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イルシス

イルシス

……次の質問よ。

イルシス

あなたはどうして上から落ちてきたの?

イルシス

く・わ・し・く!

目を輝かせながら私に詰め寄る少女──イルシス王女。

私は目を泳がせる。

馬鹿正直に飛行船から落とされました……なんて言えない。

折角就職したのに危険な者だと思われたらどうなることやら。

──そう、私は彼女の誘いに乗った。

正直王女様がどこの馬の骨とも知らない私を雇うのはおかしいと思うんだけど……そうも言ってられない。

仕事を探すまで飛行船に帰ってはいけないということは、その間の生活は自分で何とかしなければならないということだ。

そんな状態の私に、イルシス王女の提案は渡りに船。乗らないわけがない。

……それに、国の中心である王宮だったら、早く“仕事”も見つかるかもしれないしね。

コネは作りまくって使いまくれ!

ミティフス学園の教えがやっと活きている気がする。

レミ

ええっと……

レミ

そ、そういう遊びが流行ってて?

ぱっと出てきた嘘がこれだった。

というか初対面の侍女がイルシス王女と一対一で話すのよくないと思います‼︎

何かあったら誰がどう責任取るんですか! 別に害する気はないけどさ‼︎

イルシス

へぇ、他国ではそういう遊びが流行しているのね。

イルシス

不思議だわ

手を合わして頬を染め、目をキラキラと輝かせているイルシス王女。

見ているこっちが眩しいです。罪悪感がすごい。

私はそれから逃れるように、部屋の中を見渡した。

白を基調とした壁に、白い天蓋付のお姫様ベッド。

使われているのか分からないくらい綺麗にされている白い机。

……クローゼットらしき物も白色だし。

白がお好きなのかな?

レミ

あの……

イルシス

何々? 質問?

イルシス

何でも答えるわよ

プールでは威厳みたいなものが感じられたのに、ここではまるで年相応の女の子だ。

無意識なのか、意識的に切り替えているのか。

レミ

ここにはメイドしかいないのに、どうして私に『侍女にならない?』と仰ったんですか?

イルシス

それは……

イルシス王女の目が鋭さを帯びた。

え、これしてはいけない質問だったんですか?

そうビクビクしていると、イルシス王女は顔を赤らめながら上目遣いで答えて下さった。

イルシス

……最近読んだ本に『侍女』って言葉が出てきたからよ。

イルシス

メイドと侍女じゃあほとんど意味は同じでしょう?

なるほど、侍女に憧れていらしたんですね。

さっき感じた鋭い視線は、私の気のせいだったみたいだ。

レミ

……わぁ

さっきは気付かなかったけれど、王宮も真っ白だ。

白がお好きな血筋なんですね。

……権力の象徴、とも捉えられるか。

白は何にも染まってしまうからこそ汚れやすい。

その白を維持するだけの国力がありますよ、と。

王宮と貴族社会って見栄の世界だもんね……。

イルシス

あ、レミ、この人はメイド長のシロ。

イルシス

メイドの中で一番偉い人だよ!

シロ

シロ

……貴女が例のレミさんですか

メイド長のシロさんが私をちらりと横目で見た。

仕事中なのだろう。その手には雑巾が握られている。

レミ

はい、そうです。

レミ

初めまして、レミと言います。

レミ

これからよろしくお願いします、メイド長

シロ

へぇ…………

シロ

貴女があの娘と──────だったのね。

シロ

案外普通じゃないの

何かぼそぼそと喋っておられるが、私には何も聞こえない。

耳は学園で鍛えたんだけどな……。

よっぽど小さい声? それとも……私の気のせい?

何にせよ、少し警戒しないとね。

シロ

まあ、お仕事大変だけろうけど頑張って下さいね。

シロ

この仕事に大切なのは、気合いと諦めと気合いですから。

……とにかく気合いが大事なんですね。

白い王宮を維持するための掃除とか大変そうだし、それもそっか。

その後私は王女とメイド長と別れ、廊下を歩きながらうんうんと悩んでいた。

貰ったメイドのマニュアルが分厚すぎることについてではない。

怪盗の仕事について、だ。

そんなポンポン怪盗の標的になるようなお宝あってたまるか。

……そもそも、クロトもクロトだよ。

もっと穏便な方法もあっただろうに、飛行船から落とすなんて!

イルシス

────飛行船から、落ちたの?

レミ

⁉︎

心を読まれたかのような台詞に驚き、慌てて音源を探す。

すると、いつの間にかイルシス王女が隣にいた。

彼女はクスクスと笑っている。

……が、纏う雰囲気はまるで別物だ。

慎重に、けれど動揺を悟られないように演じる。

レミ

ああっ、えっと、すみません!

レミ

隣におられるのに、気付かなくて!

イルシス

────そのクロトって人に言われたの?

イルシス

仕事が見つかるまで帰ってくるなって

レミ

イルシス

ねぇ、答えて?

イルシス

どうなのレミ

……私の考え事が、漏れていたのだろうか。

口に出ていた、顔に出ていた……どれも違う。そんなミスは、起こさないようしていた。

イルシス

別に、漏れてなかったわよ。

イルシス

安心して?

…………そう言って、本気で私が安心できると思っているのだろうか、この王女様は。

……それとも、誘導してる?

私が警戒するように。それとも…………何だろう。

もっと他の、目的があるのか。

私は懐疑の眼差しをイルシス王女に向ける。

当然、メイドがその主人に向けてはならない類のものだ。

クビにされても文句は言えない。

イルシス王女は外向きの笑顔を浮かべながら、ぱっと口元を扇で隠した。

イルシス

貴女に、お願い事があるんだけど……。

イルシス

聴いてくれるわよね?

たった一晩で私の正体がバレたとは考えにくいが、何しろクロトの名が出てしまった。

どこまで彼女が知っているのか、私は確かめなければならない。

レミ

……かしこまりました

王宮の外れに聳え立つ、これまた真白の離塔にある一室で、私は王女と対面していた。

じんわりと汗で手が湿る。

小刻みに身体が震えていることが分かる。

……ただの緊張だ。そういうことにしよう。

イルシス

イルシス

それで、頼みたいことがあるの

イルシス

……と、まあその前に答えておきましょうか。

イルシス

貴女の声は別に漏れてなかったし、私はあなたの過去を掘り返して調べてもいないわ。

イルシス

ただ、私は生まれつき人の考えることが分かるの。

イルシス

色々と制限はあるのだけれど、ここでは割愛するわ

……何、その個人体質。

正真正銘、神からの贈り物じゃない……!

そんな私の心をも読み取ったのだろうか、イルシス王女は眉を下げて苦笑した。

イルシス

そう利点ばかりあるわけでもないのだけれど……

イルシス

まぁいいわ。それじゃあ……そうね、頭の中に色を浮かべてみて

私は言われた通りに脳裏に色を思い浮かべた。

選んだのは、白。

イルシス

イルシス

白でしょう?

それから何度か色を塗り替えてみたが、その度にイルシス王女に看破される。

……嘘ではないのだ。

イルシス

貴女の他には誰にも言ってないわ、これ。

イルシス

国家機密だから

こ、ここ、国家機密をさらっと私なんかに教えないで下さい‼︎

私がもしそれを悪用する人だったら以下略‼︎

機密管理こんなアバウトでいいんですか⁉︎ よくないですよね!!!!

イルシス

まぁそれは……ちょっと置いといて

置いとかないでください……。

イルシス

────貴女、怪盗なのでしょ?

レミ

イルシス

私の頼み、聴く気ない?

レミ

……頼みに、よります

私は心を落ち着かせながら答えた。

この時点では、お互いにフェアな状態だ。

私はイルシス王女に正体をバラされたら困る。

イルシス王女も、怪盗と取引したと知られたら世間体が悪くなってしまう。

だからこそのドロー。まだ相手の言葉を鵜呑みにしてお願いを聴く必要はない。

イルシス

私が盗んでほしいものは、私の冠よ。

イルシス

最近賊に盗まれたの。

イルシス

それを取り返すことって出来るのかしら?

レミ

さぁ

シラを切る。現段階、そんな面倒くさそうな依頼を引き受ける謂れはない。

そもそも、王族が怪盗と手を組んで良いんですか?

イルシス

ダメなことをしているのは、百も承知よ。

イルシス

だけど私が王族であることを証明するものがあれしかないのよ。

イルシス

だからこそ、あの冠を無くしてしまったら……次の王位争いに参加できない

選挙のようなもの、か……。

城には王子もいるらしいし、そちらが玉座に座るのかと思っていたのだが……。

レミ

でも、イルシス王女は……こんな言い方をすると失礼に当たるかもしれませんが、女性です。

レミ

王位継承権は低いのでは?

イルシス

低くても、あるわ。

イルシス

一応、王位継承権三位よ。

イルシス

最終的に次代の王を決めるのは現王だから、現王を説得するか圧力をかければ私にもチャンスはある。

イルシス

それに、私は……絶対に王座に着かなければならないの。

イルシス

────叶えたい、夢があるんだから。

レミ

…………夢、ですか。

イルシス王女は窓の外に見えるすっきりとした青色の空を見上げた。

イルシス

イルシス

……王位争いの醜さを、レミは知ってる?

レミ

それなりには、知っているつもりです

「そう」とイルシス王女は頷いてみせた。

イルシス

じゃあこの話も知っているかしら?

イルシス

──昔々、といってもそんなに昔じゃない、十数年前のこと。

イルシス

この国に、真っ黒な髪と目を持った双子が生まれた。

イルシス

どちらも男の子だった。

イルシス

……皮肉なことにね

知っている、気がした。どこかで聞いたことがある。

それも、比較的最近。

どこだったけ…………。

…………あ。まさか。

イルシス

……やがて勢力は二つに割れた。

イルシス

現王の介入は遅く、気がついた時にはどちらかが暗殺されたことになってしまっていた。

イルシス

実は誰も殺してなんかいなかった。記録上で死んだ以上、その子はここへ帰ることもできなくなってしまった。

イルシス

そんなの、嫌でしょう?

イルシス

兄弟どうしでは、仲良くしたいじゃない?

イルシス

王族に生まれたからって、そんな権利を奪われるなんておかしいわ

私には、と王女は言った。

イルシス

私には、王位争いだからとわざと介入を遅らせた王も、対立を煽った周りも、どうかしているとしか思えない。

イルシス

そもそも貴族社会が腐っている以上、この国の未来は明るくないわ。

イルシス

それなら国民全て平等な身分にして、誰もが何者にでもなれる国を作った方がマシよ。

イルシス

……最後のは友達の受け売りだけどね。

改革を行なおうとしているのだ、この王女様は。

今のこの世界が地球と比べて政治システムが大分遅れているのは知っていたけれど……。

王族の方から身分平等を主張し出すのは珍しい気がする。

長年続いてきた制度を廃止するのはきっと茨の道だ。一生を棒に振るかもしれない道だ。

それでも成し遂げたいと、彼女は望むのか。

これが──王族。

生まれながらにして、人の上に立つと定められた人種。

私には────到底真似できない。

その輝きに届かない。

イルシス

それで……盗んできてくれる?

のせられているな、とは思った。心理的に彼女に味方したいと他人に思わせるような言葉選びだったから。

それでもいいか、と諦める自分もいた。どうせ彼女が王になれるかどうかは分からないのだ。

そこに挑戦する権利くらい、取り戻してやっても────支障はないだろう。

レミ

……一回相談してみます

イルシス

あのクロトって人に?

レミ

はい。怪盗ブラックです

私は一旦王宮を去り、市街地に出てきた。

そしてあの晩、渡された通信装置を取り出す。

「仕事が見つかりました」っと。

これでいいのかな。早く来てよね、クロト。

レミ

────何でダメなのよ私が見つけて来た仕事でしょ!?

クロト

ダ、メ、だ!

クロト

絶対に!

レミ

クロトに何の権限があるのよ!?

クロト

お前の保護者としての権利だ‼︎

レミ

私の親はクロトじゃない‼︎

ユリ

お、お二人とも落ち着いてください

レミ

ユリちゃん聞いてよ、私やっと仕事見つけたのにダメだって言うの! クロトが!

レミ

誰が、私をこの飛行船から落としたのよ!?

レミ

どれだけ苦労したと……。

レミ

……あ、あんまり苦労はしてなかったけど

ユリ

落ち着いてください、水ぶっかけますよ

クロト

ほらみたこと──

ユリ

クロト様にもです

クロト

……すまん

ラン

ラン

だったら勝負すれば良いんじゃないんですか。

ラン

どちらがその冠を盗めるかを

ユリ

ラン……?

クロト

ちょっと待てそれじゃあどっちにしろ、冠を盗まなければならなくなるじゃないか!

レミ

レミ

へぇ~、天下の怪盗ブラックさんは負けるのが嫌なんだ?

レミ

び、び、り、だ、ね?

クロト

そんなことは一っ言も言ってない!

レミ

怪盗初心者に負けたくないんだねぇ、ふ〜ん。

レミ

ミアちゃんやサラに手紙書いとこっと

クロト

ふんっ、じゃあやってやる!

クロト

……どうせ初心者に、そんな大層な怪盗仕事は無理そうだもんな?

レミ

んなっ、私だって化石のびびりには負けないわよ!

クロト

化石のびびりってなんだよ!?

レミ

えーと、今私の目の前にいるクロトって人のこと……?

クロト

はぁ!?

クロト

…………もういい、徹底的に潰してやる。

クロト

ラン、行くぞ

ラン

えっ、あっ、はい!

レミ

ユリちゃんも行こう! 男どもはほっといて!

ユリ

はい

レミ

はぁ~

思わずため息が出た。

さっきは考える暇もないくらい、喧嘩しちゃったしなぁ……。

ユリ

レミさんって……年齢の割に、子供っぽくありませんか?

レミ

……まだ子供だもん

ユリちゃんは困ったようにため息をついた。

でもでも、まだ私、子供ですから?

あ、ユリちゃんがどこかへ行こうとしている。

見捨てないでユリちゃんストップストップ‼︎

レミ

ちょっ、待ってユリちゃん!

レミ

ユリちゃんだけが頼みの綱なの!

ユリ

分かっています。

ユリ

私も勝負に負けるのは嫌なので。

ユリ

ちょっと道具取りに行くだけですよ

静かに闘志を燃やしているユリちゃん。

そうして私達は、チームクロトに勝つべく、夜中にひっそり作戦を練ったのであった。

今日はイルシス王女の冠が、闇オークションの野外パーティーに出品される日。

色々と情報屋に当たり、やっとの思いで手に入れた情報だ。

参加チケットを持っていれば、誰でも参加オーケーらしく、私はミアちゃんから二枚貰った。

隣には、もちろんユリちゃん……ではなく、イルシス王女が。

イルシス

……ここまで連れてきてくれて、ありがとうレミ

レミ

いえいえ、私に出来ることはこのくらいですから。

レミ

イルシス王女も無理しないで下さいね。

レミ

人質にされたりしたら大変ですよ……っ

イルシス

あら、大丈夫よ返り討ちにするから

レミ

え?

イルシス

私、天の属性の化身だし

へ、へぇ~……。

イルシス

あっ、あれ……私の冠じゃない?

イルシス王女に言われて振り向いた先には、綺麗な羽がついている冠があった。

資料で見せてもらったものと同じだ。……あれが、イルシス王女の冠。

レミ

じゃあ、王女。

レミ

私はこれで

イルシス

分かったわ。

イルシス

……頑張ってね?

レミ

勿論です!

レミ

この辺で良い? ユリちゃん

ユリ

『いいですよ』

ユリ

『あっ、嘘ですもうちょっと東です』

レミ

……オーケー

私は出品された物がある場所に、忍び込んでいた。

ユリちゃんとは通信で繋がっている。

レミ

まだ突入しちゃダメ?

ユリ

『まだです』

ユリ

『突入まで後三〇秒』

ユリ

『……二〇秒』

何だか、心臓がさっきからうるさい。

深呼吸、深呼吸。

学校の訓練でやったから、大丈夫なはず。

落ち着こう。

私は息を潜ませる。精神統一。

────うん、いける。

ユリ

『十』

ユリ

『九』

ユリ

『八』

ユリ

『七』

ユリ

『六』

ユリ

『五』

ユリ

『四』

ユリ

『三』

ユリ

『二』

ユリ

『一』

ユリ

『────〇、今です!』

私はあらかじめ用意しておいた、ユリちゃん特製曇りスプレーで、監視カメラを無効化。

そしてドアを鍵で開ける。

これは、行く途中にいた警備員のを引ったくってきたものだ。

レミ

あれ!?

ユリ

『……どうしたんです?』

レミ

無いよ、冠が!

私がまた一から探そうとすると肩に手を置かれた。

もしかして……クロト!?

うううう、忌々しい。でも仕方がないかぁ。

そう思いながら振り向いた先にいたのは、クロトではなく。

レミ

──シロ、さん

レミ

何で、シロさんがここに……!?

シロ

……レミさんこそ、何故ここに?

シロ

ここは貴女のようなメイドが、来るところではありませんよ?

レミ

えっと……

シロ

シロ

ふふ、意地悪を言い過ぎました

シロ

貴女は、これを探しているのでしょう?

シロさんの手に乗せられていたのは、イルシス王女の冠だった。

レミ

……何で、貴女が持っているんです?

シロ

何故って……私が出品者なんですよ、この冠の

レミ

イルシス王女のだと知っていて、ですか?

私が見る限り、イルシス王女はかなりシロさんに懐いていたというのに。

裏切ったのか、この人は。

シロさんはパタパタと手を振った。

シロ

あー、少し誤解がありますね。

シロ

私がこれを盗んだ。

シロ

その事実に代わりはありません

レミ

じゃあ……!

シロ

────が。

シロ

私はシロとしてではなく、そうですね……。

シロエ

怪盗シロエとして、でしたけどね。

シロエ

────私は貴女を知っていました。

シロエ

私の弟子と──ミアと仲良くしていただいていたみたいですから

シロさん、いやシロエさんは勝手にベラベラと喋っている。

それでも、彼女が盗んだという事実には、イルシス王女を裏気ったという事実には何も変わりがない。

レミ

それでシロエさんはその冠をどうするつもりなんです?

私はシロエさんを睨み付ける。許せなかった。彼女の全てが。

シロエさんは頭を掻くと、私の手にポンと冠をのせた。

シロエ

はい

レミ

ええっ!

レミ

あなたはこれを盗んだの、ですよね?

シロエ

──知っていますか?

レミ

は?

シロエ

怪盗は──いえ、私は多くのものにときめき、手に入れようとします。

シロエ

ですが、手に入れた途端に、そのときめきは無くなってしまう。

シロエ

──分かりますか、私にとってその冠は、もう要らないものなんですよ。

シロエ

分かりますか、要らないものなんです!

レミ

はぁ……

つまり、冠を欲してる私にくれるってこと、だよね?

わ、分かりにくい。

素直に貰っていいのかな……?

レミ

……それ、私の質問に対する答えじゃないですよね

シロエ

…………

レミ

何で一度盗んだのに返すんですか?

シロエさんはダンマリだ。

あっ、もしかして……。

レミ

後悔、しちゃったんですか?

シロエ

シロエ

う~ん、君は頭が悪いんですね?

シロエ

そうでなければ、人が言いにくそうにしていることをわざわざ言い当てになんて来ないですもんね。

シロエさんは顔を逸らし、ぼそっと呟いた。

シロエ

シロエ

……私は

彼女は虚空に手を伸ばす。

その行動に、どんな意味が込められているのか、私には計り知れないけれど。

何も掴めないのは、多分彼女にも分かっていて。

シロエ

……子供の夢を取るのは可哀想でしょう?

シロエ

と、いうわけで

シロエさんがこちらを向いた。

シロエ

早くその冠を渡してきてください、王女に

レミ

……シロエさんが渡してきたら良いじゃないですか

そうすれば、万事解決じゃありません?

シロエ

貴女は本当に頭が悪いんですね

頭が悪い……!?

この私が!?

一人頭の中で憤慨していると、シロエさんが可哀想な子を見るような目付きで私を見てきた。

……私、そんなに変な顔してましたか?

シロエ

私が渡しに行ったら疑われるでしょう

レミ

あ、なるほど

ぽんっと手をうつ私を、シロエさんは黙って見つめていた。

レミ

あんなに私にダメだって言ってた割には、冠盗めなかったんだ~ふ~ん

クロト

……もう良いだろ。

クロト

俺をバカにするのは!

レミ

でもでも、結果的に私の勝ち~!

あの日から数日後。

私はメイドの仕事を、少しお休みにして貰い飛行船に戻っていた。

そして威張っている。

もっちっろっん……クロトに対して!

レミ

でも意外。

レミ

あの王国の死んだことになっている、双子の片割れがクロトだったってこと。

レミ

イルシス王女はクロトの妹だったのかー。

レミ

どーりで似ていると思った。

レミ

クロトは関わりたくなかったの?

レミ

嫌なことを思い出すから?

レミ

ねえねえ教えてよ

私はチームクロトとの勝負に勝ったのでこの際、聞きたいことを全部聞いている。

そうじゃないと滅多にクロトは自分の事喋らないし。

クロト

もう良いだろ。

クロト

質問タイムは終了!

終いには勝手に切り上げられた。

不満が沢山残っているけれど、私は満足感でいっぱいである。

……と、そう見せられるよう努力する

レミ

ねぇクロト!

私は口角を持ち上げる。

笑顔を作るのはうまくなった。

地球でも、ここでも演技指導されていたから。

レミ

怪盗の仕事って楽しいんだね

クロト

それ、は……

クロト

クロト

……それは普通の子が言うセリフじゃありません。

クロト

それにお前、今回何も怪盗の仕事っぽいことやってないだろ

レミ

は!? やったし、鍵開けとか相手を倒すとか!

クロト

それは怪盗の仕事じゃない

レミ

なによう!?

また喧嘩が始まりそうな予感。でも、何でだろうね。

この暮らしに満足しているはずなのに、何故か私の胸の奥はムズムズとしている。

…………。

……分かっているよ、私。見ないふりをしているだけで。

この正体を私は知っている。

今この世界で最も安心できる場所でも演じている、その理由を、知っている。

それは、今の今まで、考えないようにしていたこと。

ひと段落したからこそ、再び出てきたもの。

────そろそろ、向き合わなければならないかもしれない。

地球の、ことについて。

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