだ。
司
こうやって、角で軽く叩いてヒビを入れ、指を上手く使って割る。
類
えっと、角で軽く…
グシャッ
類
あっ!
司
……まずは力加減だな。
類
ご、ごめん…!また無駄にしちゃった、
司
構わん。これもまだ使えるからな。
司
優しく、潰さないように意識してもう1回やってみろ。
類
わ、分かった。
類
…あっ、割れた!出来たよ司くん!
司
おぉ!やるじゃないか!
司
(しかし…卵を割るだけで1時間要するとは…)
司
(先は長そうだな……)
類
ここからどうするんだい?
司
とりあえず、まずは適当に調味料を入れる。……うむ、このくらいでいいだろう。
司
そうしたら、こうやって箸を回して卵をとくんだ。
司
これも、力加減に気を付けるんだぞ。
類
わ、分かった!
類
こうかい?
司
お、いいじゃないか。
類
ふふ、段々力加減が分かってきた気がするよ。
類
この次はどうするんだい?
司
一番の難関だぞ。卵焼き器に卵を注いで、焼いてから巻くんだ。
類
お、おぉ…!難しそうだね、
司
まず手本を見せるから、よく見ておけよ。
類
うん!
類
あっ、巻けた!!司くん、これどう?
司
おぉ、今までで一番綺麗じゃないか!
司
(通算53回目……が、頑張ったな、オレ…)
類
ふふっ、これで完成かい?
司
あぁ…あとは、食べやすい大きさに切って完成だな。
類
食べやすい…って、どのくらいかな?
司
む…そうだな。このくらいでいいんじゃないか?
類
ふふっ、分かったよ。このくらいで切ればいいんだね。
司
って、おい待て。包丁の持ち方おかしくないか?
類
えっ、おかしいの?
司
下からじゃなくて、上から握るんだ。
類
えっと、こう?
司
ああ。お前、そんな怖い持ち方で朝餉作ってたのか…
類
う…包丁の持ち方なんて知らなくて…
類
でも、教えてもらったからもう出来るよ!
司
(包丁の持ち方も知らない、衣服も畳めない…という事は、今まであまり人間と関わったことがないのか?)
司
(てっきり、男を虜にさせて喰らっているものだと思っていたが…)
類
司くん、出来たよ!
司
ああ、いいじゃないか。
類
ふふ、ちょっと食べてみて。
司
うむ。
類
…お、美味しい?
司
ん、だいぶ美味いぞ!頑張ったな。
類
本当?よ、良かった〜…!!
類
あっ、でもまた司くんに手伝ってもらっちゃった…
司
む、ダメなのか?
類
お礼がしたいのに…
司
別に要らんのだが…
類
僕に出来ること…出来ること…
類
あっ、嫌いな人間や憎い相手はいるかい?祟るよ!
司
やめろ!?
類
えっ、ダメ…?じ、じゃあ、身体で…
司
もっとやめろ!!
類
う、うぅ…でも、僕に出来るのはそのくらいしか…
司
大人しくしていてくれ…それが一番嬉しい。
類
そんな事でいいのかい?
司
ああ。
類
分かったよ。なら、大人しくしてるね。
翌日
夜明け前
ガタンッ
司
む…?
類
あっ、ごめん。起こしちゃったかい?
司
どこへ行くんだ?
類
出ていこうと思って。怪我も治ったし。
司
…行くのか?
類
え?だ、だって迷惑だろう?
司
別に……ここにはオレしかいないし、
司
大人しくしてるなら…ここに居ても構わんぞ。
類
え…ほ、本当に?寝惚けてるだけだよね?
類
発言には責任を持たなきゃダメだよ〜…
司
…お前、どうせ出て行っても毎日ここに来るだろ?
類
え?まぁ…君が許してくれるならね。
司
なら、住んでも住まなくても同じじゃないか
類
え?す、住む…?
司
オレは別に構わんぞ…
司
Zzz……
類
え?!ちょ、寝るの?!
類
うぅん……起きたら追い出されるかもしれないけど…
類
起きるまでは…もう少しだけ、ここに居ようかな。
ツヅク