多分、うちの学校は珍しい。
冬休みは年明けから始まる上、クリスマスの日に演劇発表会があるのだ。
青春真っ只中の学生たちはリア充出来なくて不満に溢れる……
と、思いきや、また珍しく私のクラスにリア充はいない。
誰かがのけ者にされることもなければ誰かがトップになることもない。
なんとなく皆兄弟のようなクラスだ。
それなのにまさか、あんなことになるなんて……
モブ委員長
モブ委員長
ざわざわ、ざわ……
クラス内が騒がしくなる。
当然だろう、他のクラスは桃太郎とか可愛らしいのに、まさか恋愛と縁遠いうちのクラスがロミジュリなんて……運命のイタズラを感じてしまう。
モブ
モブ委員長
モブ
モブ子
細かいキャストの立候補はポツリポツリと決まっていくが、肝心の主役であるロミオとジュリエットが決まらない。
私は適当に……裏方でいいな、パネル作ったり音響担当したりなんでもいいや。
そんな風に考えていたら、ふと男子の一人が立ち上がる。
ci
モブ
モブ
モブ子
ci
モブ
モブ委員長
ci
モブ
モブ子
モブ委員長
ヤバイ!全然何の話か聞いてなくてボーッとしてた!
委員長が目の前にやって来たから反射的に返事をすると、クラス内で拍手が響いた。
モブ
モブ子
なになに、どゆこと?
誰か説明して欲しいのに頭がパニックでわけわかんない!
どうしてジュリエット役に私の名前が書かれているの?
どうしてロミオ役がciくんなの?
ああもう……誰か助けてえ……!
教訓、人の話は聞くこと!
結局、否定もできずにボーッとしていたら担当がどんどん決まっちゃって、私がジュリエットってことに……
じゅ、重責がすごいっっ
それでも友達は応援してくれるし、任命された以上は頑張ろうって決めた。
これでも、小さい頃演劇でシンデレラになったこともある。
また魔法をかけられたつもりでciくんと演劇特訓を……!
と、なるはずだったのに……
ci
モブ
ci
モブ
ci
モブ
モブ
ciくんが全っっ然真面目に練習してくれない!!
セリフの掛け合いとかしたいのに体育館の端っこで男子グループとロミオとジュリエット(江戸バージョン)して遊んでる。
友達から聞いた話だと、ciくんの指名で私がジュリエットになったらしいけど……毎日遊んで帰るだけで練習にならない!
耐えよう……耐えるのよ、私は指示された通りに演じればいいだけ。それ以外の感情なんてないんだし!
モブ子
ci
モブ
モブ
………………。
ci
モブ
モブ
ドンッ
ビターン!
モブ
体育館を走り回る男子に体当たりされて、手から台本が吹っ飛ぶ。
よろけた拍子に足首をひねり、体育館中に響く大きな音で顔から倒れた。スパッツ履いてるとはいえスカートもめくれてしぬほど情けなかったと思う。
その瞬間、私の中の何かの線がプッツン切れた。
ci
つい……倒れた羞恥心を誤魔化そうとして感情が爆発してしまった。
だけど、嘘偽りない本心の言葉だ。
私にジュリエットなんて荷が重かったんだ。
モブ子
うろたえ、慰める友人の手を振り払い、私は体育館から出てった。
そのひねった足で職員室へ向かい、ジュリエットは辞退した。
こんな足じゃジュリエットなんてやれないし……と最終的に先生も納得してくれた。すぐにとはいかないが後任のジュリエットを探してくれるらしい。
ようやく肩の荷が降りた……のに、涙が止まらないのはどうしてだったんだろう……。
その後1週間、私は普通の生活に戻った。
クラスのみんなは私に気を使ってくれてか、教室では演劇の話はしないようにしてくれた。
ぶつかった男子も謝ってくれたし、これで元通り。
なんだかどっと疲れる日々だった、改めて人の話はちゃんと聞こうと肝に命じる。
それにしてもどうしてciくんは私なんか指名したんだろう。
別に特別仲がいいわけでもないし、私にとっては単なるクラスメイトって印象しかなかった。
ほんの少し、僅かに、若干気になるような気がするけれど、あれからciくんは私を見ると申し訳なさそうに目を逸らすから会話も出来なかった。
全部元通りになったはずなのに……
癒えたはずの足がジンと疼いた。
モブ委員長
ふと気づいたら目の前に委員長が立っていた。
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
台本……か、そういえばあれ以来体育館に近付いてないし、誰からも受け取ってないから勝手に回収されたもんだと思ってた。
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
委員長、行っちゃったよ……
もしかすると私って押し付けやすいチョロいやつ……?
仕方ない、台本を返してそれで終わりにしよう。
ちょっぴり憂鬱な気分で放課後を待った。
言われた通り放課後体育館を訪れた。
多少の気まずさも残るが、委員長に頼まれたから仕方ない。
演劇の練習をしてるグループに勇気を出して声をかけた。
モブ
モブ
簡単に小道具入れから出されたぞ……
なんか仕組まれてるような気がしないでもないが、モブ子が困ってるだろうから届けよう。
クラスメイトに軽く頭を下げて、体育館裏へ回った。
体育館裏にいるって聞いたんだけど……
……、……!
あ、声が聞こえる。確かにいるみたい。
角から顔を出してみるとそこには予想外の光景が……
ci
ciくん1人?台本を持って真剣に練習してる……
な、なーんだ、そういうことだったんだ……
私、違ったんだね。
何故か胸の辺りが締め付けられるように痛くて息できない。
だけどciくんはモブ子がジュリエットになった途端、真剣になった。
私じゃなかったんだ……なんか、勘違いしそうになってたよ、変だね……
モブ子いないし、体育館に戻ろう……
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
モブ委員長
ci
ci
キラキラ笑顔で手をぎゅっと掴まれた。ううう、断りづらい……
ci
モブ委員長
モブ委員長
ci
委員長、人が違うみたい……さすが演劇部長
そしてやっぱり私は……チョロい。
みっちりぎっちり練習(特訓)は2週間続いた……
演劇発表会……クリスマス当日。
たくさんのクラスメイトと父兄に演劇を見られるのは恥ずかしかったけど……
委員長との地獄の特訓と、嘘みたいに綺麗に着飾ってもらった自分の姿を鏡で見て自信が湧いてきた!
舞台裏でciくんも別人のように王子さまの格好して、笑顔でピースした。
ci
モブ委員長
裏の階段を上がり、スポットライトを向けられると私はもう私じゃなくてーーー
ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの……?
…………
………………
……………………
演劇は滞りなく進んだ。
舞台から観客を見る余裕なんてないけど、それでも一瞬目の端に映った光景でクラスメイトが真剣に演劇を見てると分かって安心した。
そして最後のシーン……目覚めたジュリエットはロミオの亡骸に気づいて泣き咽ぶ。
ここは顔を寄せて……キスのフリだけを
ci
そのはずだったのに、何度も練習したのにciくんは1度だけミスをした。
今のはロミオとして?それとも……?
心臓がバクバクうるさくて、その後のセリフがちゃんと言えたかどうか覚えてない……頭真っ白でもスラスラ口が動くのは委員長の特訓の成果ね。
唯一記憶に残っているのは演劇終了後に並んで頭を下げた時に送られた父兄、先生、クラスメイトからの割れんばかりの拍手。
紆余曲折あったけれど、最高の演劇発表会……思い出のクリスマスになって良かった。
ci
パチパチパチパチパチ……!
拍手喝采に隠れてそんな会話を交わしたけれど、彼には敵いそうもないということが分かった。
……メリークリスマス♪