テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
王都アストレイア
大理石の塔が並び立ち、風をはらんだ白金の旗が翻るその城下は
祝祭の準備に忙しくも、どこか張り詰めた空気に包まれていた
王城の奥、謁見の間
ミレイユたちが通されたその空間は
まるで神殿のような荘厳さを湛えていた
光の差す高窓の下、重厚な玉座に腰掛けていたのは__
レオン
レオン
レオン
レオン・アウグストゥス
王国の若き王子
ミレイユ
ミレイユが息を呑んだ
ミレイユは、目の前の青年の姿を見つめたまま言葉を失っていた
その瞳には見覚えがあった
__あれは、まだ彼女がほんの子供だった頃
一度だけ 城の庭園に迷い込んだことがあった
そこで出会った 優しく声をかけてくれた少年
名前も名乗らず 花冠を編んでくれたあの少年
ミレイユ
レオンの瞳が少しだけ緩む
レオン
レオン
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
変わってセリルが前に出る
その騎士としての冷静なまなざしは 政治の匂いを敏感に察知していた
レオンはゆっくりと立ち上がり 歩み寄る
レオン
レオン
レオン
ミレイユ
ミレイユがはっきりと告げた
レオンは静かに首を横に振る
レオン
レオン
ミレイユ
レオン
レオン
レオン
レオン
その言葉に、部屋が凍りついたような沈黙に包まれる
サフィルが一歩、ミレイユの前に立つ
サフィル
ミレイユ
背後から、静かにラズロの声が響く
ラズロ
ラズロ
ラズロ
レオンの瞳が、わずかに揺れた
レオン
レオン
レオン
ミレイユは、目を閉じた
数ヶ月前までは、ただの村の少女だった
けれど今、自分は何かに選ばれている
それが、誰かの想いによる者だとしたら__
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
レオンは言葉を受け止め、ゆっくりと頷いた
レオン
レオン
その言葉の奥には、明らかにまだ交渉は終わっていないという気配があった
そして__謁見の間を出た一行に ラズロがぽつりと告げる
ラズロ
ラズロ
サフィルがミレイユを見つめる
そして、そっと手を握った
サフィル
ミレイユは、彼の手を握り返す
どこか遠く、空の彼方から 微かな雷鳴が聞こえた
それは、神の怒りの兆しか
それとも、運命が動き出した音だったのか
この世界の光と影が、少しずつ交わろうとしていた
王都滞在 三日目の夜
ミレイユはひとり
城の東塔にある「古文書庫」へと 足を運んでいた
月の書庫で見た記憶の断片に導かれるように
彼女の心はもっと知りたいと叫んでいた
自分の力の正体を
なぜ自分が神の器と呼ばれるのかを
文書庫の鍵は、ラズロが手配してくれていた
だがそこは王族の血を引く者か、 許された者しか入れない封印区画
ミレイユ
ラズロ
ラズロ
黒衣の魔術師は、やわらかく笑って彼女を送り出した
重い扉をくぐり ミレイユは灯火ひとつだけを手に 静かな書棚を進む
"神姫記録" と刻まれた、古びた書簡
それは、誰もが語りたがらなかった王国の裏側だった
記録の一節
「神に選ばれし姫とは本来、神の加護を引き寄せる媒体ではない。むしろ、神の怒りを逸らす贄である」
「災厄は、姫がいる限り一時的に収まる。だが、姫が自我に目覚めれば、神の怒りはその器を壊し、世界に牙をむく」
「過去、姫が覚醒した例はわずか二件。その二人とも記録から抹消された」
ミレイユの背に、ひやりと冷たい何かが這い上がる
ミレイユ
ミレイユ
そのとき
風がなかったはずの文書庫の奥で_
???
誰かの声がした
振り返ると、そこには人ではなく 影が立っていた
それは人の形をしていた
輪郭は揺らぎ、存在がこの世界に属していないようだった
ミレイユ
???
???
影は静かに、だが鋭く告げた
???
???
???
???
ミレイユは震える手で、胸元のペンダントを握る
そこには、サフィルとの誓いの印がある
ミレイユ
影が微かに揺れた
???
???
???
ミレイユ
ミレイユ
その言葉に 影は、不思議と満足そうに口元をゆるめた
???
???
???
そして影は消えた
再び静寂が戻った文書庫
ミレイユの背後から、足音が近づく
サフィル
それはサフィルだった
彼は息を切らしながら、彼女の肩を抱き寄せる
サフィル
サフィル
サフィル
ミレイユは、彼の胸にそっと額をあずける
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
サフィルの瞳が見開かれる
そして__彼もまた、静かに微笑んだ
サフィル
サフィル
外では空が鳴る
月は今夜も静かに彼女たちを照らしていた
しかし、王宮の奥で何者かが
その記録を読まれたことを知る気配もまた、ゆっくりと目覚めていた