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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

多分、うちの学校は珍しい。

冬休みは年明けから始まる上、クリスマスの日に演劇発表会があるのだ。

青春真っ只中の学生たちはリア充出来なくて不満に溢れる……

と、思いきや、また珍しく私のクラスにリア充はいない。

誰かがのけ者にされることもなければ誰かがトップになることもない。

なんとなく皆兄弟のようなクラスだ。

それなのにまさか、あんなことになるなんて……

モブ委員長

えー、皆さん、来月のクリスマスは演劇発表会ですね。

モブ委員長

くじ引きの結果、うちのクラスはロミオとジュリエットになりました。

ざわざわ、ざわ……

クラス内が騒がしくなる。

当然だろう、他のクラスは桃太郎とか可愛らしいのに、まさか恋愛と縁遠いうちのクラスがロミジュリなんて……運命のイタズラを感じてしまう。

モブ

あれだろー、最後ロミオとージュリエットってキスするんだろー

モブ委員長

こらこら、接吻は「フリ」ですよ、「フリ」。観客から見えないように顔を近づけるだけで不純恋愛はいけません。

モブ

フリでもヤバすぎーwww 

モブ子

隣のクラスの男子が良かったーw

細かいキャストの立候補はポツリポツリと決まっていくが、肝心の主役であるロミオとジュリエットが決まらない。

私は適当に……裏方でいいな、パネル作ったり音響担当したりなんでもいいや。

そんな風に考えていたら、ふと男子の一人が立ち上がる。

ci

はいはーい、俺、ロミオやりまーっす

モブ

ええー!ciマジかよ大胆ーw 

モブ

おいおい、ジュリエット役立候補しづらくなったじゃんかーw

モブ子

ciくんはちょっとーw

 

……

ci

じゃあ指名でもいいすかー?

モブ

おまww広告のマンガかよーw

モブ委員長

まあ、相手が了承するかどうかですが、どうぞ。

ci

じゃあ、あの子とお願いしまーす!

 

……

モブ

おおー?

モブ子

意外だあー

モブ委員長

それじゃジュリエット役、引き受けてくれますか?

 

……っあハイッ?

ヤバイ!全然何の話か聞いてなくてボーッとしてた!

委員長が目の前にやって来たから反射的に返事をすると、クラス内で拍手が響いた。

モブ

ひゅー♪ひゅーひゅー♪やるじゃんー♪

モブ子

きゃー♪楽しみになってきたー♪

 

え、え、え?

なになに、どゆこと?

誰か説明して欲しいのに頭がパニックでわけわかんない!

どうしてジュリエット役に私の名前が書かれているの?

どうしてロミオ役がciくんなの?

ああもう……誰か助けてえ……!

教訓、人の話は聞くこと!

結局、否定もできずにボーッとしていたら担当がどんどん決まっちゃって、私がジュリエットってことに……

じゅ、重責がすごいっっ

それでも友達は応援してくれるし、任命された以上は頑張ろうって決めた。

これでも、小さい頃演劇でシンデレラになったこともある。

また魔法をかけられたつもりでciくんと演劇特訓を……!

と、なるはずだったのに……

ci

ジュリエット~ジュリエットはいずこでござるか~

モブ

ギャハハハッ

ci

拙者、ロミ男でござる。しがない浪人でござるよぉ

モブ

ゲラゲラゲラッ

 

……

ci

姫~姫よ~ガラスのワラジはいずこ~

モブ

それシンデレラだろっw

モブ

ゲラゲラゲラッ

ciくんが全っっ然真面目に練習してくれない!!

セリフの掛け合いとかしたいのに体育館の端っこで男子グループとロミオとジュリエット(江戸バージョン)して遊んでる。

友達から聞いた話だと、ciくんの指名で私がジュリエットになったらしいけど……毎日遊んで帰るだけで練習にならない!

耐えよう……耐えるのよ、私は指示された通りに演じればいいだけ。それ以外の感情なんてないんだし!

モブ子

ちょっとー、ちゃんとやろうよー、もう1週間経っちゃったよー?

ci

あいや、すまぬでござるぅ!

モブ

ギャハハハッ!

モブ

ゲラゲラゲラッ

………………。

 

…………っ

ci

待て待て~不届きもの~

モブ

やーwめーwろーwよーw

モブ

ゲラゲラゲラッ

ドンッ

 

あっ!

ビターン!

モブ

あ、やっべ……

 

ーーー!

体育館を走り回る男子に体当たりされて、手から台本が吹っ飛ぶ。

よろけた拍子に足首をひねり、体育館中に響く大きな音で顔から倒れた。スパッツ履いてるとはいえスカートもめくれてしぬほど情けなかったと思う。

その瞬間、私の中の何かの線がプッツン切れた。

 

もう嫌……!

 

話聞いてなくて、なあなあでジュリエットになっちゃっただけなのに、どうしてこんなメに遭わないといけないの!

 

もう嫌!やりたくない!嫌!!

ci

……っ

つい……倒れた羞恥心を誤魔化そうとして感情が爆発してしまった。

だけど、嘘偽りない本心の言葉だ。

私にジュリエットなんて荷が重かったんだ。

モブ子

ちょ、ちょっとぉ

うろたえ、慰める友人の手を振り払い、私は体育館から出てった。

そのひねった足で職員室へ向かい、ジュリエットは辞退した。

こんな足じゃジュリエットなんてやれないし……と最終的に先生も納得してくれた。すぐにとはいかないが後任のジュリエットを探してくれるらしい。

ようやく肩の荷が降りた……のに、涙が止まらないのはどうしてだったんだろう……。

その後1週間、私は普通の生活に戻った。

クラスのみんなは私に気を使ってくれてか、教室では演劇の話はしないようにしてくれた。

ぶつかった男子も謝ってくれたし、これで元通り。

なんだかどっと疲れる日々だった、改めて人の話はちゃんと聞こうと肝に命じる。

 

……。

それにしてもどうしてciくんは私なんか指名したんだろう。

別に特別仲がいいわけでもないし、私にとっては単なるクラスメイトって印象しかなかった。

ほんの少し、僅かに、若干気になるような気がするけれど、あれからciくんは私を見ると申し訳なさそうに目を逸らすから会話も出来なかった。

全部元通りになったはずなのに……

癒えたはずの足がジンと疼いた。

モブ委員長

もしもし

ふと気づいたら目の前に委員長が立っていた。

 

んっ?なあに?

モブ委員長

えー、オホン、演劇のことなんですが……

 

……うん。

モブ委員長

ジュリエット役が決まりました、モブ子さんが引き受けてくれました。

 

そっか、良かったね。

 

私はパネル制作を手伝えばいいかな?

モブ委員長

ええ、お願いします。

モブ委員長

その前に……

モブ委員長

台本を返してください。

 

台本?

台本……か、そういえばあれ以来体育館に近付いてないし、誰からも受け取ってないから勝手に回収されたもんだと思ってた。

 

コピーじゃダメなの?

モブ委員長

人から聞いたのですが君の台本、赤ペンで演じやすいよう色々書き加えてあって見やすいと評判でした。

モブ委員長

他のエキストラはそれに合わせて練習してますから、単なるコピー台本では意味ないです。

 

は、はあ……

 

……体育館にあると思うんだけど。

モブ委員長

場所が分かっているんですね、それじゃ今日の放課後、探して持ってきてください。

 

ええ、あのー

モブ委員長

あ、やっぱりジュリエット役のモブ子さんに渡しておいてください!彼女は体育館裏で練習してるそうなので!それじゃ!

 

え、ええ……えええ……

委員長、行っちゃったよ……

もしかすると私って押し付けやすいチョロいやつ……?

 

はあ……

仕方ない、台本を返してそれで終わりにしよう。

ちょっぴり憂鬱な気分で放課後を待った。

言われた通り放課後体育館を訪れた。

多少の気まずさも残るが、委員長に頼まれたから仕方ない。

演劇の練習をしてるグループに勇気を出して声をかけた。

 

あのー

モブ

ん?どした?

 

ジュリエットの台本探してるんだけど知らない……?

モブ

あーこれね、はい、ジュリエットの台本。

 

…………ありがと

簡単に小道具入れから出されたぞ……

なんか仕組まれてるような気がしないでもないが、モブ子が困ってるだろうから届けよう。

クラスメイトに軽く頭を下げて、体育館裏へ回った。

 

モブ子ー?

体育館裏にいるって聞いたんだけど……

……、……!

あ、声が聞こえる。確かにいるみたい。

 

モーブ子ー

角から顔を出してみるとそこには予想外の光景が……

ci

さすれば新しく……んんっ、違うな、さすれば新しく……!んんっ、さすれば新しく生まれ変わったも同然!いや、同然!こうやな、同然!!

ciくん1人?台本を持って真剣に練習してる……

 

……。

な、なーんだ、そういうことだったんだ……

私、違ったんだね。

何故か胸の辺りが締め付けられるように痛くて息できない。

だけどciくんはモブ子がジュリエットになった途端、真剣になった。

私じゃなかったんだ……なんか、勘違いしそうになってたよ、変だね……

モブ子いないし、体育館に戻ろう……

モブ委員長

もしもし

 

(ひゃっ!)

 

(委員長、なんでここに!?)

モブ委員長

彼、一生懸命でしょ?

 

!う、うん、頑張ってるね。

モブ委員長

彼、君にもう一度ジュリエットをやってほしくて、毎日毎日こうして練習してるんですよ。

 

え、私……!?嘘……!

モブ委員長

演劇部長の僕に頭を下げて、猛特訓してますからよっぽど必死みたいですよ。

モブ委員長

実は嘘をつきました。モブ子さんは次のジュリエットじゃありません。

モブ委員長

この光景を見て君が少しでも心動かされたのなら、可能であればジュリエットをやって欲しいのです。

 

でも……私なんか別に……

モブ委員長

時間がないというのもありますが、あれだけ真剣にロミオを演じられるのは彼しかいません。そして彼が望むパートナーは君しかいないんです。

モブ委員長

自信をもって、君は本当に演技が上手い。

 

……。

モブ委員長

それとも彼のことが嫌いになりましたか?

 

いやそれは……、別に……

モブ委員長

それなら良かった、ciくん!彼女、ジュリエットやってくれますって!

 

え、ええ!?

ci

なっ!委員長!それに君も、いつからそこに!?

ci

えっえ、でもほんま!?ほんまにまたやってくれる!?

キラキラ笑顔で手をぎゅっと掴まれた。ううう、断りづらい……

 

……ちゃんと練習してくれないとやだよ?

ci

うん、うん!ほんまこの前はごめん!照れ隠しで……っいやなんでもない!委員長ありがとう!ありがとな!

モブ委員長

それじゃ台本もありますし、ロミオとジュリエットには張り切って練習して貰いましょうか。

モブ委員長

体育館裏ですから悲鳴をあげても誰も来ませんよ……フフフ

 

え、えっ

ci

押忍!コーチ!押忍!!

委員長、人が違うみたい……さすが演劇部長

そしてやっぱり私は……チョロい。

みっちりぎっちり練習(特訓)は2週間続いた……

演劇発表会……クリスマス当日。

たくさんのクラスメイトと父兄に演劇を見られるのは恥ずかしかったけど……

委員長との地獄の特訓と、嘘みたいに綺麗に着飾ってもらった自分の姿を鏡で見て自信が湧いてきた!

舞台裏でciくんも別人のように王子さまの格好して、笑顔でピースした。

ci

よろしくな!

 

うんっ……!

モブ委員長

それでは「ロミオとジュリエット」始まります。

裏の階段を上がり、スポットライトを向けられると私はもう私じゃなくてーーー

ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの……?

…………

………………

……………………

演劇は滞りなく進んだ。

舞台から観客を見る余裕なんてないけど、それでも一瞬目の端に映った光景でクラスメイトが真剣に演劇を見てると分かって安心した。

そして最後のシーン……目覚めたジュリエットはロミオの亡骸に気づいて泣き咽ぶ。

 

ああロミオ……せめて最後のお別れの口づけを

ここは顔を寄せて……キスのフリだけを

ci

ーーー。

 

ーーー!

そのはずだったのに、何度も練習したのにciくんは1度だけミスをした。

今のはロミオとして?それとも……?

心臓がバクバクうるさくて、その後のセリフがちゃんと言えたかどうか覚えてない……頭真っ白でもスラスラ口が動くのは委員長の特訓の成果ね。

唯一記憶に残っているのは演劇終了後に並んで頭を下げた時に送られた父兄、先生、クラスメイトからの割れんばかりの拍手。

紆余曲折あったけれど、最高の演劇発表会……思い出のクリスマスになって良かった。

 

あ、あの……ciくんごめんね、キスシーン距離感間違えちゃったみたいで……

ci

ああ、あれわざと。

 

ーーーーー!?

パチパチパチパチパチ……!

拍手喝采に隠れてそんな会話を交わしたけれど、彼には敵いそうもないということが分かった。

……メリークリスマス♪

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