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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

二日目、朝。朝には頗る弱い筈の彼が、この新しい環境に慣れていないのか、それとも余りの痛みに耐えかねたのか、今日は物珍しく太陽がまだ隠れている内に目を覚ました。

イソップ

…………ん。

しかし起き上がることはせず、ベットに身体を預けたまま、暫く自室の外から何か音が聞こえてこないか耳を澄ます。

音は、何一つとして聞こえて来なかった。

すると途端に、彼は糸で操られた絡繰人形の様に身体を起こし、マスクだけを付けて、乱れた髪も衣服も直さぬまま、覚束無い足取りで外へと出る。

イソップ

…………………。

彼の目的はーー住人がまだ深い眠りについている間に、この荘園を探索する為であった。

昨日日記には書いていない、眠る直前で突発的に思い付いた行動。計画性も何も無く、唯“他人と関わりたく無い”と言う不遜な一心でイソップは身体を動かす。

イソップ

………此処が、入り口。

左右何方にも扉が有る。

イソップ

……右の、扉に……まずは。

彼が右手の扉、つまり食堂へと通ずる扉の目の前で来た時、彼は違和を感じた。 小さな変化。しかし、人工的に加えなければ必ず起きない変化。 “扉が開いている”

イソップ

……………っ。

小さく息を漏らし、この先に誰かがいる事を察知して、彼はその場から去ろうとした。 然し、その時現れた食堂の人物を扉の小さな隙間から覗いた時、彼は思わずその姿に目を奪われてしまう。

その人物はーー

トレイシー

……………。

トレイシーだった。 彼女は一言も発さず、灯りすら灯さず、机へ己の工具箱を置き、カーペットが引かれた床に乱雑に灰色のパペットを投げる。

トレイシー

……………。

その姿形は、昨日とは全く異なっていた。それは比喩などでは無く、言葉通りに。 金色の髪はまごうことなき白色に変わり、暗がりの所為で先端は黒く見えた。 作業に似つかわしく無い白色のセーターには、所々汚れが付着している。

トレイシー

………綺麗だった。あの人は私と同じだ。…………でも無理、近付けない。

発した言葉は死んでいた。

イソップ

…………え、え……。

トレイシー

……ああ、早くこんな場所とお別れしたい……。

イソップ

………ト、レイシー………。

気が付けば、イソップは荘園探索も忘れて彼女の事を必死になって覗いていた。仕舞いには興奮さえ覚え、顔に段々と赤らみを浮かべていく。 今のトレイシーは、彼にとって死者の次に愛せる存在になっていた。

トレイシー

生存本能だなんて、有るだけ無駄無駄……。

“生きる屍” それが、彼は二番目に愛す存在である。

トレイシー

………作業、しなくちゃ。

イソップ

…………!

トレイシーに気付かれる前に、イソップは自室へと戻ってきた。

今の出来事を直ぐに日記に記録しなければと、頬を朱色に染めた彼は興奮状態でペンを片手に持つ。

××××年12月21日

トレイシー・レズニックについて、昨日の日記に書いたことは一旦全て前言撤回だ! 彼女は素晴らしい逸材かも知れない。 現在時刻は午前四時三〇五分、今見た彼女の姿はまるで忘れられない! あの目、あの声、あの姿、全てが生きる屍に相応しい! しかし、何故彼女は初日にあんな陳腐な態度を取ったのだろう? 何か裏があるかも知れない。探ってみよう。

朝の七時過ぎ、イソップの衝撃的な発見から早くも数時間が経過し、太陽も昇りきった頃のこと。

トレイシー

ふぁ……あーあ、よく寝た。ってあれ、イソップ……さんじゃん!

イソップ

…………どうも。

トレイシー

昨日はよく寝れた?わ……僕が言えることじゃ無いけど、結構寝心地良いでしょ、ここ。

イソップ

まあ………は、はい。

トレイシー

なら良かった。さあ、早く食堂に行こう!昨日のエミリー先生って人が美味しい朝食を作って待ってくれている筈だから!

早朝のトレイシーとは正反対の性格に、彼は悪阻を覚えていた。

トレイシー

ほんと、美味しいんだよ!

イソップ

そ………そう、そうですか……。

“トレイシーには何か裏が存在している筈だ。そうで無ければ、早朝に自分が見たあの生きる屍の説明が付かない。” そうイソップは確信していても、それを言葉や行動に移すことは意志力を集大成にても叶いそうになかった。

トレイシー

ねね、イソップさん。

イソップ

はっ、はい…………?

トレイシー

イソップさんってさ、今の仕事好き?

唐突な問いは心無しか、少し腐っているように彼には聞こえた。

イソップ

……まっ、ま……あ……。

トレイシー

そっか。

トレイシーは唐突に辺りと見渡す。 「さあ、早く食堂に行こう!」 思えば数秒前にそう発言したのにも関わらず、彼女はこの会話をしている最中、その場から一歩も動いていない。

トレイシー

……あのさ

「カールさん。」

ある納棺師の日記

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めっちゃお話好きです…

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