朝。 目が覚めると、まず最初にノートを開く。
『山下 永玖・〇〇大学の学生』 『記憶が1日でリセットされる病気』 『友達:直弥』 『直弥にだけ病気のことを言ってある』
ページをめくると、 小さなメモが貼ってあった。
『今日も笑顔で。大丈夫。』
読み終えて、深呼吸。
永玖.
ノートを閉じて、いつものように大学へ向かう。 通い慣れているはずの道も、毎日が“新しい”から、 毎回少しだけ緊張する。
講義室に入ると、友達の直弥が手を振ってきた。
直弥.
永玖.
いつもと変わらない笑顔。 それが、俺にとっての安心だった。
昼休み。 直弥が少し嬉しそうに近づいてきて言った。
直弥.
永玖.
直弥.
永玖.
直弥.
永玖.
その名前を聞いた瞬間、 胸の奥が少しざわめいた。 “颯斗”——どこかで聞いたことがあるような。 でも思い出せない。 いつものこと。だから気にしないようにした。
夜、待ち合わせの店。 直弥が手を振って、後ろの人を紹介する。
直弥.
颯斗.
その瞬間、世界が少しだけ止まった気がした。 照明の柔らかい光の中、 彼の目が俺のほうをまっすぐ見た。
落ち着いた声。 優しい笑顔。 知らないはずなのに、懐かしい。
永玖.
颯斗.
その“永玖くん”という響きが、 どこか懐かしくて、胸がぎゅっと締めつけられた。
直弥.
直弥が笑いながら言う。
永玖.
颯斗くんが優しく笑う。
颯斗.
永玖.
颯斗.
永玖.
颯斗くんが一瞬、息をのんだように見えた。 でもすぐに、いつもの穏やかな笑顔に戻った。
颯斗.
ご飯を食べながら、たくさん話した。 颯斗くんは優しくて、 俺の話をちゃんと聞いてくれて、 笑ったときの口元が、なんか可愛い。
食後、帰り道。 直弥は お兄さんに迎えに来てもらって帰ったから 今は2人きり。 夜風が少し冷たくて、颯斗くんが
颯斗.
って聞いてきた。
永玖.
颯斗.
そう言って、そっと俺の手を包んでくれた。
心臓が一瞬で跳ねた。 でも、不思議と怖くなかった。
——ああ、この温もり、 どこかで感じたことがある。 記憶の奥の、見えない場所で、 懐かしい景色が一瞬だけ光る。
わからない。 でも、 ただひとつだけ確かに思った。
永玖.
コメント
4件
凄くせつない…
忘れちゃってるの悲しすぎる😭😭 続き楽しみに待ってます ♪♪
本当に忘れちゃってるんだ.. ノートにも、颯斗くんのこと書かれてなかったし..!!泣