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これ……
俺、だよな
俺の目はある写真に釘付けだった
ブロンドに濃紅の髪を持つ
青年の横顔写真
長い髪を後ろで結いでいるが
この人物は間違いなく俺だ
おそらく
俺の被験者時代に
この実験施設で撮影されたものだろう
写真の中の俺は
とても楽しそうに笑っていた
俺にこんな顔ができたのかと感動すら覚える
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胸が張り裂けそうだ
かつての俺には
こんな笑顔を向けるほどの相手がいたのか
その人のことを忘れている自分にも
こんな笑顔が出来ない今の自分にも
心底腹が立つ
[ ]
少年が俺を見上げてそう言った
[ ]
[ ]
分かってないなあ
[ ]
それが良いんじゃねーか
自然と顔がほころぶ
俺の膝に座っている少年が
どんな顔をしていたのかは思い出せない
だが
彼の髪の感触だけははっきりと覚えていた
少し癖っ毛でふわふわ
そう、まさに
こんな感じの……
いるま
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俺はハッとした
飛んでいた意識を急いで引き戻す
気付けば俺は
いつの間にか隣に来ていたいるまの 頭を撫でていた
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いるま
気まずい空気が流れる
どうしよ、これ
話題、話題…
いるま
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そっちから話を振ってくるとは思わなくて
思わず声量が上がってしまった
いるまは驚きながらも
いるま
恐る恐るそんなことを聞いてくる
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俺は動揺し
顔を逸らした
なんでそんなことを?
それに…
顔は横向きのまま瞳だけを動かし
密かに彼の表情を覗き見る
なんでちょっと嬉しそうなの?
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暇72
いるま
いるま
俺のどっち付かずな返答に問いつめもせず
彼は笑顔で会話を終わらせた
こいつにはこういうところがある
人の話を深掘りしすぎない彼の気遣いは
正直ありがたい
「何か思い出した?」か………
ああ、思い出したよ
少しだけな
でも
あれは俺の記憶の断片
完全じゃない
だから、ごめんな?
詳しいことはまだ話せない
俺は心の中で謝罪する
全ての記憶が戻ったら
そのときは……
一番始めにお前に話すから
今は許せ
そこまで考えてから
俺ははたと思った
そういや俺
こいつのこと
駒扱いしてたんじゃなかったっけ
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乾いた笑いが脳内に響いた
そうだ
こいつは駒なんだった
駒相手に感謝?!
反吐が出る
…………じゃあ
じゃあなんで
いるまの変化に気付けなくて悔しい なんて思ったんだろう
なんで
楽しそうに話す彼らが羨ましい なんて思ったんだろう
___ッなんで
いるまを“親友”と呼んだのだろう
もう分んなくなってきちゃった
思考するごとに苦しさが増し
意図せず俯く
そのせいで俺は見逃したのだ
明るく振る舞った彼の瞳の奥が
寂しく揺れていたことを__
if
if
俺たちの間を割って入るように
いふさんが数枚の書類を見せてきた
とある人物たちの証明写真と名前が
ところ狭しと並んでいる
これって……
俺はその書類と壁の写真を交互に見つめた
間違いない
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書類に記載されている人々と壁の写真の彼ら
数人ではあるが
特徴が一致していた
if
いるま
if
いふさんが俺たちの顔を交互に見て尋ねる
しかしながら俺は
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静かに首を振ることしか出来なかった
if
俺も元被験者の一人だというのに
情けねー
何も覚えてないのはかなりの痛手である
そんな俺に対して
リストをまじまじと見るいるま
見知った顔があったのかもしれない
ここは彼に託して
他の情報を探すが吉だ
今俺ができることは……
俺は再び
壁に貼り付けてある写真へと目を移す
傾向さえ掴めれば
撮影された場所や実験の内容を
ある程度推測することは可能だ
それにしてもグロい
俺は何度も吐き気をもよおしながらも
必死に観察を続けた
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突如
俺の頭に一つの仮説が浮かぶ
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この部屋の構造
このライティングの違和感
間違いない
地下だ
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いるま
暇72
ブーーーーーーーー
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いるま
言葉が詰まった俺を
心配そうに見つめるいるま
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だが今の俺は
彼に返答する余裕を持ち合わせていなかった
俺の意識は既に別の方向へと向いていたのだ
いるま
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いるま
いるま
この反応……
俺にしか聞こえてない?!
一刻も早く状況を整理しようと
脳が高速回転する
今の俺が唯一分かること
それは
自分の耳が
凄まじい重低音に侵されていることだ
支配されていると言っても過言ではない
俺は神経を尖らせる
何かの攻撃か?
だとすれば何処から?!
いるま
耳…痛い
頭痛までしてきた
いるま
どうすれば消える?
どうすれば収まる?!
どうすれば…楽になれる?
いるま
いるま
駄目だ
俺の声、届いてない
俺の努力も虚しく
震える手で頭を押さえて目を閉じた彼は
自分の世界に入ってしまった
これは
切羽詰まったときやパニックに陥ったときに
彼がよく見せる行動だ
こうなってしまったが最後
俺の手には負えない
過去色々試してはみたが
効果を確認できた例は零である
あぁ…俺は無力だ
辛そうなこいつに
何もしてやれない
やるせなさに奥歯を噛み締める
せめて………
俺は彼に触れようと腕を伸ばした
人肌のぬくもりが
少しでも彼の助けになればと思ったのだ
驚かさないように…
慎重に…
あと、少し…!
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いるま
彼まであと数cmのところで腕が止まる
いるま
微かに発声した彼
気が付けば彼の震えは止んでおり
まっすぐにこちらを向いていた
頭を抱えるように押さえていた手も
自然体に戻っている
ん?自然体?
体の側面に沿うように
力なくぶら下がる彼の両腕
まるでゾンビ…
おかしい
こいつ、正気じゃない
催眠にでもかかったのか
彼は歩き始める
俺がいる位置とは反対の方向へ…
はやくあいつのもとに行かないと((焦
だが俺のこの思いとは裏腹に
俺の足は一歩たりとも動かなかった
いるま
何者かに後ろから肩をガッチリと 掴まれている
いるま
そこで俺はようやく異変に気づくことが出来た
何処だ、ここ
俺は先程まで確かに 写真のたくさん貼ってある不気味な部屋にいた
だというのに
目の前には何も無い
なつにしか目がいっていなかったせいで
周りの風景が変わったことにすら 気付かなかったのか俺は
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いるま
俺からどんどんと離れていく親友
やばい、なつ!!
行くな!!
今すぐにでも追いかけたい
………でも
いるま
いるま
俺は今
背後にいる何者かによって
実質拘束された状態にあり
一切身動きが取れない
一体誰なんだ………!?
だって、俺の“後ろ”には…!!
ピカッ
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突然の閃光によって 頭にかかった靄(もや)が晴れ
視界が良好になる
俺は目の前の光景に愕然とした
写真の部屋は……?
先程とは全く別の風景
俺は扉の無い奇怪な部屋の前に立っていた
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どうやってここまで来たのか…
そんなことを考える間もなく
俺は吸い寄せられるようにして 部屋へと足を踏み入れる
まず目に入ったのは
宙に浮かぶ無数のモニターだった
ザザーーーーッ
投影されている砂嵐のチラチラとした光が
室内を薄汚く照らす
やがて俺の視線は
部屋の中央部に向けられた
事務室に設置されてそうな長テーブルの傍ら
キャスター付きの事務椅子に
一人の人間が腰掛けている
無防備にも
こちらへ背を向けて__
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試しに一歩踏み出してみる
すると
ピタッ
砂嵐が止んだ
只々真っ白な画面が映し出されている
少し眩しい
しんと静まり返る室内
いかにも怪しげな雰囲気…
あそこに座ってるやつ
施設の人間、だよな
施設の人間ということは
実験の黒幕である可能性が非常に高い
“ターゲット”確認、と
俺は右腕を慎重に動かし
ターゲットの方へ突き出す
臨戦態勢だ
僅かな変化も見逃すまいと睨視する
[ ]
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ターゲットが動いた
腕を上げた際に生じた 衣擦れの音に反応したのか
将又(はたまた)俺の気配を察知したのか…
とにかくこちらの存在がバレたのは確かである
椅子から尻を浮かせて立ち上がるターゲット
俺は生唾を飲んだ
生ぬるい液体がゴクリと音を立て
喉を通過していく
普段なら気にも止めなかったであろう雑音が
今はとても煩わしく感じた
柄にもなく緊張しているらしい
ターゲットが振り向き
被っていたフードに手をかける
と思ったら
一気にそれを取っ払った
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か細い声が漏れる
俺は腕を突き出したまま
そこから一歩も動けなかった
激しく波打つ心臓
荒々しさを増す吐息
彼から、目が離せない
う、嘘だ……
そんなはずないッ……
心が叫ぶ
なんで、なんでなんでなんで?!
なんで貴方が…ッそこにいんだよ
“館長”
いや
____さんッッッ!