テラーノベル
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世界には、二つの街がある。
ひとつは、煌びやかな光に満ちた“上層”
高層ビルが並び
清潔な舗道に音楽が流れ
笑い声が絶えない街
そこに住む者たちは、飢えることも凍えることもなく、贅沢に囲まれて暮らしていた
政府や権力者、財閥、そして裏で金を動かす富豪たち
欲しいものは手に入り、罪すら金で買える世界
そしてもうひとつは、影のように“その下”に広がる、貧困と腐敗にまみれた街。
上層から吐き出された排気とゴミ、価値のない人間のように扱われる者たちが住む場所
そこでは今日食うものにすら困り、死体が路地裏に転がっているのも珍しくない
人口の約3割がこの下層に生きており、その多くが戸籍すら持たず
ただ“存在している”だけの命だった
ぼろ布を被って寒さをしのぎ
道端で体を売る者
小さな子どもがゴミ箱を漁り
屋台の残飯に手を伸ばす姿
それでも――
そこには、確かに“人の暮らし”があった
寄り添い合い、小さな火を囲んで笑う者たち
家族として生きる人間たちも、 わずかながら存在していた。
柊 朔弥(ひいらぎ さくや)も、その街の外れで生きるひとりだった
人間
ここでは人はよく死ぬ
餓死も自殺も、他殺も、、、
柊 朔弥
人間
人間
人間
人間
ここでは、人を殺して食べる。
まともな食料がここにはない。
柊 朔弥
ガサガサ
柊 朔弥
珍しくまだかじられていないパン
柊 朔弥
路地裏のコンテナ
こんな寒さの中、目が霞むのは
空腹のせいか
それとも、涙のせいか
自分でも分からなかった
上層部の人間に見つかれば、殴られるか、最悪命を奪われる。
この街で“下の人間”が“上の場所”に入り込むことは、それだけで“罪”だった。
上層部の人間
足音にびくりと肩をすくめ、気配を殺すようにして路地裏を離れる。
柊 朔弥
柊 朔弥
腹の底で泣くような声がこぼれる。
近くにあるはずの“当たり前の生活”が、手を伸ばしても決して届かない。
指の隙間から零れる涙を、誰も見ていない夜に委ねて、目を閉じた。
明日なにか変わるかもしれない
そんな根拠のない希望を、心の片隅に灯したまま。
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