『君が、好きだから。』

あくびをしながら、ベッドを降りる。

今日も、朝早くに起きて学校へ向かわなければいけない。

しんどいけど…まぁ、彼氏のさとみくんに会えるのは嬉しいかな。

僕…

ピロンっ

そりゃ、女になりたいと思ったことは何度もある。

女だったら、大好きなさとみくんと堂々と付き合えるから。

皆にも祝福されて、いつか結婚もして、子供もつくって。

そんな、当たり前の幸せな道を、さとみくんに歩ませたかった。

それが、僕の心からの願いだった。

僕が、さとみくんにこの姿で会いに行ったとして。

彼は、どう思うだろうか。

信じないだろうか。

それとも、喜ぶのだろうか。

…どっちにしろ、僕は耐えられそうにはなかった。

わがまま、だな。

そう、軽く考えた。

自分の身に、何が起こっているのかも知らずに。

1日、2日、5日、10日。

どれだけの日が経っただろうか。

僕は、女のままだった。

何も変わることは無かった。

だから、さとみくんからのラインも無視した。

電話がかかってきても、知らないフリをした。

家に来た時も、居留守を使った。

そうしなきゃ、会いたくなると思った。

こんな姿で会ったって、僕が後悔するだけなのに。

どうせ、僕が男に戻ったら、女の方が良かった、ってガッカリされる。

やっぱ男は無理、とか言われるかも。

そんなの、耐えられないよ。

ー数週間後ー

最近、彼からの連絡が減った。

家に来なくなったし、電話もかけてこない。

僕に冷めてきたのか、元気がないのか。

どちらにせよ、さとみくんの様子が知りたかった。

そしたら、自然と彼を毎日見れる。

関わらないようにすれば、話すこともないだろうし。

もし男に戻れたら、女の子は急遽転校して、僕は復帰出来た、って設定にすればいい。

彼に会えるかも、という嬉しさで、胸は高鳴っていた。

ー1週間後ー

最近、外に出てなかったし…

すごく懐かしく感じる…

久しぶりに見た彼は、随分と酷い有様だった。

くまの酷い目元、先程まで泣いていたかのような目。

僕の知っていた彼ではなかった。

彼は、この道を通らないはず。

…なのに、ここにいる、ってことは…

1ヶ月以上も来てない、僕を？

ラインに既読すらつけていないのに？

見て、られない。

久しぶりに聞いた、彼の声。

僕の大好きな声。

それは、何も変わってなくて。

僕の腕を掴む力が、より切なくさせた。

さとみくん、いつもこんなことしてるの…？

そんなに、僕を待っててくれてたの？

…なら、余計、会えない。

僕の姿が戻るまでは、絶対に。

あんなに当たり前に見ていた学校が、今は懐かしい。

少しドキドキしながら、校門をくぐった。

クーラーの効いた部屋で、少し頭を休める。

朝に見た、さとみくんの姿が忘れられなかった。

そう呟いた時、さとみくんからラインがきた。

画面を開かずに見ると、先に行っとくね、というメッセージだった。

切なさと、苦しさと、罪悪感で押しつぶされそうになる。

彼は、倒れたりしないだろうか。

僕のいない所で、ころっと死んだりしないだろうか。

ご飯はちゃんと食べてるのかな。

ちゃんと、毎日笑えてるかな。

そう心配になるほど、さとみくんは弱っているように見えた。

ザワザワ…

パチパチパチ…！！

莉犬くんだ…

久しぶりに見たなぁ…

本当は、ちがう。

さとみくんに、否定して欲しかった。

ころんを待ってたわけじゃないよ、って。

たまたま、僕に見えたから引き止めただけで。

毎日、あんなことしてるわけじゃない、って…

ちがうのに…

怒らせたかったわけじゃ、ないのに…

もう、無理しないで欲しかったから…