大切なお母さんへ
お母さん、元気?
私ももう、お母さんになったよ
やっぱりそっちは快適なのかな?
少し...なんでだろうね
思出話がしたくなって
手紙を書くことにしたんだ
大好きなあなたへ
お母さんは元気だよ
快適といえば快適なのかな?
だけど、私はあなたに逢いたいな
そう、お母さんになったのね
おめでとう
とっても素敵ね
思出話、いいじゃない
それなら、私から始めるわね
初めましてのあの日が 思い出すと今でも可笑しいわ
産まれてきた子はあなただけなのに あなたのお父さんも
お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも
もちろん私も大泣きで
まるで子供がたくさんみたいで
子育ては楽しかったわ
夜中でも、あなたの声に起きたら
すぐに馳せ参ずるつもりで...
辛い、なんて思わなかった
あなたが大切だったのよ
大切なお母さんへ
やめてよお母さん、照れるから
でもね、私も嬉しいよ
私が一番憶えてるのは
やっぱりあの日かな
私が不機嫌で、部屋に籠って 出てこなかった日
私が扉越しに、怒鳴って お母さんに酷い言葉をぶつけて
その後の、お母さんの声
泣いてたよね
どうしてあんな事言っちゃったのか
今になって物凄く後侮してるの
許してくれる、かな?
大好きなあなたへ
あら、漢字間違えてるわね
“後侮”じゃなくて“後悔”よ?
そうね
確かに、辛かったし悲しかったな
だけどね
それでも良かったのよ
ずっと愛してた
ううん、愛してる
恋愛感情じゃないの もっと深い、愛してるだから
それから、高校一年生の時
照れくさそうに、 クラスの男の子を連れてきた日
ああ、 あなたも大人になってくんだなって
ちょっと、ちょっとだけ
寂しくなったのは内緒ね?
だけど、あなたのお父さんと同じ 優しそうな人だったから
お母さんも嬉しかったわ
甘えてばかりだったあなたが
いつの間にか 自分でお弁当を作るようになって
手間が掛からなくなって
楽になって、嬉しい筈なのに
どうしてかしらね
なぜか泣いちゃったのよ、私
大切なお母さんへ
高校一年生の時、だったね
お母さんが、突然倒れたの
私のせいだ、 私が無理させたからだって
何度も悩んだんだよ、本当は
だけど、お母さん
ずっと笑顔なんだもん
私がみっともなく泣ける訳 ないじゃない
だから今度は、私、
お母さんから連絡があったら
すぐに馳せ参ずるつもりだった
だけど、私ドジだから
少し遅れちゃったよね
お弁当作り、難しかったよ
普段、お母さんがどれほど
大変な作業してるか
やっとわかったというか...
大好きなあなたへ
遅れてなんていないわよ
連絡したら、 すぐに来てくれたじゃない
休日でも、構わずに
来てくれただけで嬉しかったわ
でも、あなたに心配掛けちゃった
それが病気よりも辛かったな
そうだ、憶えてる?
私があなたの、部活動の大会を 応援しに行ったとき
最初はミスして焦って、 私ずっと心配してたのに
私と目があった瞬間
嘘みたいに点を決めて
弾けるような笑顔を見せてくれた
一点差で負けちゃっても、
あなたは涙なんて見せないから
私が泣けなくて困ったわ
本当は、ギュッと抱き締めたかった
大切なお母さんへ
もちろん憶えてるよ
車椅子で大変だったのに
見に来てくれたから
私、思わず 『点決めなきゃ!』って
めちゃくちゃ頑張ったんだよ
...負けちゃったけどさ
お母さんに 心配させたく無かったんだ
抱き締めてくれようとしてたの!?
なんだ、泣いておけば良かった
......なんてね
一番辛かったのは、あの日
お母さんが、私の手の 届かない所に行っちゃった日
自分の無力さが...なんだろうね
何も出来なかったから
余計辛くって......
なんで 部活動なんてしてたのかなって
どうしてお母さんの近くに いなかったんだって
何度も思ってさ
お母さんには 辛い言葉とか何度も言って
悩ませて、泣かせちゃって
なのに
肝心な時には何も出来なくて
何も返せなくて
ごめんねって何回も思った
大好きなあなたへ
何言ってるの?
あなたは私にたくさん
宝物をくれたじゃない
ちゃんと憶えておいてね
あなたの存在が、一番の宝物なの
辛い言葉、悲しい言葉
確かに、何度も聞いたわ
だけど
愛してることには変わり無い
理由なんてないの
あなたがどこに行っても、 何をしていても
あなたは私の大切な子供なの
ああ、これで便箋も最後
ごめんね
もっと思出話をしていたいけれど
最後に一言だけ
元気でね、大好きよ
〒○○○-XXXX
日本 東京 △△△――
大好きなあなた 様
大切なお母さんへ
お母さん、私も大好きだよ
ありがとうで表せないほど
感謝したいし
大好きで表せないほど
お母さんが大好きだよ
私も、お母さんみたいな
素敵なお母さんになるよ
約束
やっぱりそこは快適?
快適だったら飽きないでね
私があと何十年かして
お母さんの所にいくまで
飽きずに待っててよね
お母さん、最後に
いままでありがとう
雲と雲の隙間から
斜めに射し込む明るい光
ぼやけて虹色な視界に 美しいその光がきらめく
その光が消えないうちに
手紙をお母さんに届けたくて
紙が少し濡れたのも気にせず
もう一度ペンを持ち直す
インクが水に触れたらしく
じわりと滲む
構わずに、書き上げた
黄泉の国
私の大切なお母さん 様
Fin
コメント
21件
ひとつひとつの言葉に凄く心にグッときました。手紙から「あなた」が成長してる様子やお母さんがだんだん弱っていってる様子。全て伝わってきました(
天国のお母さんとの、やり取りだったんですね! 「涙」を使わずに泣く表現、すごく好きです!! お母さんが漢字を訂正する所、娘さんが産まれた時の感動。もう、全部好きです!!
泣ける……💧 あ、初コメです! すごい良い作品でした😎✨ 言葉で表せないほど良かったです!