ハラム
ハラム
ハラム
ハラム
ハラム
「しのぶ!」 「姉さん!」 二人の声が重なった。しのぶはだんだん私達から遠ざかり、谷の闇に引き寄せられるかのように、落ちていった。 西宮さんは顔面蒼白で、目を見開いていた。橙色の髪の毛が、汗に濡れて固まっていた。 私達は谷の向こう側に着地した瞬間、西宮さんは目で追えないほど速く谷に走っていった。 私もそれに追い付くように走った。 谷の底には誰もいなかった。 西宮さんは膝から崩れ落ちた。 その時私はその谷の奥底にある闇に引き付けられるかのように、 しのぶの後を追うように 「しのぶ今、行(逝)くからね。」 私はその言葉を呟き、磁石に引き付けられる鉄のように谷を飛び降り・・・・・ ヒュンと谷から水色の塊が飛び出た。 水色の塊は私達側の地面に着地した。するとそこにはしのぶを抱えた男が立っていた。 水色の、空模様の服を着て、刀を帯刀している。けれど、それより注目したのは顔だ。 赤い、天狗の仮面をつけているのだ。 西宮さんは驚いたように頭を下げた。 私は誰だかわからなくただその赤い仮面を見つめていた。 男は私のところに来てしのぶをそばに置いてくれた。 そして、男は「少し、迷い人を探してるんだが見てないか?」 私達は首を降った。 男は「そうか・・・」 と寂しい声で言った。 そして、お礼を言う暇なく、素早い動きで谷を飛び越えてどこかへ消えた。 西宮さんはしのぶをおんぶしてくれた。 私は西宮さんに、あの人の事を聞いた。 彼は鱗滝左近次と言う名前らしい。 鬼殺隊の最強柱だったらしい。水の呼吸の使い手だ。今は柱を引退して、育手をしている。 育手とは分かりやすく言うと、呼吸を教える教師だ。 呼吸にもいろいろな流派があって、教え方はそれぞれ違う。 育手は元鬼殺隊が教えることが多い。 そんな人がなぜここに? そんな疑問を抱えながらゆっくり歩くにつれしのぶが起きた。 しのぶは首を回し、二人を見て困惑していた。 私達はしのぶに分かりやすいように話をした。 しのぶは震えていた。怖いのだろう。 しのぶと手を繋いで歩くと道に出た。 15分くらい歩くと、ある小屋が見えた。 「あれが悲鳴嶼さんの家だよ!」 あれが・・・ けれど、ここからが本番だ。 私は嘘の私を身に纏った。 子供っぽく思われないため。 しのぶを守るため。 私は戸を叩いた。 ガラガラと音をたて、中から大男が出てきた。 確かにあの時の男だった。けれど今は斧も持ってないし、私服だった。 私は凛とした声でお礼を言った。 悲鳴嶼さんは素っ気ない態度であしらわれたが、私は凛とした態度を保った。 しのぶもお礼を言った後、強気の口調で、鬼狩りの方法を教えて、と言った。 さすがに悲鳴嶼さんも驚いていた。 しのぶには私には違う激しい怒りがあった。 私は鬼を救いたい。その気持ちで胸がいっぱいだった。 悲鳴嶼さんは私たちを追い出した。 私達は悲鳴嶼さんの小屋のすぐ近くの森で座ってた。 そしたら、しのぶが急に走りだし、小屋の庭に立ち、薪割りをやった。 すぐに悲鳴嶼さんがしのぶに駆け寄り、話をしていた。 あまりよく聞こえないが、少しだけはっきり聞こえた。 「今はまだ難しいだろうが、いつかは忘れられる。普通に生きろ。」 「忘れられるわけないじゃない!!!」 「目の前で父さんと母さんが殺されたのよ!?それで、何もなかったかのようにいきれると思う!?できるわけない・・・できるわけないじゃない!!普通に生きることが幸せなの!?そんな幸せなら私はいらない!!そんなの死んでるのと同じじゃない!」 「鬼狩りはそれほど簡単な道ではない。血にまみれた道だ。そんなの君ら亡きの父母が望むはずがない。」 「父さんと母さんが何かを望むなんて、もう誰にもわからない!」 「じゃあ何で悲鳴嶼さんは鬼狩りになったのよ!鬼に憎しみを持ってるからじゃないの?」 しのぶは走っていった。 私は泣きそうになっていた。 困惑してる悲鳴嶼さんの元へ駆け寄り、謝った。 そして、私は悲鳴嶼さんに思いを告げた。鬼を救いたい。その気持ちを。 悲鳴嶼さんは驚いた様子で、私に問いかけた。 「鬼を救う?どういうことだ?」 私はゆっくりと丁寧に話した。 「鬼は元々私たちと同じ人間だと。」 「悲しい生き物です。人でありながら人を喰らい、美しいはずの朝日を恐れる。鬼を一体倒せば、その鬼が殺すはずの人を助けられる。そして、鬼もその哀れな因果から解放させてあげられる。」 悲鳴嶼さん辛辣な口調で 「鬼狩りになるのはやめろ。」 と言い薪を割った。 その夜私はご飯を作り、皆で囲炉裏を囲って食べた。 結局しのぶは帰ってきた。 山で夕食用の山菜を取ってきたようで、泥だらけだったため、お風呂に入らせた。 この子なりに思う所があったのだろう。 私はまだ湿り気のあるその髪をなでた。 夜 私達は悲鳴嶼さんの家に強引に泊まった。 何日も、何日も。 鬼の首の斬り方を教えてもらうまで。 「イヤァァァァ!!!」 隣で大声がした。 しのぶだ。 しのぶはたまに悪夢を見る。それは、父と母が殺されたあの時あの風景の夢だ。 「父さんが!母さんが!」 私は背中を擦りながら「大丈夫だからね。」 と言った。いや、それしか言えなかった。 しのぶごめんね。ごめんね。 ある日悲鳴嶼さんに呼び出され 私達は裏庭にむかった。 そこには大きな岩があった。かなり大きな岩だ。 その岩の先端は悲鳴嶼さんの首の部分にあった。 そこで悲鳴嶼さんはこう告げた。 「お前たち二人の力でこの岩を動かせ。」 ? 今なんて?この岩を動かす? 大人の男3人でやっと動かせそうな岩を? しのぶは強気な口調で言った。「こんなの無理に決まってるじゃない!」 悲鳴嶼さんは、さらに追い討ちをかけた。 「この岩を私が任務を終えて帰ってくるまでに動かせなければ、育手は紹介しない。親戚の家に引き取ってもらう。」 私は親戚の家でのあの光景を思い出した。 しのぶをもうあんな目にあわせる訳にはいかない。 私は首を振った。 その後悲鳴嶼さんは夜になったら藤の花の香を炊けと強気に言って出ていった。 私達は岩を押してみた。 もちろん無理だった。 まるで大地に太く、大きい根がはってるみたいにそこからピクリとも動かなかった。 岩を押し続けて2時間はたった。 無理だ。 手のひらを見ると血豆だらけで、皮が擦りむけていた。しのぶも同じだろう。 絶望が頭をよぎった。 あぁあの家に戻るのか。 私達はお腹が空き、家に米と味噌しかないことに気付き、山に山菜を採りに行った。 その山では木の伐採が行われていた。太い男声と、斧の心地よい音が聞こえてきた。 しのぶは私の手を引っ張り 「行くよ。姉さん。ここは危ない。」 私は待ってと言って、その木の伐採を見てた。 何かヒントが得られるんじゃないかと。 すると男が「村田ァ!この切り株どかしとけ!」と言い次の木に向かっていった。 そこから出てきたのはヒョロヒョロの男だった。 彼は中くらいの丸太を二本持ってきた。 そして、隣にあったシャベルで切り株の根本まで穴を掘り、穴のすぐ近くに丸太を横に置き、もう一本は、その丸太の上に乗せ、穴に突き刺した。 彼は突き刺した丸太の上に乗り、切り株を持ち上げた。 彼はお世辞にも筋力があった訳ではない。 だがなぜ? 私は急に頭に映像がうかんだ。 昔、本で読んだことがある。 力の弱いものでも、重い物を持ち上げる事が出来る。 梃子の原理だ。 私は村田さんに頭を下げて丸太を貸して貰った。 村田さんは丸太を家まで運んでくれた。 村田さんとはここで別れた。 (後に、村田さんは鬼殺隊になるのだが、それはまだ先のお話。) 私はシャベルで必死に掘った。そして、さっき村田さんがやったように木を置き、押した。 重い。 だけど私は! その気持ちを震いたたせ、押した。 ズシン。 地面が震えた。 岩を見ると、岩は少しだけど動いていた。 地面には岩が置いてあったと分かるように、くっきりと後が残っていた。 動いた。 私は泣いた。悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。 もう空には日が昇っていた。 初めてした徹夜。二人は疲れて座っていた。 悲鳴嶼さんが帰ってきた。 しのぶは自慢気に「お帰りなさい」と言った。 私は久しぶりに安心した。嘘の私がもういなくなっていた。 悲鳴嶼さんは、岩に気付き、しのぶと話をして、育手を紹介をしてくれた。 けれど、二人離れ離れだ。 けどもう心に決めたことだ。 翌日に二人は私物を持って、家をでた。 私は行くよ。しのぶ また会おうね。 その時はお互いにか弱い人たちを守ろう。 しのぶと指切りをして、悲鳴嶼さんの家を離れた。 しのぶはゆっくりと反対方向に歩きだした。 もう負けない。もう誰も悲しませない。 そのまだ弱く、強い手は少しずつ強くなっていった。 少女は強い手と強い心と、血塗れの思い出を持って、歩いてった。 全てを守るために。 中編2 完
コメント
4件
長文お疲れ様です‼︎毎回面白いので、楽しみにしてました‼︎また待ってます!