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第1話 - あ

2023年04月19日

#恋愛

結城真矢

リン

ねえねえ、お願いがあるんだけど

リン

来週の社員旅行、私と相部屋になっているでしょ？

リン

出て行ってくれないかなあ？

フウ

リンさん、いきなり何…？

フウ

部屋を出て行ってとか、言ってる意味が分からないんだけど

リン

私ねぇ、他人と相部屋とか困るのよ～

リン

なんか女同士、ましてや相部屋とかたまったもんじゃないわ

リン

社員旅行を満喫できないじゃないの

フウ

相部屋だと何か不都合なことがあるの？

フウ

もしかしてリンさん、部長と一緒に過ごす気じゃ？

リン

あら、知ってたの？

フウ

あれだけ普段から不貞を見せられちゃ、たまったもんじゃないよ！

リン

なに？その言い方？

フウ

ツッコミたいことは山ほどあるんだけど…

フウ

やっぱり部長とそういう関係にあるのね

リン

だから何なのよ！

リン

悪い？

フウ

いやいや…普通に考えてアウトでしょ？

フウ

部長は既婚者なのよ

リン

そんなの関係ないわ！

リン

私と部長は愛し合っているのよ！

フウ

社内での噂では関係を疑っていたけど、やっぱり事実だったんだね

リン

何で私が疑われなくちゃいけないの！

リン

私は正々堂々、部長とお付き合いしているんだけど

フウ

はあ？

フウ

リンさん、自分が何言っているか分かってんの？

リン

だから言葉のままだって言っているでしょ！

リン

私は美人で男受けもいいから、男性からのアプローチが多くて困っちゃって

リン

その一人が部長だったってワケ

フウ

でもリンさんは部長の誘いを断らなかったってわけね

リン

こんなチャンス二度とないわよ！

リン

部長に目をかけられたっていうことは、私の将来も保証されたってワケ

リン

次期社長夫人ってこともあり得るわね

フウ

自分がとんでもないことをしているのが分からないの？

フウ

自分の行動を正当化して、許されるべきことではないのよ！

リン

あなたには関係ないことでしょ？

リン

屁理屈言ってないで、黙って部屋を出ていけばいいの

リン

そうすれば事が丸く収まるじゃないの

フウ

じゃあ私はどうすればいいのよ？

フウ

別に部屋とか取ってくれるの？

リン

はあ？

リン

何ふざけたこと言ってんの？

リン

そんなの自分でどうにかしたらいいじゃない！

フウ

ちょっと待ってよ！

フウ

言っていることが一方的すぎない？

フウ

私も望んであなたと相部屋になったわけじゃないのよ

リン

だから何？

リン

私には、あなたの上司でもある部長がいるのよ

リン

ここは自ら引き下がるのが礼儀じゃない？

フウ

いやいや、どうみてもおかしいのはそっちでしょ！

フウ

私は何も悪くないでしょ

リン

私は部長に気に入られているの！

リン

私の機嫌を損ねれば、きっと部長だって黙ってないわ

リン

即刻、あなたはクビよ！！

フウ

そんなことできるわけないじゃない！

フウ

あなたと相部屋は嫌だけど、部屋は出ていかないからね！

フウ

あなたが別部屋を用意してくれたら話は別だけど

リン

言うことを聞かない女は、たとえ同僚でも容赦しないんだから

リン

覚えてなさい

～その夜～

ケイ

フウ、ちょっと聞いてよ～

フウ

久しぶりだね

フウ

急にどうしたの？

ケイ

最近、家に差出人不明の手紙が届くのよ

ケイ

しかも、これがなかなか脅迫じみた内容なのよ

フウ

えっ！こわ！

フウ

何って書いてあるの

ケイ

「夫と離婚しないとあなたに危害を加えますとか書いてあるの」

ケイ

こわくな～い？

フウ

まじで…？

フウ

心当たりはあるの？

ケイ

それが全くないのよ

ケイ

宛名も差出人も書いてないし、

ケイ

誰がこんなことをしているのか分からないのよ

フウ

字とかは見覚えがあったりするの？

ケイ

全然ないよ

ケイ

怖くて主人にも聞けないし

フウ

うん、今は絶対聞かないほうがいいと思うよ

ケイ

え？

ケイ

何で聞かないほうがいいと思うの？

フウ

いや…ちょっとね、私は思うことがあって

ケイ

やっぱりフウは何か知っているのね！？

ケイ

お願いだから教えて！

フウ

いやあ、聞いたら絶対にショックを受けると思うよ

フウ

私も今日聞いたばかりのことなの

ケイ

まあ…なんとなく予想はついているんだけど

ケイ

問い詰めてもはぐらかされそうで、どうしていいか分かんないよ

フウ

大丈夫だよ

フウ

そんなこともあろうかとだいぶ証拠は掴んでるから

フウ

ケイのためなら何でも協力するから

ケイ

ほんと…？

ケイ

私なんかのために

フウ

私もね、色々トラブルがあるから、一緒に解決しよ！

ケイ

うん！分かった！

フウ

また連絡するね！

～１週間後～

リン

あなた、何で来てないのよ？

リン

あ！もしかして、私に締めだされちゃったから嫌になっちゃった？

リン

それはそれで超ラッキーなんだけど！！

フウ

何ひとりで盛り上がってんの？

リン

喜ぶに決まってるじゃないの！

リン

社員旅行でいちばん邪魔なあなたが来てないんだもん

リン

これで部長との婚前旅行を存分に楽しむことができるわ

フウ

リンさん、あなたには心底呆れるわ

リン

はあ？

フウ

他の社員の間で随分と話題になっているみたいよ

フウ

まるで部長の妻のように、人前で堂々としているって

フウ

あまりにもあからさますぎて、みんなドン引きしているみたいよ

リン

それがどうかしたの！？

リン

私は人の意見に耳を傾けるつもりはないわ

リン

それにあなたはこの場に来てないじゃないの！

リン

私が普段どう振舞っていようが、余口出しするような資格はないわ

フウ

そう言われたらそうね

フウ

別に口出しするつもりはないわ

フウ

自分の不貞を堂々と肯定しているんですもの

フウ

私が言ったところで響かないのは分かり切っているからね

リン

ほんと、心底ムカつく女ね

リン

この場にいなくても、顔が浮かんでムカつくくらいだから

リン

もう会社に来ないでちょうだい

フウ

どういうこと？

リン

部長からの伝言で「お前は今日付けでクビだそうよ」

フウ

なに訳の分からないことを言っているの！？

リン

部長おっしゃっているんですもの

リン

大事な次期夫人を冒涜した罰よ

リン

私に楯突こうものなら容赦しないんだからね！

フウ

部長ごときにそんな権限があると思う？

リン

あるに決まってるじゃない！

リン

部長には次期社長の座が待っているの！

リン

そしたら私も晴れて社長夫人になるのよ

フウ

くだらない妄想は聞き飽きたわ

リン

そうやって能書きを垂れているのは今のうちよ

リン

あなたはこれで「サ・ヨ・ナ・ラ」

フウ

それはこっちのセリフよ

フウ

今に見てなさい

～その夜～

リン

いやーーーっ！！

リン

ちょっと！なんでこんなことになってるのよ！！

フウ

お待ちしていました

フウ

ずいぶん慌てているのね

リン

あなた、社員旅行には参加しないって言ったじゃないの！

リン

それに隣の人はいったい誰よ！

リン

部長ったら血相変えて逃げてしまったのよ

フウ

この人は私の姉、そして部長の奥さんよ

リン

へ？

フウ

ま、知らないのも無理はないわ

フウ

姉もあなたに会うのは初めてだってことだから

リン

ちょっと待ってよ！

リン

なんであなたの姉が旅行先なんかに来ているの！

リン

会社とは関係ないじゃないの！！

フウ

あら、私はあなたに部屋を追い出されたから、自腹で部屋を取ったのよ

フウ

その部屋に姉を呼んだっていうワケ

フウ

別に会社に迷惑をかけているわけじゃないから、いいでしょ？

リン

大迷惑に決まっているじゃない！！

リン

そもそも社員旅行は参加をキャンセルしたんじゃないの！？

リン

朝から来なかったじゃないの！

フウ

誰もキャンセルだなんて一言も言ってないんだけど

フウ

現地で合流したんだけど、あなたたちは既に別行動だったみたい

リン

よくも私たちを騙したわね！

リン

絶対に許さない！

フウ

騙しているのはどっちのほうだと思う？

フウ

他人の夫を奪っておいて、平気でよくそんなことが言えるわね

リン

部長は私のことを愛しているのよ

リン

もちろん私も部長のすべてを受け入れ、夫婦になるつもりだわ

フウ

それで姉に脅迫状を送っていたってワケね

リン

脅迫状なんてずいぶんと大げさな表現ね

フウ

離婚をけしかけるような内容の文章だったみたいじゃないの

リン

そうすれば部長と奥さんが早く離婚してくれると思って…

フウ

残念ながら逆効果ね

リン

どうして？

フウ

あなたのやっていることは立派な脅迫罪よ

フウ

この文書を持って警察に被害届を提出したわ

リン

そんな文書、差出人も書いてないから誰から来たって分からないじゃないの

リン

証拠もないのに被害届なんて、甘っちょろい考えしかできないのね

フウ

証拠なら持ってるわよ

リン

へ？

フウ

あなたの筆跡を取らしてもらったわ

フウ

普段の会社の名簿などから簡単に割り出せたんだけど

フウ

脅迫状と筆跡が一致したそうだわ

リン

それぐらいのことで何だって言うのよ！

リン

たかが手紙一枚で私のことを陥れることができると思ったら、大間違いよ

フウ

たしかにそれだけじゃ不貞を立証するのは困難だわね

リン

ちょっと…何言ってんの？

フウ

他の社員たちが目撃したりしているところ

フウ

社内外での不貞行為、全部証拠として押さえさせてもらったわ

リン

何勝手なことしているのよ！？

リン

自分たちの上司を陥れるようなマネなんかして、許せないわ！

フウ

それだけ会社のみんなにとって、目に余る行動だったのよ

フウ

人前で堂々と不倫なんかして、誰も攻めないとでも思ってた？

リン

部長との関係をみんなに見せつければ、

リン

私だって尊敬の対象になれると思ったの

リン

あなたたちだって一目置いていたでしょ？

フウ

まったく勘違いも甚だしいこと…

フウ

あなたの不貞は、会社中に知れ渡っています

フウ

きっと社長の耳にも…

リン

ウソでしょ…

フウ

あなたの行為はすべて筒抜けのようです

フウ

会社の経費を使いこんだり、暴力沙汰も起こしているみたいですね

リン

絶対に部長が守ってくれると思っていたのに…

フウ

そんな部長は真っ先に逃げて行ってしまったじゃない

フウ

ま、姉が真っ先に追いかけて捕まえたそうよ

フウ

あなたのことは絶対に許さないと言っていたわ

リン

あーもう！せっかく社長夫人になれると思っていたのに

リン

これじゃ私の計画が台無しじゃないの

フウ

全然反省の色が見えないわね

リン

私は何も悪くない！

リン

口説いてきたのは全て部長なのよ！

フウ

リンさん、見苦しいですよ

フウ

相手の奥さんには全てバレているんだから、潔く認めなさい

リン

そんな…私が長年築き上げてきたものきたものって何だったんだろう

フウ

歪んだ愛情と権力です

フウ

他人を平気で傷けるような人間は、もう相手にはしたくないものです

リン

ちょっとフウさん！！

リン

お姉さんに「許してくださいって伝えてよ〜」

リン

部長は返すからって

フウ

お姉ちゃんから出「あんな男はいらない、あんたに慰謝料請求するから」

フウ

だってさ

リン

ほんとに…すみませんでした！！

～後日談～

フウ

リンはホテルの部屋を締め切って立てこもりましたが、

フウ

奥さんである私の姉に連れられた部長がやってくると

フウ

やっとホテルの部屋から出てきて、事なきを得たそうです。

フウ

その後姉と部長の夫婦は離婚、

フウ

慰謝料も請求されたようです。

フウ

リンは仕事に復帰しましたが、同僚からの冷たい視線や、

フウ

高慢な女という先入観がなかなか払しょくされず、

フウ

その空気感に耐えかねたリンさんは、仕事を退職してしまったようです。

フウ

いまはどこかでおじさん相手に水商売を働いているとのことです。

フウ

私は姉と一緒に旅行に出毛けるようになりました。

フウ

やっぱり相部屋は家族や仲の良い人と泊まるに限りますね！

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結城真矢

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