テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

────普通の日だった。

至って、普通の、日だった。何も異変なんてない、至って普通の────

────嫌、違う。

普通の日、なんかじゃ無かった。

ちょっとした違和感は、そこら中に転がっていたじゃないか。

お母さんは泣いていた。

目の前が真っ白になっていた。

理由は分からない、けれど。

だから地球は爆発したんだ。

レミ

────はぅっ

レミ

はぁっ、はあっ

汗と息切れ。

前髪がぐっしょりと濡れている。

こうなった原因は……。

私は寝ているユリちゃんを起こさないようにそっと呟いた。

レミ

夢……か

地球最後のあの日の夢。

ここ最近、何度も見ている。

この世界に来てからは、ずっと夢なんて見てなかったのに。

体調が悪くなったから?

……違う、余裕が出てきたからだ。

レミ

地球……か

もう無くなってしまった、その世界のことを想う。

どんなに想っても、どんなに戻ってほしいと願っても……それが叶うことなんてないのに。

無駄な考え事、そのために使っている無駄な時間。

ここで暮らすことが、今一番の最良の策であることは分かっているのに。

……でも、例えば、他の人ならどうするだろう。

クロトなら、ミアちゃんなら、サラなら。

それから────イルシス王女なら。

皆の覚悟と私の覚悟はあまりに違う。

自分がダメな人間過ぎて……自己嫌悪に陥ってしまう。

……ねぇ、私は何がしたいの?

最近ずっと、自分の奥底に問いかけている。

答えは、とっくの昔に決まっている、のに。

動き出せない、こんな私が、私は────。

ユリ

ユリ

……レミさん?

ユリ

おはようございます

レミ

……あ、ユリちゃんおはよう

随分と長い間、考え込んでいたみたいだ。

気付かないうちに、朝になっていた。

朝ごはんを食べている途中も、上の空。

メイドの仕事をしに行っても、上の空。

そんなこんなで……イルシス王女に、長期間の休暇を頂いてしまった。

心配事は早く解決してきて、だそうだ。

気遣われている……まぁ十二個連続で花瓶を割ったらそうなるよね。

レミ

う~ん

ユリ

最近ずっとこの調子だよ、レミさんは

ラン

何か変なものを拾い食いでもしたのかな?

クロト

もしや禍々しい茸を食べてたり

ユリ

そこまではしないでしょう

ラン

もしかしたら食事の量が足りないのかも

クロト

だな

……考え事をしているだけなのに、私の悪口を言われている気がする。

ちょっと失礼じゃない?

レミ

考え事をしているだけなんですけど

クロト

……こっちを睨んできたぞ

ラン

いつもより覇気がありませんね

ユリ

寝不足なんですよ、きっと

……まだ失礼なことを言っているなぁ。

私はため息を吐きながら、また必要のないことをボーっと考えている。

……ダメだなぁ私。

と、思っていたら三人は話を既に止めていて、私の方をじっと見ていた。

クロト

……お昼ご飯の後、客間に来い

レミ

は?

何故か命令口調でクロトにそう言われた。

……飛行船に、客間ってあったんだ。どこよ?

昼ご飯の後、私が客間を探して迷い込んでしまったのは、言うまでもなかった。

……やっとの思いで客間に到着したその瞬間、クロトに外へ連れ出されました。

客間に行く必要なかったじゃん、私。

それとも何、客間に実は見せたくないものがあったとか?

客間なんだから、片付けくらいしっかりしてよ……。

レミ

──それで、何?

レミ

お昼ごはん食べたばっかりなのに、何で飲食店に来たの?

レミ

もしかしてスイーツ食べさせてくれるの!?

はしゃいで大声を出す私を、クロトはジト目で見遣った。

クロトが連れてきたんでしょうが……。

今思うとこの世界の飲食店も、地球の飲食店と内装はあまり変わらない。

そんな私が飲食店に行く、と聞いたとき思い至った一つの重大な事実。

それは、この世界へ来てからスイーツって食べてないよなぁ、ということ。

え? さっきまであんなにシリアスだったのに、呑気過ぎやしないかって?

悩み事を一時忘れて何が悪い! スイーツは全てを救うのだ!

……と、まぁ私が一人開き直っている間にクロトはスイーツを頼んでくれていたようだ。

流石は怪盗、太っ腹!

……怪盗あんまり関係無いかもしれないけど。

レミ

で、どうしたの?

レミ

何か話したいことでも?

クロト

あぁ、お前は知りたいんじゃないかと思ってな。

クロト

元の世界への戻り方

…………はい?

クロト

知りたいか? 知りたくないか?

レミ

そりゃまぁ、知れたら良いなとは思うけど……。

レミ

でも無理だよ?

レミ

地球爆発しちゃたし

クロト

その爆発前に戻れると言ったら?

私は眉をひそめた。自然と顔が険しくなるのが分かる。

レミ

そんなこと、出来るの?

レミ

揶揄っているんじゃないよね?

クロト

知り合いにそれを研究している人がいるからな

水の入ったコップの縁をなぞり、何故か偉そうにしているクロト。

私は今直ぐに立ち上がりたい衝動を抑え、バンッと机を叩いた。

と、いうことは……!

レミ

地球の爆発も阻止できる!

レミ

原因が分かれば!

レミ

……だよね?

クロト

ああ

クロト

ただ、移動の反動で少し記憶が無くなるらしい。

クロト

詳しいことは俺も知らないが……

記憶が無くなると言えば……。

私は顎に人差し指を当てた。

レミ

私、地球が爆発したその日の記憶しか残ってないんだけど、どうして?

クロト

さぁ、受けたショックが大きかったんじゃないか

ショック、喪失感、トラウマ、か。

地球に戻ったら思い出すのかな?

レミ

レミ

私、地球に戻って良いの?

クロト

何で俺に聞くんだ

レミ

だって、私がこっちの世界に来てからずっと面倒見てくれたのクロトだし

クロト

……そんなこと別にどうでもいいだろ。

クロト

“魂が行きたいと思う場所に行けばいい。他は何も考える必要はない”。

クロト

お前の先祖の名言だ

先祖ってことは怪盗アロミネルさん、かな?

……クロトは何も気にする必要はないって言ってくれている。

……なら、このチャンスを逃すわけにはいかない。

レミ

よし、私、地球の爆発を阻止する!

私がそう宣言したとき、クロトは眉を下げて笑っていた。

クロトと相談した数日後。

私は『世界研究所』というところに来ていた。

クロト

準備はいいな?

レミ

多分……ああっ。

レミ

ここの世界のお米持ってくるの忘れた!

クロト

そんなものは要りません

仏頂面で私の頭を叩くクロト。

やっぱりお母さんっぽいよなぁ……。

クロト

今日は色々とありがとうございます。ディテフさん

ディテフ

いいよいいよー。

ディテフ

でも私とクロトの仲だよ?

ディテフ

もうちょっと砕けてもらってもいいかなー?

ディテフ

今世では初めての再会だね!

ディテフ

まぁ……特に感動はしないけど

クロト

しろよ、少しくらい

クロトは突っ込んでから、しまったという顔をしている。

ディテフさんはニヤニヤしてクロトの体をつついていた。

私としては何がなんやら。

ディテフさんは、クロトの前世の知り合い、なのかな?

レミ

クロトとディテフさんは、前世の友人なんですか?

ディテフ

そうだよそうだよー。

ディテフ

君はレミ、と言ったっけ。

ディテフ

ん~……彼女にとてもそっくりだ。

ディテフ

ちなみにね、クロトより私の方が年上だよ。

ディテフ

今年で確か千歳ちょうどだったかな?

レミ

せっ⁉︎

千歳!? 見た目は三十代半ばの男性なのに。

もしや人間では無いのかも……。

ディテフ

人間だよー、一応

レミ

一応

クロト

おいそこの若作り、無駄話は止めろ。

クロト

時間が無くなるだろ

ディテフ

はいはい、ったくもう、せっかちなんだから……

ディテフ

はい、レミちゃんこれー

クロトの小言を全く聞かないディテフさんは、私に指輪のようなものを渡した。

ディテフ

これはね魔法が使えない世界でも三回だけ魔法が使えるようにした薬ー。

ディテフ

開発に開発を重ねて作ったんだよ!

ディテフ

大事に使ってね?

そんな貴重なもの、貰って……いや、この際ありがたく頂いておこう。

レミ

あ、ありがとうございます

ディテフさんは瞳を細めた。猫みたいだ。

ディテフ

んで、ちゃんとお礼を言えるいい子に一つアドバイス。

ディテフ

────運命を変えるにはそれ相応の対価が必要だよ。

ディテフ

地球の神が今、どんな状態にいるのかは知らないけど、気を付けてね。

ディテフ

んじゃあ出力開始ー

ディテフさんは気の抜けるような声で重要なことをさらっと話し、急に機械をいじり始めた。

え、待って待って展開早くない⁉︎

ディテフ

あ、最後の愛の言葉をお互いに言い合ってよ

レミ

へ?

クロト

は?

クロトの声が、マジだ。殺気と書いてまじと読むやつだ。怖い。

ディテフさん、殺されないように準備してください……!

ゴツン!

あ。クロトが殴った。

ディテフ

いった~。

ディテフ

そんなに変なこと言ったかな、私

クロト

うるさい。じじいは黙ってろ

クロト

クロト

────レミ

クロトが私の方へ向き直る。

自然と背筋が伸びた。

クロトは短く一言。

クロト

健闘を祈る

レミ

え!? 最後の別れかもしれないのに短すぎない?

クロト

長すぎるよりかはいいだろ

レミ

うーん、私からは……

何を言おうかと、頭の中にある記憶と情報を探る。

レミ

うん、寝相は直した方がいいよ。

レミ

いつもラン君の悲鳴が聞こえてくるから

クロト

うるさいっ

怒鳴られたけれど、いつもみたいに怒鳴り返す気にはなれない。

……一応、これでお別れだもんね。

ディテフ

あーあと五秒

クロト

言うのが遅い、若作り!

ディテフ

よーん

ディテフ

さーん

カウントの声に負けないように、私は声を大にして叫んだ。

ディテフ

にー

レミ

クロト!!

レミ

元気でねー!!!!

ディテフ

いーち

クロトが驚いたようにこちらを見ている。

……そんなにビックリすることでもないだろうに。

何だか笑けるなぁ、この際、笑ってしまおうか。もう怒られることもないだろうし。

なんて、考えてたら、段々と手足の感覚が消えて、視界も暗くなってきて。

かと思ったらこちらの世界に来た時のように、私は真っ白な光に包まれていた。

バイバイ、クロト。

この作品はいかがでしたか?

120

コメント

3

ユーザー

初めまして、井之上と申します イラコンの告知が出ていた関係で読み始めたんですが、一気読みさせていただきました! 8月以降、更新が途絶えてるんですね、残念です フォローと、こちらの連載のブックマークをさせていただきました 色々な方がイラコンに参加されるとのことで今回の参加は見送らせていただく予定ですが、いつか連載の続きが読めるのを楽しみにしております!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚