テラーノベル
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朝は来ていたのに、部屋はまだ夜みたいだった。 カーテンの隙間から入る光が、やけに白い。 あたしは目を開けたまま、しばらく動けなかった。
携帯が鳴っている。 表示は「愛」。 でも出なかった。 出たら、終わる気がした。
教室。 愛はいつも通りそこにいた。 リボンは完璧。 髪も整っている。 笑顔も同じ。
あい
呼ばれる。 でもその声が、今日は少し遠い。
あい
あい
あたしは笑おうとしたけどできない。
なつめ
愛は少しだけ首をかしげる。
あい
教室の音が、一瞬だけ遠くなる。 あたしは椅子の背を握った。
なつめ
愛は普通に笑う。 でもその笑い方は、もう前とは違う。
あい
言ってない。 でも言われていた気もする。
放課後。 誰もいない教室。 二人だけ。
あい
あい
あたしは立ち上がる。 足が少し重い。
廊下を抜けて、階段を降りる。 校舎の裏。 誰もいない場所。
飼育小屋。 もう使われていないはずの場所。 扉が開いている。
中は静かだった。 でも空っぽじゃない。 白い毛のぬいぐるみ。 壊れた檻。 乾いた匂い。
あい
あい
なつめ
愛は少しだけ笑う。
あい
なつめ
あい
その言葉は、問いじゃない。 確認。
あたしは息を吸う。
なつめ
愛はゆっくり首を振る。
あい
一歩近づく。
あい
全部を数えるみたいに言う。
あい
あたしは言葉が出ない。 愛は少しだけ優しい顔になる。
あい
あい
風が入る。 白い光。
あい
それは願いじゃない。 命令でもない。 ただ、 もう決まっていることみたいな声だった。 あたしは後ろに下がる。 でもどこにも行けない。
飼育小屋。 鍵はない。 扉は開いている。 逃げ道がないことに気づく。 愛は近づく。 でも触れない。
あい
あい
その言葉が一番怖かった。 あたしはようやく理解した。 うさぎは逃げたんじゃなかった。 最初から、 逃げられない場所にいた。 風が止む。 愛は微笑む。 そして静かに言う。
あい
そこで世界が少しだけ白くなった。
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