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花梨
148
休憩スペースに、重たい沈黙が落ちる。
横溝が、もう一つ資料を広げた。
復元されたカルテデータ。 十年前、“事故”として処理された患者の記録の改ざん前のものだ。深緒は食い入るように見る。
松田深緒
横溝重悟
深緒の指が、ある数値をなぞる。
投与時間。薬剤濃度。心拍低下のタイミング。 全部が、微妙にズレている。
松田深緒
空気が変わる。横溝が静かに頷く。
松田深緒
松田深緒
高木が目を見開く。
高木刑事
佐藤も息を呑む。
佐藤刑事
深緒は資料をめくる。点と点が繋がる。
被害者遺族。十年前の隠蔽。関係者連続殺人。全部。やっと。一本の線になった。
佐藤刑事が小さく呟く。
佐藤刑事
佐藤刑事
横溝重悟
目暮警部
佐藤刑事
高木刑事
目暮警部
横溝重悟
ーーーーー
神奈川県警と警視庁の合同捜査本部は、その後一気に動いた。 復元されたカルテ。改ざんされた鑑定データ。 10年前。事故だと処理されていたものは、実際には薬剤投与の確認ミスによる医療過誤だった。 被害者遺族は、その事実に辿り着いてしまった。だが病院側は責任を認めず、科捜研の鑑定結果も“機器の誤作動”を示していた。だから遺族は確信した。 ——警察も、病院も、全員グルだと。 そして、今回の犯行に及んだ。ただ一つ、犯人は思い違いをしていた。 警視庁科捜研所長。 彼は当時の事故と無関係であった。むしろ、前所長の悪事の真実を明かそうとしていた側だった。 その事実を知った時。犯人は、崩れるように泣いたという。
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会議に向かう刑事たちを見送り、深緒は自販機でココアを買った。 温かい。ぼんやり息を吐く。
その時。
降谷零
低い声。深緒が振り返る。
ビシッとしたスーツ。鋭い目。 降谷零だった。
周囲に人はいない。
松田深緒
降谷零
即答。 でも、声を荒げたりはしない。それが逆に怖い。
降谷は深緒の持つココアへ視線を落とす。
降谷零
降谷零
降谷零
淡々と並べる。
降谷零
松田深緒
少し迷って、深緒はゆっくり口を開いた。
松田深緒
降谷の目が動く。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
静かな声。深緒は俯く。
松田深緒
降谷は黙った。 責めるでもなく。すぐ否定するでもなく。ただ、深緒を見る。
松田深緒
深緒は小さく笑った。
松田深緒
降谷零
松田深緒
その瞬間。
降谷の表情が、ほんの少しだけ揺れた。
降谷零
急に空気が変わる。 笑顔を浮かべ楽しそうに話していた深緒は、息を飲んだ。
降谷零
降谷零
一歩、距離が詰まる。
降谷零
そこで初めて。降谷の声が少しだけ強くなった。
降谷零
深緒は唇を噛む。でも、胸の奥に溜まっていたものも、限界だった。
松田深緒
掠れた声。
松田深緒
降谷零
降谷零
即答。 その一言で、深緒の中の何かが切れた。
松田深緒
聞き取れない声だった。
降谷零
降谷が顔をしかめる。
深緒ははっきりと言い直した。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
強い。強い言い方だった。 降谷が続く。
降谷零
初めて、降谷の声が強く響く。廊下の空気が張る。
降谷零
降谷零
その瞬間。深緒の表情が変わった。
松田深緒
降谷の目が僅かに細まる。
松田深緒
声が震えていた。怒りなのか。悲しみなのか。もう深緒自身にも分からなかった。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
降谷零
松田深緒
松田深緒
呼吸が乱れる。感情が溢れる
松田深緒
深緒は止まれなかった。
松田深緒
降谷の目が、僅かに揺れる。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
言い切った瞬間。深緒自身の呼吸が止まる。 言い過ぎた。 そう思った。でも、もう遅い。
降谷は何も言わなかった。怒りもしない。ただ、静かに目を伏せただけだった。それが逆に苦しい。
松田深緒
絞り出すみたいな声。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
深緒は唇を噛んだ。
松田深緒
静かな声だった。
松田深緒
降谷零
松田深緒
松田深緒
松田深緒
松田深緒
降谷は、何も言わない。その目だけが、少しだけ揺れていた。
まるで。今まで見えていなかったものを、初めて見たみたいに。
長い沈黙が落ちる。
松田深緒
何も言わない降谷に、耐えられなくなる。
“伝わらなかった” と思った。
松田深緒
視線を逸らす。
松田深緒
それだけ言って、深緒は踵を返す。降谷の横を通り過ぎる。
止める声は無かった。
ただ、すれ違った瞬間。降谷の手が一瞬だけ強く握られたのが見えた。
深緒はそのまま走るように廊下を曲がる。 残された降谷は、しばらく動かなかった。