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切ない😢💓 この先どうなっていくのか気になりすぎます🍀*゜
永玖.
永玖が最後の箱にガムテープを貼りながら、 小さく息をついた。
小さな段ボールが3つ。 大きなスーツケースひとつ。 それが、俺たちの“2人の暮らし”のすべてだった。
永玖.
颯斗.
颯斗.
永玖.
永玖は笑ってそう言ったけど、 その笑顔の奥が少しだけ寂しそうだった。
颯斗.
俺も笑おうとしたけど、うまくできなかった。
——この部屋での生活、全部覚えてる。 朝、永玖が寝ぼけた声で 「おはよ」って言ってきたこと。 一緒に作ったカレーが焦げて笑い合ったこと。 夜、永玖が寝る前に「颯斗〜」って 俺の腕に顔を埋めてきたこと。
どれも小さな出来事だけど、 俺にとっては全部、宝物だった。
永玖はスーツケースを持ち上げた。 俺は慌てて横から持ち手を取る。
颯斗.
永玖.
颯斗.
永玖.
玄関まで歩く間、言葉が少なかった。 でも沈黙のひとつひとつが、 痛いくらい愛おしかった。
颯斗.
永玖.
颯斗.
永玖の目が少し潤んでいた。
永玖.
永玖が小さく笑って、俺の胸に顔を寄せてきた。 抱きしめると、体温が伝わってくる。 柔らかくて、切なくて、離したくなかった。
永玖.
永玖が耳元でそう言った。 俺は何も言えなかった。
沈黙のあと、永玖がそっと体を離した。 スーツケースの持ち手を握って、小さく息を吸う。
永玖.
颯斗.
ドアが静かに開いて、光が差し込む。 永玖の背中がその中に溶けていく。
手を伸ばしたかった。 けど、伸ばしたら終われなくなる。 だから、ただ見送った。
永玖がエレベーターに乗って見えなくなった瞬間、 静かにドアを閉めた。
颯斗.
崩れ落ちるようにその場に座り込む。 堪えていた涙が、一気に溢れた。
颯斗.
名前を呼ぶたび、胸が締めつけられる。
昨日まで、並んでいた鍵。 今は、ただ“余った鍵”としてそこにある。
指でそれを撫でる。 冷たくて、でも確かに永玖のぬくもりが 残ってる気がした。
——永玖がここにいた証。 この鍵だけは、絶対に手放せない。 永玖がいなくなった部屋は、静かで広すぎて、 息をするたびに胸が痛くなる。
それでも、永玖が笑ってくれるなら。 それだけで、いいんだ。