〇〇
といっても、返事は返ってこない。 今日から両親は1週間の海外旅行に行っているから。 その時、LINEの通知が来た。
ピロン♪
〇〇
満面の笑みのお母さんと、気難しそうにしながらもいつもよりも少しだけ表情が柔らかいお父さん。
真逆の性格ながらも、2人はとても仲の良い夫婦だと思う。一人娘の私が保証する。
〇〇
何気なく呟いた言葉。 ただの独り言。
返事を期待していたわけではないその独り言に、返答があるなんて思ってなかった。
凪誠士郎
〇〇
振り向くと、背の高い白髪の男の子が立っていた。 あれ、私、扉閉めて……いや、そういう問題じゃない。 だってここは私の家だ。
不審者?誰か助けを呼んだ方が? そんな考えが頭をよぎるが、男の子があまりにも落ち着いているため、私は声を上げるのを躊躇してしまった。
〇〇
それがいけなかった。
私はここで叫び声を上げるべきだったのだ。 そうすれば、お隣さんに気づいてもらえたのかもしれないのに。
凪誠士郎
男の子は少しだけ落胆したようだった。 でも、私は彼のことなんて知らない。
凪誠士郎
御影玲王
その時、玄関の扉が開き、もう1人の人物が家に入ってきた。
同じくらい背が高く、紫色の髪の毛の男の子。 彼のことも私は見覚えがなかった。
〇〇
誰かと勘違いしてませんか?
何気なく出したその言葉に2人の表情が変わった。
凪誠士郎
御影玲王
〇〇
腕を掴まれて思いっきり引き寄せられる。 気がついたら白い男の子の胸の中にいた。
〇〇
ガチャンと玄関の鍵が閉まる音がする。 え、鍵…?なんで? だって、ここは私の家で 彼らは、知らない人で
御影玲王
凪誠士郎
背中に回る2本の腕ががっちりと私の身体を固定していて、離れない。
ようやく私の頭に警報が鳴り響いた。
逃げないと、まずい。
〇〇
助けて、の言葉は喉奥に押し戻された。
キス、されてる…?なん、で
凪誠士郎
〇〇
なんで、なんでなんでなんで 私、知らない人とキスしてるの!?
感じたことのない感触、聞いたことのない粘着質な水音。 全てが初めてのことで、私はパニックになっていた。
御影玲王
視界の端で、紫色の男の子が少し困ったように笑っている。
唇が離れたタイミングで助けを求めて手を伸ばす。
〇〇
御影玲王
コクコクと頷くと、彼は目を見開いた後 にっこりと、それはもうにっこりと笑った。
その笑顔にゾクリと寒気が走る。 あれ、私、この笑顔、どこかで…
御影玲王
伸ばした手が紫髪の彼に絡め取られる。 助けを求めて伸ばした手が掴まれた。 それなのに、これが救いの手だと思えないのはどうして。
御影玲王
〇〇
顔が近づいたと思ったら、ゼロ距離になっていた。 助けてって、言ったのに。なんで
御影玲王
吐息が、唾液が交わる。 熱くて、クラクラしてくる。 一体、何が起きてるの?
凪誠士郎
御影玲王
凪誠士郎
左右から挟まれる形で抱きしめられながら、キスをされている。 意味がわからない。
〇〇
一体、誰で、何が目的ですか 彼等に問いかけようと口を開いた、その時
御影玲王
〇〇
開きかけていたその口に、にゅるりと何かが入り込んできた。 再び口が塞がれ、声が押し込められる。
〇〇
声にならない叫びが、喉元を反芻する。 何、これ、やだ
御影玲王
〇〇
口の中を蛇のようなヌルヌルした生き物が這いずり回っているような感覚。 生きてきて、味わったことのない感覚に恐怖を感じもがく。
が、背の高い男の子達に挟まれているせいで、その抵抗は全く意味を成さない。
凪誠士郎
白髪の男の子は、余裕そうに私の頭をよしよしと撫でる。 つまり、拘束してるのは片腕だけ。
これなら逃げられるかも。 そう思い、玄関扉に手を伸ばす。
だけど
〇〇
ほんのちょっと。ほんのちょっと届かない。 取っ手に伸ばした腕が空を切る。
〇〇
私のそんな小さな抵抗を見られていたようで
凪誠士郎
〇〇
手が、大きな手に包まれる。 大きな手は私の手を完全に隠してしまった。
凪誠士郎
〇〇
紫の男の子の唇が離れる。 唇が解放され、声が出せるようになったが私の口から出てきたのは間抜けな疑問符だった。
縛るって、何を、なんで
私を真っ直ぐ見下ろす彼と目が合う。 同時に寒気。
〇〇
本気の目。 獲物を狩る肉食獣の目。
ここでようやく私は自分の置かれている状況が、本当にまずいことに気がついた。
〇〇
御影玲王
凪誠士郎
口が大きな手で覆われ、くぐもった声しか出せなくなる。 誰か、誰か助けて、ここで叫ばないと、部屋に入ってしまったら、もう
叫んでも、届かない。
〇〇
声にならない叫び声を必死に上げる。 そんな〇〇の様子を見て、男達は笑う。
凪誠士郎
御影玲王
無駄なことなのに♡ そう言って、紫髪の男が目を細めて笑う。
御影玲王
〇〇
どういうこと? 私の視線に気づいたのか、男は笑顔で理由を話し始める。
御影玲王
御影玲王
〇〇
〇〇は絶望する。 それじゃ、叫んでも、助けを呼んでも無駄、なの?
凪誠士郎
御影玲王
〇〇
2人に抱きかかえられるようにして、身体が持ち上がる。 必死に手足を動かすが、無駄なことだった。
〇〇
御影玲王
〇〇
何でそれを知ってるの? そこまで考えて、〇〇は気付いた。 これは計画的な犯行だと。
女1人に対して男2人でおこなう計画。 その時点で、非力な女に回避する術はほとんど残されていなかったんだろう。
凪誠士郎
〇〇
ボロボロと涙が流れ落ちる。 〇〇は理解してしまった。これから辿る自分の運命を。
御影玲王
凪誠士郎
おじゃまします、という2人の声に返事をする者は誰もいない。 だが、それを気にすることなく彼らは私の家のリビングに入っていくのであった。
コメント
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書き方がうますぎます!