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頬に硬いコンクリートの感触がする。
どうやら自分は地面に倒れているらしい。
全身が鉛のように重くて目も開けられない。
━━ﾄﾞｼｬｯ━━
少し離れた所で何かが倒れる音がした。
中性的な声の人
中性的な声の人
少しも残念がっていない声が耳に届く。
女性にしてはやや低く、男性にしてはやや高い声。
「どんまい、どんまい」と言いながらその声は去っていく。
遠ざかっていく足音を聞いていた時、ツンと嫌な臭いがした。
(これ...鉄の匂い...)
嫌な考えが頭を巡る。
(血の匂いだとしたら怪我人がいるかもしれなくて...)
(て事はさっきの音は人が倒れた音？)
(だとしたら...さっきの声の人が...)
━━ｼﾞｬﾘｯ━━
ひゅっ、と咄嗟に息を飲む。
"さっきの声の人が怪我をさせた犯人か？"
という考えが頭を過ぎった時、すぐ近くで砂混じりの足音がした。
心臓がバクバクと鳴り出す。
(死にたくない...)
自分が何故ここに倒れているのかも分からない。
そんな訳も分からないまま死ぬくらいなら、もっと後悔の無い人生を送れば良かったとまで考える。
(せめて天国にくらい行きたい...)
そう思った時、
中性的な声の人
中性的な声の人
先程の声が聞こえてきた。
けれど返事なんて出来るはずなかった。
返事をしたら殺されてしまうのではと思ったからだ。
しかし、その次には返事をしないと殺されるかもと真逆の考えも浮かぶ。
中性的な声の人
中性的な声の人
中性的な声の人
返事を催促する声が響いた。
返事をするべきなのか、しない方が良いのか分からない。
気付かれないようにギュッと強く目を瞑る。
中性的な声の人
中性的な声の人
(あれ？少し声が遠く━━━━━
主人公
中性的な声の人
中性的な声の人
中性的な声の人
急に脇の下に何かを差し込まれ、情けない声が出てしまった。
咄嗟に脇をしめて挟み込んだのは、多分人の手だろう。
(俺、今、変な声...ッ)
いや、恥ずかしがっている場合ではない。
寝たフリ...というか、死んだフリをしていた事がバレてしまった。
本当に殺されてしまうんじゃないかと冷や汗が止まらない。
━━━━ｼﾞｬﾘｼﾞｬﾘｯ!!━━━━
一瞬の隙をつかれ、強い力で仰向けに転がされた。
その時に腕が下敷きとなって、さらにお腹の上に乗っかられて身動きが完全に取れなくなる。
中性的な声の人
中性的な声の人
その言葉と同時に鼻を強く摘まれた。
もう起きていることはバレているし、覚悟を決めるしかない。
恐る恐る、ゆっくり目を開ける。
中性的な声の人
目を開けて、真っ先に視界に入ったのは赤。
それはこの人の髪の色じゃない。
笑っている赤毛の人の...
頬に付いた血の赤だった。
すっと血の気が引いていく。
頬に付いているのが血かどうか分からないが、それにしか見えない。
赤毛の人は立ち上がって少し距離を取る。
そして、近くに積まれていた鉄板の様な物に「よいしょ」と腰掛けた。
すぐに危害を加える気は無いようだ。
上体を起こして赤毛の人の言葉を待つ。
目の前の人物も、この場所すらもまるで覚えが無い。
(...あれ？)
そこでようやくある事に気付く。
自分の顔も、これまでの生活も覚えている。
それなのに...
(自分の名前が...分からない...)
自分の名前だけが思い出せない。
恐怖と困惑でパニックを起こしそうだ。
中性的な声の人
中性的な声の人
主人公
主人公
いつの間にか俯いていたようで、声を掛けられて顔を上げる。
心配してくれているのか、声が優しく感じられた。
この人に敵意は全く無いのかもしれない。
今思えば、目の前の人は"殺す"なんて一度も言ってないわけだし。
助かる道があってくれと祈りながら口を開いた。
主人公
主人公
中性的な声の人
中性的な声の人
主人公
主人公
主人公
主人公
主人公
口から出てしまった言葉に後悔した。
絶対に言わなくても良い事まで言った気がする。
赤毛の人の頬に付いた血が視界に入り、視線が泳いでしまう。
中性的な声の人
中性的な声の人
中性的な声の人
中性的な声の人
主人公
中性的な声の人
あまりにもフレンドリーに言葉が返ってくる。
拍子抜けして間抜けな声が出てしまった。
目の前の人物に対しての恐怖感が薄れていく。
途端に怯えていた自分が恥ずかしくなり、顔を隠すように少し俯いた。
主人公
主人公
中性的な声の人
中性的な声の人
中性的な声の人
主人公
中性的な声の人
赤毛の人は立ち上がって近付いてくる。
目の前までやってくると、右手を差し出された。
中性的な声の人
中性的な声の人
主人公
中性的な声の人
目の前の人物に対しての警戒心はもうほとんど無かった。
差し出された右手に自分の右手を重ねる。
そのまま引っ張られて立ち上がった。
主人公
中性的な声の人
主人公
中性的な声の人
中性的な声の人
中性的な声の人
主人公
(実験体か何かだと思われてるって事！？)
心を読んでいるかのように、赤毛の人はふふんと得意げな顔をしている。
中性的な声の人
喰数(くず)
喰数(くず)
主人公
喰数(くず)
返事をしながら歩き出す喰数さん。
その後ろ姿を見て"自分が知っている意味のクズ"じゃないようにと願う。
そう言えば
辺りを見回すと、やはり人が倒れている。
喰数さんのフレンドリーさで忘れかけていた。
喰数さんは"人が倒れる何か"をした可能性がある。
『無差別に人は殺さない』
つまり"理由があれば人を殺す"って事なのだろうか？
考えていても仕方ない。
今は手を差し伸べてくれた喰数さんを信じてみるしかない。
少しの不安を抱きながら、サラサラと赤毛を揺らす姿を追いかけるのだった。
＿＿＿＿Episode.2【プロローグ】
