ジンヒョンの手の中にあったもの。
それは、僕が納骨堂から持ってきた アッパの写真だった。
ホソク
ジン
ホソク
ヒョンから受け取ったそれは 小さなフォトフレームのガラスが酷く割れていて 中に入ってるアッパの顔は ちょうどヒビが集中していて見えなくなっている。
ジン
ホソク
ジン
ホソク
ジンヒョンにそう言われて 僕は写真を見つめる。
アッパが、守ってくれた。
ヒョンは僕を慰めるために 気休めで言ってくれたのかもしれない。
でも、僕はその言葉に 縋りたくなった。
本当は、死にたくない。
このまま、あいつらと一緒にいたって 僕の心がさらにボロボロになって ただ息をしてるだけの屍に成り果てるのは 目に見えてる。
ジミンも、大麻も、ジンヒョンを裏切るのも もう、嫌だ。
一回拒絶したそれらを 再び受け入れてしまったら 僕はもう二度と 気づけない気がする。
僕の本当の幸せは 死ぬことでも、あいつらを殺す事でも、大麻でもなくて
目の前にいるこの人と 一緒に生きていくことだって。
僕を助けてくれる人は ヒョンだ。
ジン
ホソク
ジン
ホソク
僕のせいで、ヒョンの頬に負わせてしまった傷を撫でると 上から手を重ねられる。
ジン
僕はもう、全部を捨てて 真っ新な状態で
ジンヒョンとずっとずっと 一緒にいたい。
ジン
ヒョンの笑顔は 今日の朝に見た雲ひとつない青空のように 清々しかった。
ジンヒョンに抱きつくと ヒョンも腕を回して 僕を抱きしめた。
ジン
ホソク
そのまま僕とジンヒョンは 触れるだけの、優しいキスを交わす。
涙が溢れて止まらなくて そのキスは涙の味がした。
僕達は今日の夜 ここ、ソウルを出る事に決めた。
スマホの割れた画面には 19時と表示されている。
とりあえず、 ジンヒョンの出身地の京畿道まで 21時発のKTXで行くことにしたけど 京畿道に着いてからの事は、何も考えてない。
あまりにも無謀で無計画。 でも、それでいい。
別れ際にジンヒョンが言っていた。 生きてさえいればなんとかなるって。 二人なら大丈夫だって。
家に帰ってきた後、 誰もいない間にシャワーを浴びた。
肘の擦り傷がしみたけど それは僕が今 ちゃんと生きているということを実感させてくれた。
ジンヒョンと、それからアッパが助けてくれた命。 もう、粗末にはしたくない。
僕はもうすぐ この地獄から抜け出せる。
大嫌いなやつらと同じ空気を吸うのも 大嫌いなこの家に足を踏み入れるのも 今日が最後だ。
目立たないように地味な服に身を包み 必要最低限の荷物、 それからATMで下ろしてきたお金を適当なバッグに突っ込んで 音を立てないように部屋を出た。
時間的に夕食時の最中であろうあいつらに 気づかれないように、 家を出なければならない。
電気も付けずに 暗い階段をゆっくりと降りていく。 階段を降りると、もう玄関は目の前だ。
あと、少し。 あと少しで、全てを捨てられる。
階段の最後の一段を降りて、 廊下へと視線を向けると 一瞬、心臓が跳ねた。
閉めてあると思っていた リビングのドアは開けっぱなしで 光がぼんやりと廊下へ漏れている。
仄かに鼻をくすぐる、料理の匂い。 予想通り、今は食事中みたいだ。
気配を極限まで消して ゆっくり、ゆっくり玄関で靴を履くと ドアノブに手を掛けた。
ホソク
その時、ふと覚えた違和感。 何か、おかしい。
確かにあいつらは今、この家にいるはずだ。
だって、リビングは電気が点いてて 料理の匂いがしてたし 玄関には スンヒョンの革靴、母親のハイヒール、ナムジュンの靴も ちゃんとある。
なのになんで 物音ひとつ聞こえないほど静かなんだ…?
ドアは開いてたっていうのに 声も、食器の音も、テレビの音も なにひとつ聞こえない。
まるで、誰もいないかのような__
ナムジュン
ホソク
突然 後ろから聞こえた声に 一瞬、息が止まった。
気づかなかった。 冷や汗が背中を伝う。
でも。
僕はもう、ここを出て行く。 絶対に。
後ろにいる人物を無視して 玄関のドアを開けようとするけど それは叶わなかった。
ナムジュン
そんな声が聞こえたから。
今、コイツの口から確かに発せられた名前に 心臓がバクバクと速まる。
ドアノブを握る手に力がこもって 汗が滲んでる。
体はドアに向けたまま 僕は振り向いて ナムジュンを睨みつけた。
ホソク
ナムジュン
ホソク
玄関前のフローリングに立っているナムジュンは 意味のわからない事を言って 薄気味悪い笑みを浮かべているだけ。
ホソク
僕がナムジュンに、 ジンヒョンの事を教えた?
そんな事、する訳ない。 そもそも、コイツとはまともに会話すらしていないのに。
ナムジュン
ホソク
ナムジュン
ホソク
淡々と言い放たれたその言葉に 思わず、激昂しそうになる。 でも、意外にも頭はすぐに冷静を取り戻した。
違う、これはこいつの挑発だ。 僕の反応を面白がってるだけ。 今、それに乗っかってる暇なんて無い。
そう思ったから。
小さくため息をついて ナムジュンに言った。
ホソク
ナムジュン
ホソク
前にユンギ先生についた嘘を もう一回言うことになるなんて。
ナムジュン
ホソク
これ以上この事を念押しすると 余計怪しまれそうだ。
でも、この場を切り抜けるには。
僕が、僕たちが 企ている事を悟られないようにするには。
ジンヒョンに、危害を与えないためには。
言いたくないことも、 言わなければいけない。
ホソク
それを聞いたナムジュンは、表情を崩すことなく 僕から目を逸らさないまま言った。
ナムジュン
ホソク
言葉を返す事ができなかった。 ナムジュンに全て、バレている。
なんで。 なんでこいつ、知ってるの。
ホソク
小さな声は、動揺がもろに表れていて
それを隠すように 奥歯を噛み締めて ナムジュンを強く睨みつけるしかなかった。
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