7月の終わり
蝉の声がやかましく響く放課後
ゆゆは、ひとり校舎裏のベンチ腰かけていた。
膝の上にはプリントの束
横にはカバン。
冷たい麦茶のペットボトルに
水滴が伝っていく
ゆゆ
心の中でつぶやいたその時。
マイキー
不意にかけられた声に顔を上げると
制服の第一ボタンも留めず、
ネクタイもぐしゃぐしゃな
男が立っていた。
佐野万次郎。通称・マイキー。
同じ学校の、だけど
“全然別世界の人間”
ゆゆ
いつものようにツンと返しても、
マイキーは気にしない。
ニヤニヤと笑って、隣に座ってきた。
マイキー
マイキー
ゆゆ
一瞬、心臓が跳ねた。
その日のことは
誰にも見られてないと思ってた。
あの日、屋上の隅っこで一人で
泣いていた。
大好きだった人に
彼女ができたのを知った日。
マイキー
ゆゆ
マイキー
マイキー
マイキー
いたずらっぽく笑うマイキー。
でも、その瞳は思いのほか真剣だった。
ゆゆは、マイキーがこういう風に人と話すところを、
あまり見たことがなかった
校内でも女子にモテモテなのに
本人はいつも無関心で
どこか浮世離れしていて。
なのにどうして、私なんかに__?
ゆゆ
ぽつりとこぼしたその言葉に
マイキーはすっと視線を逸らし
空を見上げた。
マイキー
ゆゆ
マイキー
マイキー
マイキー
マイキー
マイキー
ゆゆ
マイキー
苦笑いするマイキー。
それは、ゆゆが知る
“最強の不良”の顔ではなく
どこにでもいる
ひとりの高校生の顔だった
ゆゆ
マイキー
ゆゆ
マイキー
沈黙が落ちたあと
マイキーはゆっくりと立ち上がり
右手を差し出した。
マイキー
マイキー
マイキー
ゆゆ
マイキー
マイキーの声は、やけに頼もしく響いた。
そのまま手を取ると
彼の手の温もりが伝わってきて─
心のどこかが、ふっと軽くなる気がした。
(夕方ってことにしてください。)
風が吹き抜ける屋上で、
二人は並んで座った。
オレンジ色に染まる空
街並みに伸びる長い影。
夕日がマイキーの金色の髪に差し込み
まるでドラマのワンシーンのようだった。
ゆゆ
マイキー
ゆゆ
ゆゆがそう言うと
マイキーはほんの一瞬
真顔になったあと──
唐突に、笑った。
マイキー
ゆゆ
マイキー
ゆゆ
マイキー
マイキー
ふっと目を細めたマイキーが
ゆゆの耳元でそっと囁いた。
マイキー
ゆゆ
もう、何も言えなかった。
顔が火照って、胸がきゅっと苦しくなる。
この人ずるい──。
でも、嫌じゃなかった。
マイキー
ゆゆ
マイキー
ゆゆ
マイキー
あの日から、少しだけ日々が変わった。
誰にも見せなかったマイキーの優しさも。
誰にも見せなかったゆゆの涙も。
あの夕暮れに
確かに二人だけのものになった。
マイキー
ゆゆ
ゆゆ
ゆゆ
そしてそれは、きっと──
恋の始まりだった。
「0.5秒の恋、始まりの屋上。」
end ──。