それからというもの、敦と目を合わせるのが
気まずくて申し訳なくてできなくなってしまった。
敦は何にもなかったかのように話しかけてくれるが、
太宰は中原の犯罪者という言葉がぐるぐる回って
うまく返事ができなかった。
太宰治
中島敦
中島敦
太宰治
中島敦
太宰が話をそらすたび、敦はだんだんと不機嫌そうな顔をする。
それに気づいていても、太宰は敦の目を見れなかった。
そして一週間が経過した頃
織田からの一本の電話があった。
その電話で織田は
織田作之助
と一言だけ言って切ってしまった。
太宰の頭の中では墓参りという言葉がぐるぐるのめぐっていく。
もうすぐ春であり、敦も小学校を卒業する。
そんな時期に墓参りをしなくてはならない用事なんてあっただろうか。
そう考えに考えてみると、
太宰が殺した両親の顔が浮かび上がった。
なぜ自分が殺した人の元へ行かなくてはならないのか。
そう憤怒した太宰だったが、
どうしても墓参りに行かなくてはならないとなぜか思ったのだった。
中島敦
中島敦
中島敦
敦は味噌汁を一口飲んだのち、
太宰の目をしっかりと見て言葉を発した。
太宰は反射的に顔を上げ、敦の目を見てしまった。
太宰治
太宰のこの言葉に敦は驚いたようで、
持っていた箸をぽろりと落としていた。
中島敦
太宰治
太宰治
太宰治
中島敦
敦は屈託のない笑顔で笑った。
中島敦
中島敦
中島敦
その言葉に太宰は堰を切ったように涙が溢れ出た。
手も唇も震え、声も震えていく。
敦はタオルを持って、太宰の涙を拭う。
本当に彼を好きで良かったと心から思った。
中島敦
太宰治
中島敦
妙にはつらつとした敦の姿に太宰はほっとする。
太宰治
中島敦
太宰治
中島敦
太宰治
そして、朝食を摂り終えた太宰たちは、
織田の車に乗り、墓地へと辿り着いた。
中島敦
太宰治
中島敦
太宰治
太宰治
織田作之助
織田の言葉に太宰は息が止まってしまったのかと思った。
そんなはずはない。
両親が太宰を思ってくれたはずがない。
誰よりも疎ましく、思っていたじゃないか。
太宰治
織田作之助
太宰治
それ以上、言葉が出てこなかった。
手を強く握り締め、その姿を敦は心配そうに眺める。
そして歩いていくと
太宰家之墓
と書かれた墓の前へ辿り着いた。
じわりと涙が滲む。
織田作之助
織田はそっと手を合わせ、墓石を見つめる。
敦も織田の真似をし、手を合わせる。
太宰だけが、合わせられなかった。
織田作之助
太宰治
織田作之助
太宰治
太宰の手は震えていた。
織田作之助
織田作之助
織田の言葉に太宰は大きく目を見開く。
織田作之助
織田作之助
……体が、震える。
冷や汗が出てくる。
口の中の水気がだんだんとなくなって、
目の中の水気もなくなるから乾いて仕方がない。
しっかりと鍵をかけた過去が、織田の口からゆっくりと開いていく。
織田作之助
コメント
1件
すあきいいいいいいいじゃjしぅうぃs