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家族愛/友愛系まとめ

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家族愛/友愛系まとめ

6 - 兄貴、頼むから...

♥

310

2020年06月10日

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弟(優輝)

ねえ、兄ちゃん!

弟(優輝)

兄ちゃん、体弱いんだろ?

...そうだね

弟(優輝)

だったら俺が

弟(優輝)

兄ちゃんの分まで頑張るから!

はは、ありがとう

僕が小学6年生、弟が小学4年生

2歳差の兄弟として僕達は育った

好きな食べ物も、趣味も同じで

たった1つ違うのは

僕が病弱だってこと

4年生、どう?

弟(優輝)

50m走で1番だった!

......そっか

弟(優輝)

兄ちゃん...?

え?

いや、なんでもないよ

いつの間にか

弟は運動神経抜群になっていた

弟(優輝)

......っ、えっと

どうかした?

弟(優輝)

あ、いや!

弟(優輝)

なんでもねーから!

最近、弟は悩んだような顔をする

僕に打ち明けてくれる...筈無いか

いつからだろう

変わってしまったのは

ただ、いま...

ここ最近、呼吸が苦しくなってる

だけど、それ以上に苦しいのは

弟(優輝)

なんだ、学校行ったんだ

...うん

弟(優輝)

それで、告白されたわけ?

告白...そう、だね

弟(優輝)

お前は顔が良くて頭も良いもんな

弟は僕のことを

『お前』と呼ぶようになった

......

弟(優輝)

母さんにも、友達にも

弟(優輝)

比べられる俺の気持ちなんて...

え...?

初耳だった

弟(優輝)

あ...

弟(優輝)

忘れろ

え、だって

弟(優輝)

忘れろよ!

...ごめん

僕が中学3年生、弟が中学1年生

間に入ったヒビが

苦しくて苦しくてしょうがなかった

そしてその3日後

僕は入院することになった

入院も3週間目

見舞いに来てくれた母さんに

僕はいつものように質問する

あのさ、優輝は...?

母さん

...来ないわよ

...そっか

母さん

諦めたら...?

母さん

あの子、見舞いに来る気

母さん

全く無いみたいよ

......

いいんだよ

諦めたら、優輝が来た時

入れなくて困るから

母さん

...そうね

あの日から、僕と弟の間の溝は

全く埋まらなかった

数日後までは

(今日も優輝...来なかったな)

(いい加減、諦めた方が良い...のかな)

諦めたくなかった

諦めるつもりなんてなかった

弟(優輝)

...おい

っ、優輝...!?

ゴホッ...ケホッ...!

弟(優輝)

大声出すなよ...馬鹿じゃねーの?

いや...ゴホッ

嬉しかった、からさ

弟(優輝)

......

優輝?

無言でベッドの側に立つ弟

何かを躊躇ってるみたいな顔で

どうかした?

弟(優輝)

......

弟(優輝)

――兄貴

...っ!

声変わりも終わった、低い声で

兄ちゃん、でも、お前、でもなく

(兄貴...?)

弟(優輝)

俺...これ、渡そうと...

弟(優輝)

思って...

...開けて良い?

弟(優輝)

うん

出てきたのは、マフラーだった

値札が付いたままの

ふはっ...

弟(優輝)

んだよ!

優輝、これ...

弟(優輝)

また、兄貴が元気になってさ

弟(優輝)

冬、旅行とか行きてーなって

弟(優輝)

思って...

え...

弟(優輝)

悪いかよ

値札のことは

黙ってることにした

ううん

僕も、行きたいな

弟(優輝)

っ、そっか

弟(優輝)

じゃあな、また...

もう帰るの?

弟(優輝)

宿題

ここでやってけば?

弟(優輝)

だって...

僕は気にしないよ

中学のこと、聞かせて

弟(優輝)

...おー

弟がたまに見せる

少し苦しそうな表情が、僕は辛い

僕が危篤に陥ったのは

5日後のことだった

身体に重りが巻き付いて

上手く動かせないような

苦しくて、声を出したいのに

喉から漏れるのは細い空気だけ

目を開けると、 白い天井が目に入った

(あ....れ?)

近くから聞こえる声に耳を傾けた

母さん

優輝、なんてこと言うの!

弟(優輝)

事実だろ!

弟(優輝)

んだよ....

弟(優輝)

勝手に...

弟(優輝)

勝手に危篤なんかなりやがって

弟(優輝)

部活やってたのに!

母さん

優輝!

弟(優輝)

もう安定したんだろ?

弟(優輝)

俺帰るから

母さん

待ちなさい、優輝!

ゆ、うき......?

声が出ない

弟(優輝)

っ...じゃあな!

ただ

少しずつ元通りになっていく視界で

優輝の瞳が濡れて光った

その一週間後

(あれ...)

(僕いつの間に寝て...)

弟(優輝)

兄貴

!?

優輝...?

弟(優輝)

無理...してねーか?

いや、全然...

それより、この前は
部活動大丈夫だった?

弟(優輝)

......起きてたのかよ

弟の瞳が濡れていたことは

まだハッキリはしてなかったけどね

秘密にしておくことにした

母さんは?

弟(優輝)

母さんなら、兄貴が寝てるの見て帰ってきた

弟(優輝)

俺、入れ違いで来たんだ

そっか....

弟(優輝)

なあ、兄貴

弟(優輝)

何も聞いてねーの?

え?

弟(優輝)

......いや、なんでもない

伏せられたその表情からは

どんな事かよくわからない

最近、また弟のポーカーフェイスが 上手くなったと思う

弟(優輝)

今日は、これ...渡したくて

僕に?

頷いた弟が取り出したのは

弟(優輝)

手芸部の女子に教わって作った...けど

少し不格好な

ふはっ...なにこれ...

靴下だった

弟(優輝)

また笑ったな!

弟(優輝)

まあ...俺が下手なんだけど

手作り...だよね?

弟(優輝)

...おー

うん、ありがとう

弟(優輝)

いや...

弟(優輝)

兄貴、寒がりだろ

弟(優輝)

だから...

これはさ

僕の宝物だね

弟(優輝)

っ....オススメしねーけど

わかるよ

兄だから

喜んでくれてるってわかるよ

(これは...履けないな)

(宝物に...なったから)

それから、3日後のことだった

夜中、急に息が出来なくなって

っ、あ...ぅっ

は...っ、

息を吸っても、肺に溜まらない

ナースコールを押そうとすれば

先に、弟が――

優輝がくれた靴下が目に入った

ゲホッ...ゴホッ...っ!

口元から飛び散った紅いものが

パッと白いシーツに華を咲かす

ゆ...、

ぅき.....

震える手を伸ばし、靴下を手に取る

手がぶつかって、写真立てが落ちた

ごめ...カハッ...ゲホッ

だんだんと曖昧になる感覚の中で

強く

強く

強く

優輝がくれた靴下を握った

・ ・ ・

ねえ、兄ちゃん!

兄ちゃん(涼)

兄ちゃん、体弱いんだろ?

兄ちゃん(涼)

...そうだね

だったら俺が

兄ちゃんの分まで頑張るから!

兄ちゃん(涼)

はは、ありがとう

兄ちゃんが小6、俺が小4

2歳差の兄弟

この頃には既に、親から

兄が長く生きられないことを

なんとなく聞かされていた

兄ちゃん(涼)

4年生、どう?

50m走で1番だった!

兄ちゃん(涼)

......そっか

兄ちゃん...?

兄ちゃん(涼)

え?

兄ちゃん(涼)

いや、なんでもないよ

また、やってしまった と思う事が

成長するにつれ増えていった

......っ、えっと

兄ちゃん(涼)

どうかした?

あ、いや!

なんでもねーから!

最近、 兄ちゃんとどう接すればいいのか

よくわからない

気まずくなっちゃうよな、きっと

いつからだろう

俺が 素直になれなくなったのは

アイツ(涼)

ただ、いま...

ここ最近、アイツは苦しそうだ

だけど、もっと 苦しませてしまっているのは

俺だ

なんだ、学校行ったんだ

アイツ(涼)

...うん

それで、告白されたわけ?

アイツ(涼)

告白...そう、だね

お前は顔が良くて頭も良いもんな

思ってもない言葉が口から漏れる

嫌な事があると、 兄に当たるようになっていた

アイツ(涼)

......

母さんにも、友達にも

比べられる俺の気持ちなんて...

アイツ(涼)

え...?

口を滑らしてしまった

あ...

忘れろ

アイツ(涼)

え、だって

忘れろよ!

アイツ(涼)

...ごめん

アイツが中学3年生、俺が中学1年生

俺のせいで生まれたヒビが

どうしようも出来なくて辛かった

そしてその3日後

アイツは入院することになった

...アイツの様子は?

母さんが病院から帰ってくると

開口一番に それを訊ねるようになった

母さん

そんなに気になるなら

母さん

お見舞い、行ってあげたら?

......やだ

母さん

どうして...

俺の勝手だろ

母さん

......

母さん

お兄ちゃん、優輝に会いたがってたわよ?

...知るか

抑えられない苛立ちは

他でもない、自分に向けた物だ

(だいたい、今更...)

(どうやって会えばいいんだよ...)

母さん

そんなに悩むこと...かな

は?

母さん

優輝は、お兄ちゃんに会いたい?

......別に

心配なだけ

母さん

...そっか

母さん

私もそういうの、あったな

え?

母さん

私はね...

昨日の母さんの言葉を思い返す

(何かプレゼントするって...)

手にした袋が鉛みたいだ

無地のマフラーなんて、

そもそも喜んでもらえるのか

(まあ...いいか)

ベッドの上の兄に声をかけた

...おい

兄貴(涼)

兄貴(涼)

っ、優輝...!?

兄貴(涼)

ゴホッ...ケホッ...!

大声出すなよ...馬鹿じゃねーの?

兄貴(涼)

いや...ゴホッ

兄貴(涼)

嬉しかった、からさ

......

兄貴(涼)

優輝?

無言でベッドの側に立った

兄貴(涼)

どうかした?

少し痩せた頬を見ていられない

......

――兄貴

兄貴(涼)

...っ!

ただ単に、呼びたかったから

兄ちゃん、でも、お前、でもなく

(照れくさ...)

俺...これ、渡そうと...

思って...

兄貴(涼)

...開けていい?

うん

丁寧に袋が開けられ 中からマフラーが出てくる

なぜか兄貴は吹き出した

兄貴(涼)

ふはっ...

んだよ!

兄貴(涼)

優輝、これ...

また、兄貴が元気になってさ

冬、旅行とか行きてーなって

思って...

照れくさくて

病室から 逃げ出してしまいそうだった

兄貴(涼)

え...

悪いかよ

兄貴(涼)

ううん

兄貴(涼)

僕も、行きたいな

っ、そっか

俺は知ってるのに

つい本音を言ってしまった

(兄貴は...気付いてるのかな)

じゃあな、また...

兄貴(涼)

もう帰るの?

宿題

兄貴(涼)

ここでやってけば?

だって...

兄貴(涼)

僕は気にしないよ

兄貴(涼)

中学のこと、聞かせて

...おー

兄貴の優しい瞳を見てると

罪悪感に襲われる

5日後のことだった

兄貴が、危篤に陥ったのは

血の気の失せた顔

このまま兄貴が死んじゃうなんて 思いたくなくて

だけど兄貴を見てるとどうしても

最悪の想像が止まらなくて

気が付けば、口を開いていた

もう俺...ここにいらないだろ

母さん

え?

俺がどーのこーの出来る問題じゃねーじゃん

きっとこのまま...

母さん

優輝、なんてこと言うの!

事実だろ!

どこかでわかっていたんだと思う

兄貴がもう長くないことも

だから

んだよ....

勝手に...

勝手に危篤なんかなりやがって!

勝手に危篤になって

勝手に向こうにいくつもりかよ

そういうつもりだったけど

部活やってたのに!

俺の素直になれない部分が 勝手に一言を付け足していた

母さん

優輝!

もう安定したんだろ?

俺帰るから

今すぐ帰らないと

堪えきれなくなりそうだった

母さん

待ちなさい、優輝!

ギリギリまで膨れ上がった 目元の水に気付かれないよう

っ...じゃあな!

俺は病室を飛び出した

少しずつ滲んでいく視界で

雫が廊下に落ちたのが見えた

その1週間後

眠っている兄貴の顔を見る

(もう長くないって...)

(改めて言うなよ...)

(...そんなの信じねぇし)

袋をギュット握った時

兄貴がゆっくりと目を開けた

兄貴

兄貴(涼)

!?

兄貴(涼)

優輝...?

無理...してねーか?

兄貴(涼)

いや、全然...

兄貴(涼)

それより、この前は
部活動大丈夫だった?

......起きてたのかよ

俺が泣いていたことは

兄貴(涼)

まだハッキリはしてなかったけどね

秘密にしておくことにした

兄貴(涼)

母さんは?

母さんなら、兄貴が寝てるの見て帰ってきた

俺、入れ違いで来たんだ

兄貴(涼)

そっか....

なあ、兄貴

何も聞いてねーの?

兄貴(涼)

え?

......いや、なんでもない

不思議そうなその表情からは

何も知らないのがわかった

そしたら...... 俺が言うべきことじゃない

今日は、これ...渡したくて

兄貴(涼)

僕に?

女子にからかわれながらも作った それを取り出す

手芸部の女子に教わりながら作った...けど

それを見た兄貴は

兄貴(涼)

ふはっ...なにこれ...

前よりも弱々しく笑った

また笑ったな!

まあ...俺が下手なんだけど

兄貴(涼)

手作り...だよね?

...おー

兄貴(涼)

うん、ありがとう

いや...

兄貴、寒がりだろ

だから...

兄貴(涼)

これはさ

兄貴(涼)

僕の宝物だね

っ...オススメしねーけど

わかるよ

弟だから

兄貴が喜んでくれてるってわかるよ

(勝手に向こうにいくなよ...兄貴)

(頼むから...)

その3日後だった

夜中に病院から電話が掛かって

兄貴の死を知らされた

母さん

っ...うぅ...

泣いてる母さんを見ていられなくて

兄貴んとこ、いくぞ

母さん

え......

つい、 ぶっきらぼうになってしまった

病室につくと

泊まりがけで 仕事に行っていた父さんが

ゆっくりとこちらを向いた

その瞳は既に、濡れて赤かった

それよりも先に目に入ったのは

くしゃっとなった靴下と

ヒビの入った写真立て

『僕の宝物だね』

兄貴の声が蘇り、一瞬にして

俺の視界は虹色になった

(なんで)

(なんで兄貴が...)

(どうして......)

やるせない感情は

沸き上がる度に雫となって落ちる

最後に言いたかったことなんて 数えきれない程あるのに

兄貴はそれを 俺に言わせてくれなかった

兄貴...っ

返事をしない兄貴に向かって

心の中で伝えようとする

(兄貴ともっと話したかった)

(兄貴にもっとありがとうを言いたかった)

(兄貴にごめんって言いたかった)

(兄貴に......)

溢れた嗚咽が誰のものなのか

俺は気にする余裕もなく

涙を止めようとするだけで 精一杯だった

あれから2年後

俺は今日から高校生

.......行ってきます

母さん

行ってらっしゃい

うん

兄貴がつけていた日記の1頁を 思い出す

○月△日 今日は優輝から靴下を貰った もし僕が死んだら、棺に入れられるのかな? それは勿体無いな... もしも家族が、優輝が良いのなら あの靴下は――

兄貴はきっと

自分が長くないことも

残された俺達のことも

きっと全部わかっていたのだと...

(ズルいよ、兄貴...)

兄貴の分の返事は無い

でも

写真の隣に置かれた靴下が

風に吹かれて微かに揺れた

Fin

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310

コメント

12

ユーザー

わぁぁ…😢😢 最後の表現がなんとも素敵で、感じたことの無い温かい気持ちになりました… 歳を重ねるに連れ、お互いすれ違ったり、表面上では素直になれない弟くんも実はお兄ちゃんの事を1番に思っているんだなと知ると「あぁ、兄弟っていうのは目には見えない糸で繋がっているものなんだな」と感じることができました😌 その糸の代わりというか、兄弟を繋いだものが靴下という事なんですね!

ユーザー

この作品好きだー!! お互いの視点から物語を見られて良かった

ユーザー

工夫がたくさんされていて、とても面白かったです!ものすごく感動しちゃいました!また感動系のお話書いてほしいです!

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