テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
めちゃめちゃ面白いです! 続きお願いしますm(_ _)m
玄関の扉を閉める音が、いつもより大きく響いた。
手も洗わないまま階段を駆け上がって、 自分の部屋に転がり込む。
ベッドに倒れて、顔を枕にうずめて――。
声を殺して、泣いた。
誰にも聞こえないように、静かに。
泣いたらちょっとは楽になるかなって思ってたのに―― それはむしろ、真逆で。
辛くて、息が詰まって、胸の奥がずっと苦しくて…
えと
ねぇ、今すぐ会いたいよ…
なんでいなくなっちゃったの…?
最後にふたりと話したのは、どんな声だったっけ。
何もかもが、遠くて。
すごく遠いのに、すぐそこで手を振ってくれそうな気もして。
私、どうしちゃったんだろう――……
……お父さんと、お母さんがいなくなってから。
私は毎晩、夜が怖いって感じるようになった。
寝たいけど、寝れない。
えと
そっと、目を閉じる。
――…でも。
えと
その瞬間、あの事故の光景が目に浮かんできて、 私はあわてて目を開けた。
寝たい。でも眠りたくない。
そんな格闘を続けて、深夜二時ぐらいになったとき。
やっと私は泣きながら眠ることができた――……
えとのお母さん
玄関のドアが開いて、当たり前のように お母さんの返事が聞こえてきた。
えとのお母さん
えとのお母さん
えとのお母さん
…あれ…?これって、なに……?
えとのお父さん
えとのお父さん
…なつかしい会話ばっかり…
あの後、確かお父さん、 まちがえてゼリー買ってきたんだよね…
そのころの会話を思い返して、 ふふっと思わず笑いがこぼれた、そのとき。
パっ、と光景が変わった。
そこは、どこかの道路だった。
そこでは、道路に座り込んでる女の子と、 道路のど真ん中で、二人の大人が倒れてた。
その先に、ぐにゃってへこんだ車が合って。
ひどい光景に、思わず顔をしかめた。
でも――
道路に座り込んでる女の子の顔を見て、私は目を見開いた。
すばやく二人の倒れてる大人を見ると、 それは、私のお母さんとお父さんで――…‥‥
いそいで駆け寄ろうとしたとき。
ゆっくりと、お父さんとお母さんが立ち上がった。
そして、そのまま道路に座り込んでる 私の方に歩いていって――
私を、ぎゅっと抱きしめた。
お母さんとお父さんは、笑ってた。
ほっと一安心ついた時に、
私の夢は覚めた。
がばっ、と体を起こす。
そこは、前の光景と違う、おばあちゃんの家の風景――…
えと
ぽとり。
静かにほおを涙が伝って、布団にしみた。
そこから、ぽたぽたと、涙がこぼれていく。
えと
えと
休みたかった。
でも…言えない。
えと
自分が一生懸命育ててきた子供を失ったんだ。
…きっと、私だったら、耐えられない。
私は孫だけど、あの人たちは、親なんだ。
玄関で出迎えてくれたおばあちゃんと目が合ったとき、 優しく「行ってらっしゃい」と言われた。
鼻がツンとして、さっそく泣きそうになった。
でも、必死にこらえて、「行ってきます」って言えた私を、 ちょっとだけでいいから、褒めてあげたい。
新しい制服が、なんとなく落ち着かなくて、 ずっとそわそわしながら歩いた。
おばあちゃん家に里帰りしに行ってる時とは全然違う。
えと
昇降口の前に行くと、ガラス越しに教室が見えた。
そこから、元気な笑い声が聞こえてくる。
知らない人たち。知らない日常。
でも、いつかそこが私の日常になるかもしれない。
深呼吸をひとつして、教室のドアにそっと手をかけた。
じゃぱぱ
のあさん
のあさん
目の前に、突然飛び出してきた男の子と女の子。
机に手をかけた体勢のまま、 にこにこと笑いながら話しかけてくる。
心臓がドキドキしたけど、なんとか返事をした。
えと
じゃぱぱ
えと
じゃぱぱ
じゃぱぱ
えと
じゃぱぱ
えと
のあさん
じゃぱぱ
……仲良しなんだ、この二人。
えと
じわっ、と目がにじみそうになる。
――だめだ。
学校で泣いちゃったら…… 嫌われるかもしれないし、友達、できないかもしれない。
必死に笑って、笑顔を作った。
じゃぱぱ
??
じゃっぴが誰かの服を引っ張っる。
えと
えと
…あ。
黒髪に、サイドの赤いライン。 深みのある優しい真っ赤な瞳。
えと
??
えと
ゆあん
えと
ぎこちなさしかないやりとりをすると、
じゃぱぱ
のあさん
ゆあん
じゃぱぱ
ゆあん
そう言いつつも、ゆあんくんはチラチラと私を見てくる。
えと
話しかけたら泣いて逃げ出した女の子が、転校生としてまた現れたんだし…
えと
じゃっぴとのあさんが再び言い合いを始めたタイミングを見計らって、そっと私はゆあんくんに声をかけた。
えと
ゆあん
深々と頭を下げるゆあんくんに、 私は一瞬全部言おうと思った。
でも、無理やり口角を上げて、
えと
ゆあん
えと
大丈夫?ばれてない?
自分じゃすぐには自分の顔を確認できないのが辛い。
ゆあん
えと
ウソついて、心が痛む。
でも、…まだ、本当のことは話せない。
両親のことを思い出すと、すぐ泣きそうになっちゃうから。
私の心は……まだ、強くないから。
じゃぱぱ
じゃぱぱ
必死な顔のじゃっぴに、思わずからかいたくなった。
えと
のあさん
じゃぱぱ
えと
ゆあん
えと
ゆあん
のあさんの怒った顔。さっきの笑顔とのギャップ。
イケメンなのに面白くて、ムードメーカーみたいなじゃっぴ。
結構幼い見た目なのに、すごい優しいゆあんくん。
……この人たち、ギャップの宝庫だ。
えと
じゃぱぱ
のあさん
ゆあん
その光景があまりにもおかしくて、楽しくて、
私は思わず笑った。
じゃぱぱ
のあさん
ゆあん
……とくん。
なにかが、始まった気がした。
お父さんとお母さんがいなくなってから、 笑えなくなってたのに。
なんでだろう。自然と、笑みがこぼれた。
この時間を、忘れないでいたいな――
小さな笑顔と、喜びをくれた、 この一日を。