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2件
面白かったです!!
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
目を輝かせながら私に詰め寄る少女──イルシス王女。
私は目を泳がせる。
馬鹿正直に飛行船から落とされました……なんて言えない。
折角就職したのに危険な者だと思われたらどうなることやら。
──そう、私は彼女の誘いに乗った。
正直王女様がどこの馬の骨とも知らない私を雇うのはおかしいと思うんだけど……そうも言ってられない。
仕事を探すまで飛行船に帰ってはいけないということは、その間の生活は自分で何とかしなければならないということだ。
そんな状態の私に、イルシス王女の提案は渡りに船。乗らないわけがない。
……それに、国の中心である王宮だったら、早く“仕事”も見つかるかもしれないしね。
コネは作りまくって使いまくれ!
ミティフス学園の教えがやっと活きている気がする。
レミ
レミ
ぱっと出てきた嘘がこれだった。
というか初対面の侍女がイルシス王女と一対一で話すのよくないと思います‼︎
何かあったら誰がどう責任取るんですか! 別に害する気はないけどさ‼︎
イルシス
イルシス
手を合わして頬を染め、目をキラキラと輝かせているイルシス王女。
見ているこっちが眩しいです。罪悪感がすごい。
私はそれから逃れるように、部屋の中を見渡した。
白を基調とした壁に、白い天蓋付のお姫様ベッド。
使われているのか分からないくらい綺麗にされている白い机。
……クローゼットらしき物も白色だし。
白がお好きなのかな?
レミ
イルシス
イルシス
プールでは威厳みたいなものが感じられたのに、ここではまるで年相応の女の子だ。
無意識なのか、意識的に切り替えているのか。
レミ
イルシス
イルシス王女の目が鋭さを帯びた。
え、これしてはいけない質問だったんですか?
そうビクビクしていると、イルシス王女は顔を赤らめながら上目遣いで答えて下さった。
イルシス
イルシス
なるほど、侍女に憧れていらしたんですね。
さっき感じた鋭い視線は、私の気のせいだったみたいだ。
レミ
さっきは気付かなかったけれど、王宮も真っ白だ。
白がお好きな血筋なんですね。
……権力の象徴、とも捉えられるか。
白は何にも染まってしまうからこそ汚れやすい。
その白を維持するだけの国力がありますよ、と。
王宮と貴族社会って見栄の世界だもんね……。
イルシス
イルシス
シロ
シロ
メイド長のシロさんが私をちらりと横目で見た。
仕事中なのだろう。その手には雑巾が握られている。
レミ
レミ
レミ
シロ
シロ
シロ
何かぼそぼそと喋っておられるが、私には何も聞こえない。
耳は学園で鍛えたんだけどな……。
よっぽど小さい声? それとも……私の気のせい?
何にせよ、少し警戒しないとね。
シロ
シロ
……とにかく気合いが大事なんですね。
白い王宮を維持するための掃除とか大変そうだし、それもそっか。
その後私は王女とメイド長と別れ、廊下を歩きながらうんうんと悩んでいた。
貰ったメイドのマニュアルが分厚すぎることについてではない。
怪盗の仕事について、だ。
そんなポンポン怪盗の標的になるようなお宝あってたまるか。
……そもそも、クロトもクロトだよ。
もっと穏便な方法もあっただろうに、飛行船から落とすなんて!
イルシス
レミ
心を読まれたかのような台詞に驚き、慌てて音源を探す。
すると、いつの間にかイルシス王女が隣にいた。
彼女はクスクスと笑っている。
……が、纏う雰囲気はまるで別物だ。
慎重に、けれど動揺を悟られないように演じる。
レミ
レミ
イルシス
イルシス
レミ
イルシス
イルシス
……私の考え事が、漏れていたのだろうか。
口に出ていた、顔に出ていた……どれも違う。そんなミスは、起こさないようしていた。
イルシス
イルシス
…………そう言って、本気で私が安心できると思っているのだろうか、この王女様は。
……それとも、誘導してる?
私が警戒するように。それとも…………何だろう。
もっと他の、目的があるのか。
私は懐疑の眼差しをイルシス王女に向ける。
当然、メイドがその主人に向けてはならない類のものだ。
クビにされても文句は言えない。
イルシス王女は外向きの笑顔を浮かべながら、ぱっと口元を扇で隠した。
イルシス
イルシス
たった一晩で私の正体がバレたとは考えにくいが、何しろクロトの名が出てしまった。
どこまで彼女が知っているのか、私は確かめなければならない。
レミ
王宮の外れに聳え立つ、これまた真白の離塔にある一室で、私は王女と対面していた。
じんわりと汗で手が湿る。
小刻みに身体が震えていることが分かる。
……ただの緊張だ。そういうことにしよう。
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
……何、その個人体質。
正真正銘、神からの贈り物じゃない……!
そんな私の心をも読み取ったのだろうか、イルシス王女は眉を下げて苦笑した。
イルシス
イルシス
私は言われた通りに脳裏に色を思い浮かべた。
選んだのは、白。
イルシス
イルシス
それから何度か色を塗り替えてみたが、その度にイルシス王女に看破される。
……嘘ではないのだ。
イルシス
イルシス
こ、ここ、国家機密をさらっと私なんかに教えないで下さい‼︎
私がもしそれを悪用する人だったら以下略‼︎
機密管理こんなアバウトでいいんですか⁉︎ よくないですよね!!!!
イルシス
置いとかないでください……。
イルシス
レミ
イルシス
レミ
私は心を落ち着かせながら答えた。
この時点では、お互いにフェアな状態だ。
私はイルシス王女に正体をバラされたら困る。
イルシス王女も、怪盗と取引したと知られたら世間体が悪くなってしまう。
だからこそのドロー。まだ相手の言葉を鵜呑みにしてお願いを聴く必要はない。
イルシス
イルシス
イルシス
レミ
シラを切る。現段階、そんな面倒くさそうな依頼を引き受ける謂れはない。
そもそも、王族が怪盗と手を組んで良いんですか?
イルシス
イルシス
イルシス
選挙のようなもの、か……。
城には王子もいるらしいし、そちらが玉座に座るのかと思っていたのだが……。
レミ
レミ
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
レミ
イルシス王女は窓の外に見えるすっきりとした青色の空を見上げた。
イルシス
イルシス
レミ
「そう」とイルシス王女は頷いてみせた。
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
知っている、気がした。どこかで聞いたことがある。
それも、比較的最近。
どこだったけ…………。
…………あ。まさか。
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
私には、と王女は言った。
イルシス
イルシス
イルシス
イルシス
改革を行なおうとしているのだ、この王女様は。
今のこの世界が地球と比べて政治システムが大分遅れているのは知っていたけれど……。
王族の方から身分平等を主張し出すのは珍しい気がする。
長年続いてきた制度を廃止するのはきっと茨の道だ。一生を棒に振るかもしれない道だ。
それでも成し遂げたいと、彼女は望むのか。
これが──王族。
生まれながらにして、人の上に立つと定められた人種。
私には────到底真似できない。
その輝きに届かない。
イルシス
のせられているな、とは思った。心理的に彼女に味方したいと他人に思わせるような言葉選びだったから。
それでもいいか、と諦める自分もいた。どうせ彼女が王になれるかどうかは分からないのだ。
そこに挑戦する権利くらい、取り戻してやっても────支障はないだろう。
レミ
イルシス
レミ
私は一旦王宮を去り、市街地に出てきた。
そしてあの晩、渡された通信装置を取り出す。
「仕事が見つかりました」っと。
これでいいのかな。早く来てよね、クロト。
レミ
クロト
クロト
レミ
クロト
レミ
ユリ
レミ
レミ
レミ
レミ
ユリ
クロト
ユリ
クロト
ラン
ラン
ラン
ユリ
クロト
レミ
レミ
レミ
クロト
レミ
レミ
クロト
クロト
レミ
クロト
レミ
クロト
クロト
クロト
ラン
レミ
ユリ
レミ
思わずため息が出た。
さっきは考える暇もないくらい、喧嘩しちゃったしなぁ……。
ユリ
レミ
ユリちゃんは困ったようにため息をついた。
でもでも、まだ私、子供ですから?
あ、ユリちゃんがどこかへ行こうとしている。
見捨てないでユリちゃんストップストップ‼︎
レミ
レミ
ユリ
ユリ
ユリ
静かに闘志を燃やしているユリちゃん。
そうして私達は、チームクロトに勝つべく、夜中にひっそり作戦を練ったのであった。
今日はイルシス王女の冠が、闇オークションの野外パーティーに出品される日。
色々と情報屋に当たり、やっとの思いで手に入れた情報だ。
参加チケットを持っていれば、誰でも参加オーケーらしく、私はミアちゃんから二枚貰った。
隣には、もちろんユリちゃん……ではなく、イルシス王女が。
イルシス
レミ
レミ
レミ
イルシス
レミ
イルシス
へ、へぇ~……。
イルシス
イルシス王女に言われて振り向いた先には、綺麗な羽がついている冠があった。
資料で見せてもらったものと同じだ。……あれが、イルシス王女の冠。
レミ
レミ
イルシス
イルシス
レミ
レミ
ユリ
ユリ
レミ
私は出品された物がある場所に、忍び込んでいた。
ユリちゃんとは通信で繋がっている。
レミ
ユリ
ユリ
ユリ
何だか、心臓がさっきからうるさい。
深呼吸、深呼吸。
学校の訓練でやったから、大丈夫なはず。
落ち着こう。
私は息を潜ませる。精神統一。
────うん、いける。
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
ユリ
私はあらかじめ用意しておいた、ユリちゃん特製曇りスプレーで、監視カメラを無効化。
そしてドアを鍵で開ける。
これは、行く途中にいた警備員のを引ったくってきたものだ。
レミ
ユリ
レミ
私がまた一から探そうとすると肩に手を置かれた。
もしかして……クロト!?
うううう、忌々しい。でも仕方がないかぁ。
そう思いながら振り向いた先にいたのは、クロトではなく。
レミ
レミ
シロ
シロ
レミ
シロ
シロ
シロ
シロさんの手に乗せられていたのは、イルシス王女の冠だった。
レミ
シロ
レミ
私が見る限り、イルシス王女はかなりシロさんに懐いていたというのに。
裏切ったのか、この人は。
シロさんはパタパタと手を振った。
シロ
シロ
シロ
レミ
シロ
シロ
シロエ
シロエ
シロエ
シロさん、いやシロエさんは勝手にベラベラと喋っている。
それでも、彼女が盗んだという事実には、イルシス王女を裏気ったという事実には何も変わりがない。
レミ
私はシロエさんを睨み付ける。許せなかった。彼女の全てが。
シロエさんは頭を掻くと、私の手にポンと冠をのせた。
シロエ
レミ
レミ
シロエ
レミ
シロエ
シロエ
シロエ
シロエ
レミ
つまり、冠を欲してる私にくれるってこと、だよね?
わ、分かりにくい。
素直に貰っていいのかな……?
レミ
シロエ
レミ
シロエさんはダンマリだ。
あっ、もしかして……。
レミ
シロエ
シロエ
シロエ
シロエさんは顔を逸らし、ぼそっと呟いた。
シロエ
シロエ
彼女は虚空に手を伸ばす。
その行動に、どんな意味が込められているのか、私には計り知れないけれど。
何も掴めないのは、多分彼女にも分かっていて。
シロエ
シロエ
シロエさんがこちらを向いた。
シロエ
レミ
そうすれば、万事解決じゃありません?
シロエ
頭が悪い……!?
この私が!?
一人頭の中で憤慨していると、シロエさんが可哀想な子を見るような目付きで私を見てきた。
……私、そんなに変な顔してましたか?
シロエ
レミ
ぽんっと手をうつ私を、シロエさんは黙って見つめていた。
レミ
クロト
クロト
レミ
あの日から数日後。
私はメイドの仕事を、少しお休みにして貰い飛行船に戻っていた。
そして威張っている。
もっちっろっん……クロトに対して!
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
私はチームクロトとの勝負に勝ったのでこの際、聞きたいことを全部聞いている。
そうじゃないと滅多にクロトは自分の事喋らないし。
クロト
クロト
終いには勝手に切り上げられた。
不満が沢山残っているけれど、私は満足感でいっぱいである。
……と、そう見せられるよう努力する
レミ
私は口角を持ち上げる。
笑顔を作るのはうまくなった。
地球でも、ここでも演技指導されていたから。
レミ
クロト
クロト
クロト
クロト
レミ
クロト
レミ
また喧嘩が始まりそうな予感。でも、何でだろうね。
この暮らしに満足しているはずなのに、何故か私の胸の奥はムズムズとしている。
…………。
……分かっているよ、私。見ないふりをしているだけで。
この正体を私は知っている。
今この世界で最も安心できる場所でも演じている、その理由を、知っている。
それは、今の今まで、考えないようにしていたこと。
ひと段落したからこそ、再び出てきたもの。
────そろそろ、向き合わなければならないかもしれない。
地球の、ことについて。