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休みの日は割と外に出て過ごすタイプだったけれど、今日は違う。 今日は家ここで過ごす、そう決めていた。 ここに越してきて初めての休日だ。
天気は快晴で気温は二十度と暖かい。 だからわざと大きな窓を開け放しているのだけれど、時々涼しい風が家の中を通過して髪が靡く。 気持ちが良い。
陽差しの降り注ぐフローリングの上で大の字仰向けになって寝そべっているだけ。 テレビもつけずに。 ある意味、贅沢な時間。 寝るつもりはないけれど、目を瞑ってそれを堪能する。
今日の昼ご飯は何にしようか。 簡単にキンパでも買って来て食べようか、それとも使いかけの野菜があるからスープにでもしてしまおうか。 あとは冷凍庫にアイスがあったはず…
ホソク
瞑想中だった瞼を開ける。
何処からか遠慮がちに聞こえるピアノの音。 多分、隣だ。 ユンギだ。
実際、隣よりもっと遠くで弾いてるピアノの音に聞こえる。 だから五月蝿いとかそんなんじゃなくて、この天気にその微かな音色が合ってるというか。 贅沢がまた一つ。
開け放した窓からベランダに出る。 身を少し乗り出してみたけれど、流石に隣の様子は見えそうにない。 でも家の中にいるよりは、ピアノの音が少し大きく聞こえる。
弾いてる曲は何なのか分からなかったけれど、俺の気分が高揚したのは確かだった。 だからピアノの音色とは関係なく、知ってる歌を口遊む。
ホソク
ユンギ
俺の歌う声よりだいぶ大きい声が聞こえて、サビを歌い切れなかった。 いや、そんな事は問題じゃない。
いつの間にか俺みたいにベランダの手摺りに腕を凭れているユンギがいて
ユンギ
天を仰いで思い切り口を開けて笑っていた。 所謂、爆笑というやつだ。
そんな笑う程音程ズレてた?そんな事ないと思うんだけど、なんて思うのに、もう二度と窓を開け放して歌は歌うまいと心に決めた。
プロの音楽の人に醜態を晒してしまった…と、気まずくなっていたのだけれど
ユンギ
一頻り笑ったユンギがそう聞いてきたからとりあえず頷いて答えた。 太陽の光を浴びたユンギのグレーの髪はキラキラといつにも増して輝いて見えるし、白い肌も眩しい。
ユンギ
ホソク
まさか二回醜態を晒す事になるとは。 そしてユンギがまた爆笑とまではいかないにしても、細い肩を揺らしてクックックッなんて笑っている。 笑ってるというか、俺が笑われているのだけれど。
脇の下に嫌なじんわり汗が滲んでるけど、頭の中では必死にユンギが歌ってる?ユンギが作った曲?と、歌の情報を掻き集めていて。
ホソク
思い出した。
ユンギはSUGAだ。 歌の中の男性の声が、今し方やんわりと俺に歌下手って言った人と同一人物だ じゃあ尚更。
ホソク
プロじゃないんだから多めに見てくれればいいのに。 また込み上げてきた羞恥心が堪えきれず、ユンギを横目に見てそう口にすると
ユンギ
と否定も肯定もしない言葉を眩しそうな顔で言った。
ホソク
ユンギ
普段は割と淡々としてるし落ち着いた雰囲気なのに、笑う時は子供みたいだし意外とよく笑うんだ。 いや、今は笑われてるだけなんだけど!
鼻でゆっくり呼吸をして過去の恥晒しの事は忘れようと、淡く青く広がる漢江に目を向ける。
ホソク
わざと話題を変えようとした訳じゃない。 自分の昼食の参考にしようと思っただけだ。
ユンギ
ホソク
ホソク
ホソク
ユンギはどんな感情なのか、眉頭に少しだけ力を入れた顔を見せて。
ユンギ
ユンギ
グレーの髪を春の風に気持ち良さそうに靡かせて言った。
食べるって事ですか?なんて俺が聞く前に
ユンギ
とだけ言って、ユンギは部屋の中に引っ込んでしまった。 ちょっとー!などと呼びかけても答えてくれそうにないのは、窓を閉められてしまったからで。
二時間後にユンギに昼ご飯をデリバリーするという仕事が入ってしまったからには、やるしかない。 また部屋の中に戻ってフローリングに大の字に寝転がって贅沢な時間の使い方なんてしていられない、という事だ。
そんな大それた物なんか作るつもりはないけれど、スープだけって訳にもいかないじゃん…なんて、冷蔵庫の中と睨めっこして頭をフル回転させる事になった。
二時間後なんてあっという間にやって来る。 仕事の二時間は過ぎるのがうんと遅く感じるのに、不思議なものである。
出来た物を持って約束通り、ユンギの家のインターホンを今押したところだ。 程なくしてドアが開く。
ホソク
タッパーが二個入った袋。 スープとジュモクパプがそれぞれ入っている。
ユンギは袋を受け、取らない。 いやいやいやいや、まさか持って来てって言っといてやっぱり要らないとかそういう事? 流石にそれは酷くない? なんていう思い込みは、ユンギの全く別の角度からの一言で覆される。
ユンギ
ユンギ
ユンギ
ユンギの言ってる事が一瞬では理解出来なかった。 聞こえてるけど聞こえてないというか、言語として認識していないというか…
ホソク
細切れの質問にユンギは全部頭を縦に振ったし
ユンギ
ユンギ
何かを含むような小さな笑みを浮かべて饒舌にそう言った。
ホソク
悔しくて勢いに任せて一歩、未開の地へ足を踏み入れた。 途端に人の家の匂いに包まれて、背後で静かにドアが閉まった。
ユンギ
同じような間取りなのにまるで異世界だ。