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僕は売れない画家だ

画家としての収入では 生計を立てる事がままならず

アルバイトをしながら 1人で細々と何とか暮らしている

店長

樹君、今日は遅くまでありがとな、もう上がっていいぞ

はい、ありがとうございます

店長

ほれ、コレ持ってけ

店長

余り物の食材で作っただけだから遠慮するなよ

こんなに沢山!助かります!

店長

ビッグになったら利子付けて返してくれよw

ハハハ…頑張ります

店長

頼むぞ!未来の大先生!

今日は疲れたな…

ん?

街灯の下に誰か居る…

少し近づいてみると 白い服の少女がしゃがみ込んでいた

もう子供が出歩くような 時間じゃないのに…

ねえ、キミ大丈夫?

少女

………

彼女は何も言わず俯いたままだ…

お父さんかお母さんは?

少女は少し首を横に振った

…一緒にお巡りさんのとこ行く?

するとさっきより強く首を横に振った

困ったな…

(訳ありかな…)

放っておく訳にもいかないか…

とりあえず家にくる?

バイト先でご飯いっぱい貰ったから、少しくらいはご馳走出来るよ?

そう言うと彼女は頷き、 ゆっくり立ち上がって 僕の服の裾を掴んだ

その腕は今にでも折れそうなくらい 細かった

ご飯食べたら少し話聞かせてね

少女

………

少女は俯いたままだが 少し頷いた

ちょっと散らかってるけどゴメンね

少女

………

そこのテーブルの前で待ってて

そう言うと俯いたままの少女は 少し頷き、テーブルの前に座った

僕は店長に貰った料理を彼女の前に 並べ、向かい側に座った

相変わらず俯いたままなのと 長い髪で顔はよく見えない

ご飯食べる時くらいは顔を上げたらどうかな?

そう言うと彼女は顔を上げた

…えっ!

両目が無い…!?

瞳があるべき場所には 黒く深くポッカリと 穴が空いているだけだった

僕はその姿に衝撃と恐怖を感じると 同時に意識を失った

気が付くと僕は部屋にある キャンバスの前に座っていた

…あれ?

夢か?

と思ったが隣りには少女が立っていた

うわっ!

少女

………

ああっ!

ゴ、ゴメン!

僕、ビックリして気を失っちゃったみたいで…

ホントにゴメン!

少女

………

(ん?)

(夢じゃないとしたら何故僕はココに座ってるんだ?)

少女

………

少女は何も言わず 僕の絵筆を持っている

…あぁ、ぼ、僕は画家なんだ…

全然売れてはいないけどね…

でも、生き甲斐みたいなもんかな…

平然を装い、少女に話しかけた

すると少女は

僕の絵筆を 彼女の瞳があるべき場所へ 勢い良く突き刺した

…ああぁ…

恐怖で声が漏れる

少女

………

少女は自分から絵筆を引き抜き そのか細い腕からは 信じられないような力で 僕に絵筆を握らせた

少女

………

そして少女は僕の背後に廻り、 僕が描くのを待っている

僕は恐怖に震えながら キャンバスに向かい、筆を当てた

そして

今までに無い感覚を味わった

筆は躍るように進み、 ドンドンと描いていく

描いているのは僕だが、 自分には描けない絵が仕上がってゆく

とても不思議な感覚だった

…出来た

とても綺麗な絵だった

少女

………

振り返り少女を見ると 少し微笑んでいた

僕はその笑みに喜びと恐怖を覚えた

…ん

いつの間にか寝ていたようだ

あれ?

やっぱり夢だったか?

部屋には少女の姿は無い

…あ

だが

昨日の絵は目の前にあった

それとテーブルの上の 料理はキレイに無くなっていた

画商

…これはキミが書いたのか?

…はい

画商

…いくら欲しい?

え?

画商

いくらなら譲ってくれるんだ?

画商

100万までなら出す

え…えぇ!?

画商

いいかね?

は、はい

画商

次の作品が出来たら是非教えてくれ

あ、ありがとうございます!

あの絵がそんな値段になるなんて…

確かにすごくよく出来ていた

でも

はぁ…

もうあんなの描けないよ…

…今日くらい夕飯は奮発しよう

ただいま~

え!

少女がいる

少女

………

あ、あぁ

ど、どこいってたんだい?

少女

………

相変わらず返事は無い

………

あ、そうだ!

キミのおかげで絵が売れたんだ!

ありがとう!

………

ゆ、夕飯食べるかい?

少女

………

彼女は何も言わず テーブルの前に座った

た、食べるって事かな?ハハハ…

そして彼女の前に奮発して購入した お寿司を並べた

き、キミの好きなネタから食べていいよ!

少女

………

そっか……目、見えないよね…

…僕が食べさせてあげるね

少女

………

彼女は何も言わず、 僕が差し出すものを食べた

久しぶりにお腹いっぱいだ

少女

………

ところでキミはなんて名前なの?

少女

………

何にも話してくれないか…

彼女はスっと立ち上がり、 キャンバスの横に立った

絵を描けって事?

少女

………

少女はコクリと頷く

…わかった

僕が絵筆を取ると 少女はガッシリと僕の手を掴み 彼女の瞳があるべき場所へと 筆を突き刺させた

…ううっ

少女

………

キャンバスに絵筆を当てる…

そこからは昨日と同じだった

瞬く間に綺麗な絵が仕上がっていく

そして

僕が少女をこの世のものではないと 気付かせてくれるには充分過ぎる 出来事だった

また彼女は少し微笑んだ

画商

実に素晴らしいな

…ありがとうございます

画商

前回の倍出す

…え!

画商

だから次の作品も私にだけ売ってくれないか?

ちょっとそれは…

次はいつ出来るかもわからないですし…

画商

…そうか

画商

ただのこの絵は買わせて貰うよ?

あ、はい!ありがとうございます!

また売れた…

ハハハ…スゴいな

あの子のおかげだなぁ…

………

いつまでウチにいるんだろ?

ただいま

少女

………

あ、良かった、居てくれた

少女

………

キミの分のご飯も買って来たよ

彼女はまたテーブルに着いた

ふふふ、ウチに慣れてきたね

少女

………

食事が済むと少女は やはりキャンバスの横に立つ

…やっぱり絵筆を刺すんだよね?

少女

………

少女はコクリと頷き

そして、また繰り返す

昨日と同じ事を

描き終わるとやはり彼女は少し微笑む

唯一、彼女が見せる感情だ

そこからは繰り返しの日々だった

少女と一緒に作品を描く

その作品は飛ぶように売れる

トントン拍子とはこの事だろう

そうして僕は 少し名の知れた画家となった

始めはあんなに抵抗のあった 少女を絵筆で貫く事も

今は何も感じなくなった

でも僕は売れる画家になった

心を壊しながら

…よし、今日の分の仕事をしよう

少女

………

…出来た

少女

………

………

…はぁ

少女

………

…僕は何を目指していたんだっけ?

少女

………

少女は曇った表情をみせた

…あ、ごめん、気にしないで

…そんな顔始めて見たよ

少女

………

その日から彼女は微笑む事は 無くなった

そして

ある日、僕は夢を見た

少女

ねぇ?今楽しい?

えっ?

え?今話しかけてくれた?

なんで?今までどうして?

少女

………

少女

今、楽しい?

…楽しくはないかな

少女

………

少女

そう

ずっと思ってた

キミと一緒に描いてから

あの絵は僕の絵じゃないって

僕自身の絵じゃないって

キミと一緒にいたから描けた絵だ

少女

………

僕の実力じゃないんだって

ずっと思ってた

少女

………

少女

辛かった?

今までいい思いばっかりさせて貰ったから辛くは無かったよ

でも僕の目指してたものは何だろうって考えた時

全然違うものだって気付いた

少女

………

でもキミにはスゴく感謝してるんだ

それに

絵が出来た時に微笑んでくれるだろ?

僕はそれが嬉しかった

少女

………

少女

私も貴方が優しくしてくれるのが嬉しかった

少女

貴方の為になれれば良かった

少女

でも違ったんだね

少女

………

少女

もうお終い

…どういう事?

少女

貴方には貴方の人生を送って欲しい

待って!

少女

またね

待ってくれ!

行かないで!

目が覚めると同時に僕は泣いた

これが夢で良かったと思った

だが

どこを探しても少女はいなかった

彼女は消えてしまった

ただ1枚の絵を残して

そこからの僕の作品は賛否両論だった

ゴッホやピカソのように揶揄され 往年の作風と打って変わってしまった

そんな風に言われたりもしたが

違う

僕の絵に戻っただけだ

昔のように高値が付くことも飛ぶように売れる事も無くなった

ただ、ありがたい事に 有名になったおかげで画家としての 収入だけで暮らせるようなった

アルバイトと掛け持ちの時に比べたら少しはマシになったぐらいだ

住まいも元々住んでいたアパートに 逆戻りした

でも

よし、今日も頑張るか!

彼女が残してくれた

透き通るような瞳の少女の絵が

僕が楽しそうに描いている姿を

微笑みながら見守ってくれている

今はそれだけで充分だ

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