バスに揺られること1時間
時間が過ぎていくうちに
緑が増えていくのを感じた
バスを降りた瞬間、音が消えた気がした
人の気配がほとんどない
まるで世界から取り残されたみたいに
この町はあと一カ月くらいで湖の底に沈む
ダム建設のためらしい
子供の頃毎年のように来ていたはずなのに
覚えてる景色は驚くほど少なかった
朝倉 澪
(深く深呼吸する)
もう少しで消える夏の空気を肺にいっぱい取り込んで
私は一歩を踏み出した
朝倉 澪
(懐かしい)
朝倉 澪
(あの頃のまま時間が止まったみたい)
神社の鳥居に近づく
鳥居に近づくと、日付が書かれた看板を見つけた
朝倉 澪
(...土で汚れてて見えないな)
土を手で払い、何とか文字が見えた
朝倉 澪
8月31日?
朝倉 澪
(いつの日付なんだろう)
澪
朝倉 澪
?
しばらく看板を見ていると
自分の名前を呼ぶ誰かの声がした
高瀬 蒼
久しぶり、澪
朝倉 澪
あ...
高瀬 蒼
笑
数年ぶりに見る蒼は昔の頃とはだいぶ違っていた
名前を言われるだけで少しドキッとした
「久しぶり」の一言だけなのに知らない人に聞こえた
私より身長が小さかったはずなのに
今では私が見上げないと目が合わない
高瀬 蒼
何してたの?
蒼が私のそばでしゃがんだ
高瀬 蒼
看板?
蒼が看板の土を軽く払った
昔よりもずっと手が大きく
体つきや肩幅が
『男の子』から『男』になっている感じがした
朝倉 澪
久しぶり、蒼
高瀬 蒼
うん
蒼の笑ったときの優しい目は昔と同じだった
高瀬 蒼
もうここに来ないと思ってたよ
高瀬 蒼
来てくれて嬉しいな
朝倉 澪
おじいちゃんとおばあちゃんの家の片付けを手伝いに来たんだよ
朝倉 澪
あと、夏の思い出作りのために
高瀬 蒼
...そっか
幼い頃
高瀬 蒼
はいこれ!
朝倉 澪
何?これ
高瀬 蒼
たからもの!
朝倉 澪
(渡された貝殻を半分に割る)
高瀬 蒼
えぇ?!
朝倉 澪
はんぶんこね
高瀬 蒼
!
高瀬 蒼
うん!
あの頃半分こした貝殻の欠片を取り出す
朝倉 澪
こんなに小さかったっけな...
高瀬 蒼
!
高瀬 蒼
まだ持ってたんだ
蒼が貝殻の欠片を取り出した
朝倉 澪
蒼こそ
朝倉 澪
もうどっかになくしてるかと思ったよ
高瀬 蒼
そんなわけないじゃん笑
高瀬 蒼
俺ら二人の宝物だろ?
朝倉 澪
そうだね...!
高瀬 蒼
じゃあまたね
朝倉 澪
うん
蒼と別れて私は祖父母の家へと向かった






