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蘇枋
おぼつかない、それでいて本気で蘇枋から逃げる桜に、蘇枋は息を切らしながらも、見失わないように全力で桜の背中を追いかけた。桜に追いつけもしないし、見失いもしない、そんな絶妙な距離感をずっと保ちながらだ。 何とか首根っこを捕まえようと手を伸ばすも、すんでの所で振り切られてしまう。 もどかしくて仕方なくて、それでも蘇枋は必死に桜を追いかけた。
夕暮れに照らされ、赤く染った校舎の中、2人は全力疾走して廊下を走る。 幸いほとんどの人は下校を済ませていたのか、走っている2人にぶつかってしまう人はいなかった。
どうして風鈴高校まで桜が走ってきたのか蘇枋には少しも検討がつかなかった。 それでも今すぐにでも捕まえないといけない。そんな嫌な予感を感じ、背筋がゾッとする。
どれだけ必死に手を伸ばそうとも、 やはり桜には届かなくて、もどかしい気持ちで桜をおいかけ、階段を全力で駆け上がっていく。
蘇枋
桜
桜
屋上全体に響き渡る声で桜が叫んだ。 その手は、フェンスを掴み、蘇枋を脅す。 これ以上近ずけば、本当に桜は飛び降りてしまう。そう思い、蘇枋は屋上にある扉付近から身動き1つ取れずにいた。
蘇枋
桜
説得を試みようと、桜の情に訴えかけようとしたが、感情がせり上がっているのか、少しも蘇枋の声を聞こうとしなかった。
その間も桜はフェンスをよじ登っている。普段汗をかかない蘇枋の首元には、冷や汗が1つ流れ落ちる。どうしようかと全力で脳をフル回転させる。
どうしたら桜くんを止められる?こうして考えている間も彼はどんどん死へと近ずいていく。どうして急に逃げ出した?どうして、?
そして1つの可能性に気がついた。 今少しでも彼を引き止めるには、 こう言うしかない。そう思い、蘇枋はか細い声をだした。掠れていて、情けない、そんな声。それでも決して小さな声ではなく、桜の耳には入った。
蘇枋
桜
桜の手がビクリと跳ねて、無言で蘇枋の顔をじっと見つめてきた。この反応、きっと当たりだ。彼は全部思い出した。だから俺の顔を見た途端に、こんな所まで逃げ出してしまったのだ。
蘇枋
蘇枋
思い出してくれて嬉しい。それでいて、自分の酷い所までしっかりと思い出されたのかと思うと、蘇枋の情緒は激しいジェットコースターの様になっていた。
桜
桜
2つで違う綺麗な双眸を伏せながら、桜は悲しそうに話を続ける。その姿に自分までなんだか苦しくなった。でも自分が、彼をあんなに傷つけたんだ。こんな感情を持つのはお門違いだろう。そう思い、何とか感情を制御した。
桜
桜
どうしても自分の中には、蘇枋の事が好きだという気持ちが残ってしまうと、痛いほど伝わってきた。蘇枋の記憶が無い間の桜も、きっとどこかで、彼の事が好ましいと、忘れられても尚、優しく、自分を気遣ってくれる優しさを見て、少しは惹かれていたのかもしれない。
どれだけ通常の日常に戻ろうと、枕元を濡らして泣いても、蘇枋の事が忘れられなかった。あれだけ酷く傷つけられても、すきなのをやめられなかった。
あの夕暮れに照らされた蘇枋の顔は、ずっと苦しそうで、傷ついていて、きっと自分が告白した所為だと思った。自分が好きな人に、蘇枋に、そんな顔をさせてしまったと。
いっそこんな記憶、全部忘れてしまいたい。 好きでごめんなさい。好きになってしまってごめんなさい。"あいしてる"ごめんなさい。 そんなことばかり考えてた次の日には、蘇枋の事なんて少しも覚えていなかった。
蘇枋
掠れた声だけが、蘇枋の口から零れ出して、青く澄んだ空が、惨めな自分をさらに惨めにしてきて、見下してる様にさえ思えて、 自分の馬鹿さを分からされて、
桜
桜
蘇枋は言葉を出せず押し黙る。なんて言えばいいのか分からなかったから。あんなにも彼の心の柔らかい部分を傷つけた自分が、彼に何かを言う権利など、ないと思ってしまったから。
桜
桜
桜
ごめん。彼の口から何回も何回も、口癖の様に紡がれる。やめて、お願い。行かないで。 君がいなくなるくらいなら、俺が、俺が…
蘇枋
桜
ふわりと桜が儚く笑った。思わず見ほれてしまいそうな程、綺麗な笑顔。蘇枋にだけに向けられた、甘い顔、好きだと全身で伝わってくる程の、痛い愛の言葉。
それを紡いで、桜の体はふわりと宙に浮いていた。手を伸ばしたところで、今の蘇枋には到底届かない距離で、
この日、桜は青空に攫われた。
パンっ、と銃声の様な音が響き、金縛りの様に固まって動かなかった蘇枋の体は、その音を合図に崩れ落ちた。 止められなかった。自分じゃ彼に届く言葉を何一つかけられなかった。
そんな後悔だけがよぎって、乾いた赤い隻眼からは涙すら出なくって、 のろのろと重い体をフェンスに近ずけ、恐る恐る下をのぞき込む。
蘇枋
蘇枋
小さな子供が親に怒られ、謝る様に、蘇枋の背中は弱々しい。
ずっと、ずっと、これが正しいって、そう信じてきてたんだ。ずっと、彼の邪魔になるって、そう思って。
でもその思い込みが、ずっと、ずーっと、君の事を傷つけていたんだね。 君の死で俺は、泣いてあげることすら出来ない薄情な奴だよ。だからお願い。
蘇枋
自分のことを嫌いになってくれたなら、彼は生きていてくれただろうか。嫌な顔を自分に向けながらも、死なないで、あの心地いい場所に、自分なんかよりずっと、ずっと優しい人たちに囲まれて生きていただろうか。
ずっと幼稚で、人の気持ちを深く考えずに行動する自分が嫌いだ。
蘇枋
崩れ落ちた体を、無理やり起き上がらせ、蘇枋もフェンスをよじ登る。 今自分は立てているだろうか。足元がふわふわとして、おぼつかない。
あの時追いかけるって、そう決めたんだ。な、ちゃんと、彼の背中を見ていないと。 あの時の選択を、ちゃんと実行しないと。
蘇枋
こんな酷い人間なんか、好きになってくれません様に、悲しい思いをしませんように、幸せでいてくれますように。そう願って、蘇枋も青い空へと飛び込んだ。
愛してる。
巡る世界で君と愛を育めたなら。
世界をもう一度巡りますか? 「はい。」 既に見たENDの選択肢は表示できません。
もう一度選択肢を提示します。
蘇枋はどうする?
「 」
幸せになるためのコマンドを、彼は口から出せるだろうか。
コメント
7件
今回も素敵なお話ありがとうございます🙇♀ 「愛は呪いと紙一重」という言葉がぴったりなお話でしたね。 桜くんが蘇枋を嫌いにならない限り、愛し続ける限り、蘇枋は罪悪感に縛られ続ける。 素敵なBADENDをありがとうございます✨
BADEND回収おめでとうございます。一応まだ別のENDは見れますが、それは皆様次第なので、これが最終話となってしまうかもですね… さぁ、もう選択肢は1つしかございません。しかしその選択肢には何も書いていない。どうやって彼らを幸せへと導きますか。