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7月の終わり

蝉の声がやかましく響く放課後

ゆゆは、ひとり校舎裏のベンチ腰かけていた。

膝の上にはプリントの束

横にはカバン。

冷たい麦茶のペットボトルに

水滴が伝っていく

ゆゆ

(うるさいな、蝉。)

心の中でつぶやいたその時。

マイキー

……おまえ、ここで何してんの?

不意にかけられた声に顔を上げると

制服の第一ボタンも留めず、

ネクタイもぐしゃぐしゃな

男が立っていた。

佐野万次郎。通称・マイキー。

同じ学校の、だけど

“全然別世界の人間”

ゆゆ

……勉強会の資料まとめてただけ。関係ないでしょ?

いつものようにツンと返しても、

マイキーは気にしない。

ニヤニヤと笑って、隣に座ってきた。

マイキー

へぇー、真面目ちゃんだなぁ。

マイキー

つかさ、今週の水曜、おまえ泣いてたろ?

ゆゆ

……は?

一瞬、心臓が跳ねた。

その日のことは

誰にも見られてないと思ってた。

あの日、屋上の隅っこで一人で

泣いていた。

大好きだった人に

彼女ができたのを知った日。

マイキー

…泣き顔、けっこー可愛かったよ?

ゆゆ

……っうるさい!最悪!

マイキー

ごめんごめん。

マイキー

でも、

マイキー

ほっとけなかっただけ

いたずらっぽく笑うマイキー。

でも、その瞳は思いのほか真剣だった。

ゆゆは、マイキーがこういう風に人と話すところを、

あまり見たことがなかった

校内でも女子にモテモテなのに

本人はいつも無関心で

どこか浮世離れしていて。

なのにどうして、私なんかに__?

ゆゆ

……なんで私に構うの?

ぽつりとこぼしたその言葉に

マイキーはすっと視線を逸らし

空を見上げた。

マイキー

……おれも、この前までちょっと、しんどかったから

ゆゆ

え?

マイキー

昔の友達がさ、いろいろあってさ。

マイキー

……そいつらのこと思い出して、しんどかった日があったんだよ。なんもしたくなくて。

マイキー

……でもさ、ふと、泣いてるおまえ見たらさ、

マイキー

なんか

マイキー

“俺だけじゃねーんだ”って思った

ゆゆ

………

マイキー

勝手に親近感。変だろ?笑

苦笑いするマイキー。

それは、ゆゆが知る

“最強の不良”の顔ではなく

どこにでもいる

ひとりの高校生の顔だった

ゆゆ

……じゃあさ

マイキー

ん?

ゆゆ

ちょっとだけ……一緒にいてもいい?

マイキー

…………

沈黙が落ちたあと

マイキーはゆっくりと立ち上がり

右手を差し出した。

マイキー

じゃあ、ついてこい。

マイキー

おまえ、知らないだろ。

マイキー

夕方の屋上、ちょーキレイなんだぜ?

ゆゆ

……また屋上?前泣いたとこだよ?

マイキー

今度は、笑わせてやるよ。

マイキーの声は、やけに頼もしく響いた。

そのまま手を取ると

彼の手の温もりが伝わってきて─

心のどこかが、ふっと軽くなる気がした。

(夕方ってことにしてください。)

風が吹き抜ける屋上で、

二人は並んで座った。

オレンジ色に染まる空

街並みに伸びる長い影。

夕日がマイキーの金色の髪に差し込み

まるでドラマのワンシーンのようだった。

ゆゆ

……ほんとに、キレイだね

マイキー

な?

ゆゆ

ありがと。……今日、話せてよかった

ゆゆがそう言うと

マイキーはほんの一瞬

真顔になったあと──

唐突に、笑った。

マイキー

なーんか、もっとお礼ほしいなー笑

ゆゆ

……は?

マイキー

“キス”とか?笑

ゆゆ

なっ、ばっ……!!///

マイキー

冗談だってば。冗談。

マイキー

でもさ

ふっと目を細めたマイキーが

ゆゆの耳元でそっと囁いた。

マイキー

今度泣くときは、俺の前だけにしろよ。

ゆゆ

…………っ////

もう、何も言えなかった。

顔が火照って、胸がきゅっと苦しくなる。

この人ずるい──。

でも、嫌じゃなかった。

マイキー

ゆゆ〜今日一緒帰ろ?

ゆゆ

はいはい。

マイキー

やっぱゆゆといると落ち着くわ。

ゆゆ

…私も、なんかマイキーといると落ち着く。

マイキー

ん。よかった笑

あの日から、少しだけ日々が変わった。

誰にも見せなかったマイキーの優しさも。

誰にも見せなかったゆゆの涙も。

あの夕暮れに

確かに二人だけのものになった。

マイキー

…俺、ゆゆに出会えてよかった。

ゆゆ

…何それ。急に笑

ゆゆ

(でも……)

ゆゆ

私もだよ。(ボソッ)

そしてそれは、きっと──

恋の始まりだった。

「0.5秒の恋、始まりの屋上。」

end ──。

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