────普通の日だった。
至って、普通の、日だった。何も異変なんてない、至って普通の────
────嫌、違う。
普通の日、なんかじゃ無かった。
ちょっとした違和感は、そこら中に転がっていたじゃないか。
お母さんは泣いていた。
目の前が真っ白になっていた。
理由は分からない、けれど。
だから地球は爆発したんだ。
レミ
レミ
汗と息切れ。
前髪がぐっしょりと濡れている。
こうなった原因は……。
私は寝ているユリちゃんを起こさないようにそっと呟いた。
レミ
地球最後のあの日の夢。
ここ最近、何度も見ている。
この世界に来てからは、ずっと夢なんて見てなかったのに。
体調が悪くなったから?
……違う、余裕が出てきたからだ。
レミ
もう無くなってしまった、その世界のことを想う。
どんなに想っても、どんなに戻ってほしいと願っても……それが叶うことなんてないのに。
無駄な考え事、そのために使っている無駄な時間。
ここで暮らすことが、今一番の最良の策であることは分かっているのに。
……でも、例えば、他の人ならどうするだろう。
クロトなら、ミアちゃんなら、サラなら。
それから────イルシス王女なら。
皆の覚悟と私の覚悟はあまりに違う。
自分がダメな人間過ぎて……自己嫌悪に陥ってしまう。
……ねぇ、私は何がしたいの?
最近ずっと、自分の奥底に問いかけている。
答えは、とっくの昔に決まっている、のに。
動き出せない、こんな私が、私は────。
ユリ
ユリ
ユリ
レミ
随分と長い間、考え込んでいたみたいだ。
気付かないうちに、朝になっていた。
朝ごはんを食べている途中も、上の空。
メイドの仕事をしに行っても、上の空。
そんなこんなで……イルシス王女に、長期間の休暇を頂いてしまった。
心配事は早く解決してきて、だそうだ。
気遣われている……まぁ十二個連続で花瓶を割ったらそうなるよね。
レミ
ユリ
ラン
クロト
ユリ
ラン
クロト
……考え事をしているだけなのに、私の悪口を言われている気がする。
ちょっと失礼じゃない?
レミ
クロト
ラン
ユリ
……まだ失礼なことを言っているなぁ。
私はため息を吐きながら、また必要のないことをボーっと考えている。
……ダメだなぁ私。
と、思っていたら三人は話を既に止めていて、私の方をじっと見ていた。
クロト
レミ
何故か命令口調でクロトにそう言われた。
……飛行船に、客間ってあったんだ。どこよ?
昼ご飯の後、私が客間を探して迷い込んでしまったのは、言うまでもなかった。
……やっとの思いで客間に到着したその瞬間、クロトに外へ連れ出されました。
客間に行く必要なかったじゃん、私。
それとも何、客間に実は見せたくないものがあったとか?
客間なんだから、片付けくらいしっかりしてよ……。
レミ
レミ
レミ
はしゃいで大声を出す私を、クロトはジト目で見遣った。
クロトが連れてきたんでしょうが……。
今思うとこの世界の飲食店も、地球の飲食店と内装はあまり変わらない。
そんな私が飲食店に行く、と聞いたとき思い至った一つの重大な事実。
それは、この世界へ来てからスイーツって食べてないよなぁ、ということ。
え? さっきまであんなにシリアスだったのに、呑気過ぎやしないかって?
悩み事を一時忘れて何が悪い! スイーツは全てを救うのだ!
……と、まぁ私が一人開き直っている間にクロトはスイーツを頼んでくれていたようだ。
流石は怪盗、太っ腹!
……怪盗あんまり関係無いかもしれないけど。
レミ
レミ
クロト
クロト
…………はい?
クロト
レミ
レミ
レミ
クロト
私は眉をひそめた。自然と顔が険しくなるのが分かる。
レミ
レミ
クロト
水の入ったコップの縁をなぞり、何故か偉そうにしているクロト。
私は今直ぐに立ち上がりたい衝動を抑え、バンッと机を叩いた。
と、いうことは……!
レミ
レミ
レミ
クロト
クロト
クロト
記憶が無くなると言えば……。
私は顎に人差し指を当てた。
レミ
クロト
ショック、喪失感、トラウマ、か。
地球に戻ったら思い出すのかな?
レミ
レミ
クロト
レミ
クロト
クロト
クロト
先祖ってことは怪盗アロミネルさん、かな?
……クロトは何も気にする必要はないって言ってくれている。
……なら、このチャンスを逃すわけにはいかない。
レミ
私がそう宣言したとき、クロトは眉を下げて笑っていた。
クロトと相談した数日後。
私は『世界研究所』というところに来ていた。
クロト
レミ
レミ
クロト
仏頂面で私の頭を叩くクロト。
やっぱりお母さんっぽいよなぁ……。
クロト
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
クロト
クロトは突っ込んでから、しまったという顔をしている。
ディテフさんはニヤニヤしてクロトの体をつついていた。
私としては何がなんやら。
ディテフさんは、クロトの前世の知り合い、なのかな?
レミ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
レミ
千歳!? 見た目は三十代半ばの男性なのに。
もしや人間では無いのかも……。
ディテフ
レミ
クロト
クロト
ディテフ
ディテフ
クロトの小言を全く聞かないディテフさんは、私に指輪のようなものを渡した。
ディテフ
ディテフ
ディテフ
そんな貴重なもの、貰って……いや、この際ありがたく頂いておこう。
レミ
ディテフさんは瞳を細めた。猫みたいだ。
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフさんは気の抜けるような声で重要なことをさらっと話し、急に機械をいじり始めた。
え、待って待って展開早くない⁉︎
ディテフ
レミ
クロト
クロトの声が、マジだ。殺気と書いてまじと読むやつだ。怖い。
ディテフさん、殺されないように準備してください……!
ゴツン!
あ。クロトが殴った。
ディテフ
ディテフ
クロト
クロト
クロト
クロトが私の方へ向き直る。
自然と背筋が伸びた。
クロトは短く一言。
クロト
レミ
クロト
レミ
何を言おうかと、頭の中にある記憶と情報を探る。
レミ
レミ
クロト
怒鳴られたけれど、いつもみたいに怒鳴り返す気にはなれない。
……一応、これでお別れだもんね。
ディテフ
クロト
ディテフ
ディテフ
カウントの声に負けないように、私は声を大にして叫んだ。
ディテフ
レミ
レミ
ディテフ
クロトが驚いたようにこちらを見ている。
……そんなにビックリすることでもないだろうに。
何だか笑けるなぁ、この際、笑ってしまおうか。もう怒られることもないだろうし。
なんて、考えてたら、段々と手足の感覚が消えて、視界も暗くなってきて。
かと思ったらこちらの世界に来た時のように、私は真っ白な光に包まれていた。
バイバイ、クロト。
コメント
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初めまして、井之上と申します イラコンの告知が出ていた関係で読み始めたんですが、一気読みさせていただきました! 8月以降、更新が途絶えてるんですね、残念です フォローと、こちらの連載のブックマークをさせていただきました 色々な方がイラコンに参加されるとのことで今回の参加は見送らせていただく予定ですが、いつか連載の続きが読めるのを楽しみにしております!