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私たち双子はまるで『鏡』だと、 周囲の人たちから言われてきた。
「絵梨ちゃんと由梨ちゃんは本当にそっくりだね」
幼い頃は母がよく同じ服を私たちに着せていたため、 そう言われることも多かった。
小学生になると、服の好みが正反対に分かれた。
妹の由梨はピンク色やふりふりの服を着るようになり、 私はなるべく地味な色を選ぶようになった。
「絵梨ちゃんと由梨ちゃんって似てないよね」
周りの人はそんな風に私たちを比べるようになった。
中学生になると性格もはっきり分かれ、 由梨は明るく元気なクラスの人気者に、 私は地味で根暗ないじめられっ子になった。
クラスメイト
由梨
クラスメイト
由梨がどうして私に構うのかわからなかった。
由梨
元気すぎて逆にこっちが疲れてしまいそうだ。
絵梨
由梨
由梨は自身のことを名前で呼ぶ。 まさに可愛い女の子といった感じで私とは絶対に合わない。
絵梨
由梨
連れてこられたのは洋服店、 由梨の行きつけのお店だった。
絵梨
由梨
私が普段絶対着ないような服を着せられ、 流行りの『お揃いコーデ』とかいうやつをやらされ、 ツーショットまで撮られた。
翌日、ちょっとコンビニまで行こうといつもの服に着替えた時、 由梨が話しかけてきた。
由梨
絵梨
由梨
あんな服、人前で着れるはずがない。
絵梨
由梨
由梨の押しに負け、 私は一週間だけ由梨と同じような服を着るはめになった。
コンビニに行く途中、 クラスメイトと鉢合わせてしまった。
クラスメイト
絵梨
小学生の時から間違われることなんてほとんどなかったのに。
クラスメイト
絵梨
勢いで逃げてきてしまった。
服が変わっただけでわからなくなるものなのだろうか。
翌日の学校で、 由梨とクラスメイトが話しているのを聞いていた。
クラスメイト
由梨
クラスメイト
完全に私のことだ。 どうにかバレないように誤魔化してほしい。
由梨
願いは届かなかった。 何で言っちゃうの。
クラスメイト
由梨
もっと最悪な展開になってきた。 由梨が手招きをして、私を呼んでいる。
絵梨
コミュニケーション皆無な私にとって、 由梨以外の人と話すということが地獄でしかない。
由梨
絵梨
もう誤魔化しても無駄だ。 私は仕方なく認めるしかなかった。
クラスメイト
絶対何か言われる、そう覚悟していた。
クラスメイト
似合ってた……? 可愛かった……? 本当に?
由梨
この日から私は、自分で服を選ばなくなった。
絵梨
由梨
毎朝由梨にコーデを聞いて、 由梨が選んだ服だけ着るようになった。
「絵梨ちゃんと由梨ちゃんって可愛いよね」
「さすが双子って感じ」
そうだ、私たちは双子。 私も由梨のように可愛くなれるんだ。
高校生になっても同じ生活を続けていた。
絵梨
由梨
私たちはクラスの人気者になり、 学年を超えて有名な双子として噂になっていた。
私たちはいつも一緒に行動するようになった。
クラスメイト1
由梨
相変わらず元気な由梨。 私はその隣でにこにこしているだけだ。
クラスメイト2
由梨
私たちの周りには常に誰かいて、ちやほやされて、 もう私がいじめられることはなくなった。
母
母が夕食時に尋ねてきた。 正直やりたいことも決まっていないし、 そこそこの大学を受けようと思っていた。
由梨
その大学ならそこまで偏差値も高くない。
絵梨
こうして私たちは、同じ大学を受験し、見事二人とも合格した。
夢にまでみた憧れのキャンパスライフ。 服は変わらず、由梨に決めてもらっていた。
由梨は服飾学部、私は文学部で、 常に一緒にいることはなくなった。
生徒
絵梨
入学してからこのくだりを何回もやっている。 同じ髪型、同じ体型、同じ顔、そして同じ服。 私はふと、昔言われたことを思い出した。
「まるで写し鏡のようだね」
私たちは双子だ。全てが同じ。 由梨のようにならないと、またいじめられる。
???
文学部の校舎の前でぼーっと立っていた私に、 無愛想な男の人が話しかけてきた。
絵梨
???
この人もまた、由梨と勘違いしているようだ。
絵梨
???
男の人は何か納得したようだった。
絵梨
???
それだけ言って、男の人は去っていった。
絵梨
混乱して言葉の意味を理解できない。
そんなはずない、由梨と同じだから、 そんなのありえない。
「絵梨は今日も可愛いね」
「あの服飾学部の妹さんに選んでもらってるんでしょ? すごく似合ってる」
ほら、私は可愛い。みんなもそう言っている。 あんなこと言うのは、あの男の人だけだ。
絵梨
由梨
一番近くにいる由梨だって、そう言ってくれる。
もうあの頃みたいに、 私を馬鹿にするやつも、拒絶するやつもいない。 みんなみんな、今の私が好きなんだ。
???
絵梨
???
あの時の男の人だ。 私はいつの間にか、 服飾学部の校舎の前で考え込んでしまっていたようだ。
絵梨
蓮
絵梨
なんか喧嘩を売ってしまったようで恥ずかしい。 というか、由梨と同じコーデで服飾学部の校舎の前にいたのに、 どうして私だと気づいたのだろう。
蓮
絵梨
私は必死に反論した。 すると、大島さんはため息を吐いてこう言った。
蓮
何だろうこの感情。 私は何か、間違っているような気がする。
蓮
絵梨
どんなに可愛い服で着飾っても、 私の性格は由梨のように明るくなったわけではない。 今考えればむしろ逆かもしれない。
蓮
絵梨
大島さんはまたため息を吐くと、私の手をいきなり掴み、 大学の外へと連れ出そうとした。
絵梨
蓮
連れてこられたのは洋服店。 由梨の行きつけのお店とは全く違う、 カジュアルで落ち着いた雰囲気のお店だった。
蓮
渡された服に着替えて鏡の前に立つと、 そこにはあの頃の私でも由梨でもなく、 大人になった私がいた。
絵梨
蓮
大島さんは私の頭をぽんと叩き、 そのまま帰っていった。
家に帰ると、私の姿を見た由梨がものすごい剣幕で駆け寄ってきた。
由梨
絵梨
由梨
絵梨
由梨
由梨にとっては、似合ってないみたいだった。
由梨
蓮
由梨と大島さんが言い合っていると聞き、 慌てて駆けつけた。
由梨
蓮
由梨
蓮
二人の視線が私に向く。
蓮
絵梨
今度は流されない。 私は私のままでいいんだ。
由梨
絵梨
由梨
由梨は足音をわざと大きく鳴らしながら、 校舎へ歩いて行ってしまった。
絵梨
蓮
私は大島さんと一緒に服を選ぶようになった。
今度は人任せじゃなくて、 自分のおしゃれを楽しんでいる。