テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
威榴真side
立て付けの悪い部室のドアが 未だかつてない勢いで開け放たれた。
驚いて顔を上げた俺の視界に 飛び込んできたのは 肩で息をする夏都だった。
いったいどこから走ってきたのか 頬が紅潮している
紫龍いるま
自販機に行くと言ったきり 戻ってこない澄絺を夏都が捜索に 向かったのは10分ほど前だ。
当て所無く寄り道を繰り返す相手を 捕まえるのは一苦労どころか 百苦労はする。
だから当分帰ってこないものだと 思っていたのだが今日は いつになく早い帰還だった。
赤暇なつ
あまりの動揺っぷりに 「それはお前の方だ」とは言えず 俺は大人しく頷く。
夏都は息を整えながら ぷるぷる震える手で床を指した。
赤暇なつ
赤暇なつ
予想外の言葉に俺は 息をするのも忘れた。
酸素が足りないと心臓が喚き 激しく脈を打つ。
紫龍いるま
裏切られた ありえない 何を考えてるんだ
脳内を駆け巡るのはどれも 怒りに任せた言葉たちだ。
だがすぐに別の自分が 澄絺の自由じゃないかと 抗議の声をあげる。
蘭に告白してはいけないと どこの誰が決めたんだ?
俺に答えられるわけもなく 結局最後に残ったのは 自分自身への失望だった。
紫龍いるま
乾に面と向かって言い放った誓いは 呆気なく崩れ去ってしまった。
こうして澄絺を問い詰めたい 衝動が湧き上がってきた以上 誤魔化しようがない。
紫龍いるま
気付けば苛立ちに任せて 手を強く握っていたらしく 爪が食い込んでいた。
痛みに我に返り俺は行き場のない 怒りに「くそっ」と舌打ちする。
赤暇なつ
すっかり呼吸が落ち着いていた 夏都がぼそっと呟いた。
咄嗟に発言の意味をはかりかね 俺は「え?」と生返事になる。
夏都は肩を竦め どこか責めるような 口調で捲し立てた。
赤暇なつ
赤暇なつ
赤暇なつ
赤暇なつ
これまでにないストレートで 辛辣な言葉だった。
俺の心臓を的確に狙い 鋭い痛みで刺してくる。
痛みに任せそれこそ叫び出しそうだ。
しかしそれでもなお 俺は衝動を吐き出すことなく 飲み込んだ。
ぐっと唇を噛み締め黙って 夏都を見つめ返す。
紫龍いるま
赤暇なつ
紫龍いるま
投げやりに答える俺を 夏都は許してくれない。
赤暇なつ
赤暇なつ
今度こそ心臓が止まるかと思った。
夏都の言葉に貫かれもう虫の息だ。
紫龍いるま
零れた声は涙交じりでそのことに また胸が悲鳴を上げる。
もう顔を上げていられずに 俺は力なく項垂れた。
紫龍いるま
その光景をどう思ったのか ゆっくりと足音が近づいて来る。
俺は思わず身構えるが 夏都は無言だった。
やがて、長机の上に散らばった紙を 掻き集めるような音が聞こえてきた。
赤暇なつ
紫龍いるま
予想もしなかった方向からの言葉に 俺は呆気に取られて顔を上げる。
夏都は微かに笑い直後、紙の上に シャーペンを走らせた。
思いついたままに書き連ねて いるらしく動きは大胆で速い。
ときどき立ち止まっては 二重線を引いたりあっちこっちに 文字が飛んでいく。
暫く見入っていると夏都が 思い出したように口を開いた。
赤暇なつ
そう言って俺の返事も待たずに 淡々とした調子で話し出す。
赤暇なつ
赤暇なつ
赤暇なつ
紫龍いるま
途端に乾いた声が出た。
しかし夏都は「独り言」を 続ける気らしく俺の方を 見もせずに言う。
赤暇なつ
赤暇なつ
赤暇なつ
声にならなくなったのか 夏都はそれきり黙ってしまった。
それでもシャーペンの動きが 止まることはなく俺は いっそ感心してしまう。
紫龍いるま
澄絺に対してなのか 夏都に対してなのか
咄嗟に自分でも分からなかったが 多分両方なのだろう。
ずっと「何もない自分」が嫌いで 不安でたまらなかったのだから。
そんな気持ちを知ってか知らずか 夏都がフォローするように言う。
赤暇なつ
紫龍いるま
不意に夏都が手を止め 真っ直ぐにこちらを見た。
赤暇なつ
断言されたものの 俺には心当たりがない。
戸惑う視線に気付いたのか夏都が 「覚えてないのか?」と顔を顰める。
赤暇なつ
赤暇なつ
台本をなぞるように言う 夏都に俺はハッと息を呑む。
紫龍いるま
夏都はパッと表情を明るくしたが すぐに失敗したという顔になる。
わざとらしく肩を竦め やれやれと言わんばかりに ため息をついた。
赤暇なつ
ちらっと視線を投げかけられ 俺は苦笑しながら答える。
紫龍いるま
あの時と同じセリフを 繰り返しただけなのに 不思議と心が温かくなってくる。
夏都は見つめ返すと今度こそ 満面の笑みを浮かべていた。
赤暇なつ
赤暇なつ
赤暇なつ
紫龍いるま
すぐには答えが出てこなくても もう自暴自棄になったりはしない。
このまま澄絺が部室に戻ってきても みっともなく八つ当たりすることもない。
紫龍いるま
感情を爆発させられないのも 澄絺に当たりそうになるのも 自分に自信がないからだと。
認めてしまえば長らく苛まれてきた 劣等感も大したものではないような 気がしてくるから不思議だ。
多分見えない幽霊に怯えるような ものだったのかもしれない。
一方でずっと見ないように してきたこともある。
そうと気付いてしまえば もう目を逸らすことは出来なかった。
紫龍いるま
ずっと変わらなかった 幼馴染という関係。
永遠にも思えた絆は この先も変わらずにいられるのか。
審判の時はすぐそこまで 近付いてきていた。
コメント
2件
赫くんの動揺の仕方が可愛すぎる笑笑
1番目!!! 本当に大好きすぎるඉ ̫ඉ はやくつーとぷが付き合って幸せになって欲しい(இдஇ`。)