悪徳裁判官

カララン(チャイム)

ドレスの裾を掴んで走って来たのは

長い髪をツインテールに結んだ 大学入学前の 私の孫だ

〜電話中〜

だが、 娘が帰ってくる事は無かった

お祖父様に頼んで持って来て貰ったのだ

これに関しては2つの理由 がある

１つ目は単なる好奇心

２つ目はパパとママの夫婦仲を良くするため。 今は2人の間に亀裂がある

ママはパパより2歳年上だ

足をぶらぶらしながら真剣に 授業を受ける姿(可愛い

裁判官というお堅い役職に 就いていて

仕事場では全然笑わない 仕事出来るエリートなのに 家では

心配性で優しくてカッコよくて よく笑う娘に甘い

たった2週間だけ会えないのに寂しがるパパ

〜2週間後〜

船は金持ちが乗る タイタニス号

速いし大抵の事では揺れない

だが、この日を最後に、 ガンダルフ家に訪問する者は いなかった

あんな事が 起きるなんて

〜船の中〜

船は順調にレヴィアンタまで 進んでいく

〜数分後〜

どうやら警察に偽装した輸送船からごろつき達が乗り込んだ らしい

発砲音が聞こえてくる

人の生き死にが行われた

ミッシェルは安心して微笑んだ

ところが

ガタガタ

船に震動が伝わってくる

本来ならおかしな事だ

なんせこの豪華客船 タイタニス号は滅多な事で揺れないんだから

じゃあこの揺れは？

ミッシェルは息を止めた

それは青い巨大なタコの足

青い青い 巨大蛸

シズ・ティアマ

それはタイタニス号に 絡みついた

バキンバキン

船が壊れてく......

グラグラと揺れる船

亀裂が走り海水で部屋が満たす

左右、上下から大量の海水が 入ってくる

遂に船が沈んだ

ドレスが纏わりつき浮かぶ事は 許されない

たとえドレスを着ていなくても さっきまで船だった木片が 浮いている 決して浮かべない

口から酸素が漏れる

口、鼻、目 海水独特のしょっぱい水が入り 苦しい

みんな、みんな 沈んで行く

消えて、海に、環る

不思議に冷静な事を考える

失われる空気

最初に頭に浮かんだのは 大好きな父だ

幼い自分を愛おしくげに 抱き上げる姿

仕事に出かける父を 「行っちゃやだ」と我が儘を 言って困らせた時にみせた 少し嬉しそうな顔

娘がブルーノに懐いている姿を見る度、 素直にブルーノが羨ましいと ヤキモチを焼いていた姿

そしてこの旅行前の父との会話

「出発は来週で、大体2週間 くらいあっちにいる予定 だから」

『ーーーその間寂しくなるな』

「大丈夫だよ。ブルーノや他の 使用人達もパパがついてる もん』

『それでも、やっぱり 寂しいよ』

たった2週間離れるというだけなのに そう言ったあの人は、

一体自分が死んでしまうと どうなってしまうのだろう？

寂しがりで、愛情に飢えた、 少し子供のようなあの父は。

カッコよくて可愛くて 優しくて寂しがりやな 私の

My daddy

沈む意識、沈む体、 消えていく酸素

だけど、どうか叶うなら この言葉を届けて欲しい

ごめんね、パパ

帰るって約束したのに.... 私、守れなかったな

泣かないでなんて言えない

悲しまないでなんて言えない

だけど、 どうか幸せになって下さい

不幸に沈まないで下さい

愛しい父へ

もう、 貴方の傍にいる事は出来ない けれど

ーーーさようなら

貴方の娘より。 愛を込めて