テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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第1話 - あ

2023年11月04日

#スカッと

タナカトシキ

ナオコ

マサヒコ、なんかお腹が痛い。

マサヒコ

え、なんか食あたりか？

マサヒコ

お前、腐った食べ物でも食ったんだろ。

ナオコ

違うわよ！人聞き悪いわね。

ナオコ

そうじゃなくて、お腹が張るの。

ナオコ

いま妊娠23週目でしょ、私。

マサヒコ

そういえばそうだったね。

マサヒコ

んで？

ナオコ

え？心配してくれないの？

マサヒコ

だって腹が張る感じとか、俺には分からないし。

ナオコ

それはそうだけど…。

マサヒコ

で、今どこにいるの。

ナオコ

まだ会社よ。

マサヒコ

なんだ、会社か。

マサヒコ

じゃあ迎えにはいけないな。

ナオコ

え！？

マサヒコ

だってお腹が痛いだけだろう？

マサヒコ

それなら気合いを入れて、自力で帰って来いよ。

ナオコ

ちょっと待ってよ、普通の腹痛と違うのよ。

マサヒコ

ふつうのふくつう？

マサヒコ

お前オモシロイこというなｗ

ナオコ

ふざけてる場合じゃないわよ！

マサヒコ

キレんなよ。

ナオコ

今度の腹痛は陣痛みたいに痛いの！

ナオコ

本当はこうしてLINEするのも辛いぐらいなのよ。

ナオコ

お腹の中にいるのはアナタの子なのに、心配じゃないの？

マサヒコ

まあ、心配じゃないっていえばウソになるけど。

マサヒコ

どうしても心配なら、病院に行ってくれば？

ナオコ

行ってくればって…。

ナオコ

なんでそんなに他人事なのよ。

マサヒコ

だって俺がどうにかしてやれる事じゃないし。

ナオコ

そんな…。

ナオコ

そばにいてくれるだけでいいのに。

マサヒコ

チッしょうがねーな。

マサヒコ

本当は明日から社員旅行で箱根に行く予定だから

マサヒコ

今日は準備しようと思ってたのによぉ。

ナオコ

なんなの、その嫌そうな感じ。

ナオコ

とにかく、今からいつも行ってる産婦人科に向かうから。

ナオコ

マサヒコも、なるべく早くにきてちょうだい。

マサヒコ

あーあ、めんどくせー。

マサヒコ

俺が行ってもすること無いのに…。

～その夜～

ナオコ

やっぱり切迫早産だったわ。

ナオコ

今日から即、入院だって…。

マサヒコ

そっか。

マサヒコ

で、どのくらい入院するんだって？

ナオコ

わからないわ。

ナオコ

お腹の張りが収まらない限りは退院できないって。

マサヒコ

長引くの？

ナオコ

そうみたい。

ナオコ

放っておいたら本当に早産で、

ナオコ

赤ちゃんが産まれてきちゃうからって…。

マサヒコ

え、そうなんだ。

マサヒコ

でも病院にいるから大丈夫だろ？

ナオコ

そんなの、どうなるか分からないわよ！

ナオコ

ねえ、病院に来てくれないの？

マサヒコ

俺が行ってどうすんの？

ナオコ

どうすんのって…。

ナオコ

さっきもいったじゃん。

ナオコ

そばにいてくれるだけで良いって。

マサヒコ

でも俺、何の役にも立たないぜ。

ナオコ

そんなことはないわよ。

ナオコ

それに、入院に必要な荷物も持ってきてほしいし。

マサヒコ

なに、俺を小間使いにすんの？

ナオコ

小間使いって！それでも私の夫なの？

ナオコ

家族なら、困った時に助けてくれるのが当たり前でしょう？

マサヒコ

都合のいい時だけ俺を利用するなよ。

ナオコ

え？なに言ってるの。

ナオコ

私がいつ、あなたを利用したのよ、

マサヒコ

いつも良いようにコキ使ってるだろう。

マサヒコ

ゴミ出ししてこいとか、食べ終わったら皿を下げろとかさあ。

マサヒコ

家に帰ったらゆっくりしたいのに、お前がいるとくつろげないんだよ。

ナオコ

ひどい…。

ナオコ

その程度のことで、「利用した」なんて。

ナオコ

当たり前のことをお願いしているだけでしょう？

ナオコ

ましてや共働きなんだから…。

マサヒコ

ほら、そうやって都合のいいように俺を丸め込もうとする。

マサヒコ

あのさあ、お前は女なんだから家の事を全部やって当たり前なの！

マサヒコ

俺のオフクロなんて、ずっと共稼ぎだったけど、

マサヒコ

家のことなんて当たり前のように全部やってたぜ。

マサヒコ

俺には、「あなたは男の子だから何もしなくて良いのよ」って

マサヒコ

めちゃくちゃ優しかったんだからな。

ナオコ

．．．もういいわ。

ナオコ

入院の荷物は、母に頼んで持ってきてもらう。

ナオコ

なにかあった時のために、合い鍵も母に渡していたから。

マサヒコ

あっそ。

マサヒコ

最初からそうすればよかったんだよ。

マサヒコ

俺は明日から社員旅行だから、これから帰って準備するわ。

ナオコ

その間に母が行くと思うわ。

ナオコ

なにか言われても、私に文句なんて言わないでよね。

マサヒコ

ふん、文句なんて言われてたまるかよ。

マサヒコ

そんなことより、まともに妊娠生活も送れない娘を叱ってもらいたいくらいだわ。

マサヒコ

おい、見てるのか？

マサヒコ

なんだよ、無視しやがって。

マサヒコ

大したコトないくせに入院とか大げさすぎw

マサヒコ

ま、その間に俺は気ままに過ごせるから、いいんだけどな。

～翌朝～

マサヒコ

おい、何で昨夜はお義父さんとお義母さんが両方来たんだよ。

ナオコ

朝からいきなり文句？

ナオコ

少しは心配してくれてるのかと思ったら…。

マサヒコ

ふざけんなよ。

マサヒコ

おかげで余計な説教を食らっちまったじゃないか。

マサヒコ

妻が切迫早産で入院してるのに

マサヒコ

旅行にいくなんて、ありえないってさ。

ナオコ

当たり前のことをいっただけじゃない？

ナオコ

それに母は車の運転が苦手だから、

ナオコ

父に車を出してもらったのよ。

ナオコ

むしろ、あなたがやるべきことを代わりにやってくれたの。

ナオコ

お礼を言うべきところだと思うわ。

マサヒコ

エラそうに、何いってんだ。

マサヒコ

だいたい、お前がいない間、一体誰が俺のメシを用意するんだよ？

ナオコ

は？

ナオコ

お腹の中の赤ちゃんより、自分のご飯の心配をしてるの？

ナオコ

35歳にもなって、自炊も出来ないなんて恥ずかしくないの？

ナオコ

こっちは必死で、お腹の子を守っているのに…。

マサヒコ

まだ生まれてもいない子供のことより、夫が優先に決まってんだろ！

マサヒコ

まったく、なにも分かってないよな、俺の事。

ナオコ

ごめんね、理解出来なくって。

ナオコ

私はあなたのママじゃないから、

ナオコ

自分が辛い時まであなたには尽くせないわ。

マサヒコ

妻失格。

ナオコ

はい？

マサヒコ

妻なら、どんなときも笑顔で夫に心配をかけないこと！

マサヒコ

自分の体にムチを打ってでも尽くすもんだろ。

ナオコ

ただの体調不良じゃないのに。

ナオコ

あなたの子供が流れちゃうかもしれないんだよ？

ナオコ

そういう状況、分かってんの？

マサヒコ

わかってるけどさぁ、そうなったらそうなったで

マサヒコ

諦めるしかないじゃん？

ナオコ

そんな簡単に言わないで！

ナオコ

やっと恵まれた赤ちゃんなのに…。

マサヒコ

ったく、もうめんどくせえな。

マサヒコ

俺、もう旅行に行く時間だから出かけるぞ。

ナオコ

自分から絡んできたんじゃない。

ナオコ

もう勝手にしてちょうだい。

ナオコ

ああ、イライラする。

～翌日（土曜日）～

ナオコ

こんにちは、ヨシキさん。

ヨシキ

こんにちは。ナオコさん。どうしたんですか。

ナオコ

実は入院しちゃいまして…。

ヨシキ

え、大丈夫ですか？

ナオコ

それが、切迫早産で…。

ヨシキ

切迫早産？つまり赤ちゃんが危ないということですか。

ナオコ

はい。ですから明日の町内掃除当番はムリだと思います。

ナオコ

本当は夫に頼みたかったんですけど、

ナオコ

旅行に行っちゃってて…。

ヨシキ

え？奥さんが入院中なのに旅行ですか？

ナオコ

はい。

ナオコ

今回のお当番は免除していただけますか。

ヨシキ

ええ、もちろんいいですよ、掃除当番は俺ひとりでも大丈夫ですから。

ヨシキ

実はウチの妻も昨日から旅行に行ってて、

ヨシキ

明日まで帰ってこないんです。

ナオコ

え？奥様も？

ナオコ

どちらに行ってらっしゃるんですか？

ヨシキ

箱根って言ってました。

ナオコ

箱根…。

ナオコ

ウチの夫も箱根に行ってます。

ヨシキ

本当ですか。

ヨシキ

偶然でしょうかね。

ナオコ

いや、まさかですよね。

ナオコ

でも、ウチの夫のスマホ…。

ナオコ

実は位置情報で居場所が分かるんです。

ヨシキ

え？そうなんですか。

ナオコ

はい。彼はあんまりスマホとかに詳しくないから、

ナオコ

全部私が設定してあげたんですけど、

ナオコ

家族割で契約していたので、位置情報も共有しているんですよ。

ヨシキ

なるほど。

ヨシキ

そうすると、俺も妻の居場所がわかるかも。

ヨシキ

妻はウチの車で旅行に行ってるから。

ナオコ

まさかと思いますが、調べてみます？

ヨシキ

そうですね…。

ヨシキ

私たちの思い過ごしならいいですが…。

ナオコ

でも、今はちょっとお腹がまた張ってきました…。

ヨシキ

わ、大変だ。

ヨシキ

すみません、くだらない想像で心配させてしまって。

ナオコ

いいえ、少し休めば大丈夫です。

ナオコ

ただ、位置情報はわかったらスクショを送りますね。

ヨシキ

俺もそうします。

ヨシキ

どうぞお大事になさってください。

ナオコ

ありがとうございます。

ヨシキ

それじゃ、また。

ナオコ

はい。またよろしくお願いいたします。

～翌日（日曜日）～

ナオコ

マサヒコ、今どこ？

マサヒコ

まだ箱根。

マサヒコ

今度はなに？

マサヒコ

そっちこそ入院中だろ。

マサヒコ

スマホなんかいじってて良いのかよ。

ナオコ

病院の許可はもらってるから平気よ。

ナオコ

それにWi-Fiも飛んでる談話室からだし。

マサヒコ

ふーん、起き上がれるんだ。

マサヒコ

じゃあ大したコトないな。

ナオコ

そうでもない。

ナオコ

点滴でお腹の張りをおさえているから、

ナオコ

手短にすませるわね。

マサヒコ

何を？

ナオコ

マサヒコ、あなた浮気してるでしょ。

マサヒコ

へ？

マサヒコ

な、何を言ってるんだ。

マサヒコ

今日は同僚との社員旅行だっていっただろう？

ナオコ

本当にそう？

マサヒコ

そうだよ！浮気相手なんて一緒なワケないだろう。

ナオコ

私は、「浮気してるでしょ？」って聞いただけよ。

ナオコ

浮気旅行中でしょ、なんて一言もいってない！

マサヒコ

あ！

ナオコ

つまり、今浮気相手と旅行しているのね。

マサヒコ

ち、ちがうよ！

マサヒコ

本当に社員旅行中なんだよ…。

ナオコ

へ～。

ナオコ

でも、私おもしろいモノをゲットしたのよ。

マサヒコ

面白いモノって。

マサヒコ

いったい何を…？

ナオコ

これを見て！

ナオコ

～（動画送信）～

ナオコ

これ、ドライブレコーダーの動画よ。

マサヒコ

え、これは昨日の記録？

ナオコ

そうそう。

ナオコ

よく撮れてるよね。

マサヒコ

どこでこれを？

ナオコ

ヨシキさん知ってるよね？

マサヒコ

え、ヨシキさんって、まさか町内会班長のヨシキさん？

ナオコ

そうよ。

マサヒコ

なんでヨシキさんから…。

ナオコ

あら知らなかった？

ナオコ

あなたがお付き合いしているユウさんのご主人じゃない。

マサヒコ

え？

ナオコ

本当にしらなかったんだ。

ナオコ

ヨシキさんとユウさんは子供はいらっしゃらないけど、

ナオコ

ちゃんとした夫婦よ。

マサヒコ

知らなかった…。

ナオコ

浮気相手の配偶者も知らないなんて、だれだけマヌケなの。

マサヒコ

いや、浮気相手じゃないって。

マサヒコ

俺、浮気なんてしてないよ。

マサヒコ

今日は本当に社員旅行で、

マサヒコ

ユウさんとは偶然、現地で会ったから

マサヒコ

ちょっと車に乗せてもらっただけだよ！

ナオコ

車に乗った事は認めるんだね。

マサヒコ

う、うん、まあ…。

ナオコ

じゃあ、これはな～んだ。

ナオコ

～（画像送信）～

マサヒコ

え、これは！

マサヒコ

お前、車の中を盗撮してたのかよ！

ナオコ

私じゃなくて、ユウさんのご主人が撮ったのよ。

ナオコ

これもドラレコの画像。

ナオコ

しっかり車の中で致しているわね。

マサヒコ

まさかこんなのをバラまくわけじゃないよな！？

ナオコ

そんなことをしたら私が名誉棄損で訴えられちゃう。

ナオコ

私は、これを使ってあなたとユウさんを訴えます。

マサヒコ

え？訴えるの？

マサヒコ

俺たちを訴えるってどういうことだよ。

ナオコ

決まってるじゃない。離婚と慰謝料の請求よ。

ナオコ

このことはヨシキさんも勿論ご存じ。

ナオコ

あちらの夫婦も、これから大変よ。

マサヒコ

おいおいおい、お前は入院中だろう。

マサヒコ

ストレス厳禁な状態なのに、今そんなことをしなくても…

ナオコ

心配ご無用よ。

ナオコ

もう私の両親にも話してあるから。

マサヒコ

え？ご両親にも報告しちゃったの！？

ナオコ

もちろん。

ナオコ

速攻で弁護士を探してくれたわ。

ナオコ

私のお腹の調子が落ち着いたら、色々話し合いましょう。

マサヒコ

ま、まてよ。

マサヒコ

これから子供が産まれるのに、離婚なんて…

ナオコ

もちろん、離婚は出産後でもいいんだけど。

ナオコ

慰謝料は必ず払ってもらうから！

マサヒコ

ちょ、ちょっとそんな。

マサヒコ

まだ俺、旅行中だし。

マサヒコ

そんなこと急に言われても…。

ナオコ

いいえ、私はもうガマンの限界。

ナオコ

私が今回切迫早産で入院したのに、全然心配もしてくれないし、

ナオコ

赤ちゃんにもまったく興味を持ってくれない！

ナオコ

そんなアナタと一緒に子育てなんて、とても無理。

マサヒコ

わるかったよ、反省してる。

マサヒコ

これからは真面目にやるから。

ナオコ

ここで許したらまた同じ事をやらかすでしょ、あなた。

ナオコ

あなたが壊したのは、私たちの信頼関係よ。

ナオコ

もう元には戻れないから。

ナオコ

とりあえず、私が退院するまでに家を出て行って！

マサヒコ

そんな！

マサヒコ

住むところがなくなったら、俺はどこに行けばいいんだ。。。

ナオコ

そんなの知らない。実家にでもいけば？

ナオコ

大好きなママが暖かく迎え入れてくれるわよ。

マサヒコ

いや、おフクロよろお前のほうがいいんだ。

マサヒコ

良い父親になれるよう努力するから！

マサヒコ

ナオコ、もう一度やり直そうよ。

マサヒコ

なあ、頼むよ…

～その後～

ナオコ

あのあと、私は結局1カ月ほど入院しました。

ナオコ

退院後は自宅に戻りましたが、実家の母がずっと付き添ってくれました。

ナオコ

夫は、素直に実家に帰りましたが、

ナオコ

離婚と慰謝料請求にはなかなか応じてくれませんでした。

ナオコ

でも、ユウとヨシキさん夫婦が先に離婚したことで、

ナオコ

マサヒコとユウの不倫も、町内でウワサが広がりました。

ナオコ

マサヒコは、自分の不貞が町内で知れ渡ったので

ナオコ

気まずくなったのか、子供が産まれて１か月後にやっと離婚に応じました。

ナオコ

もちろん、慰謝料もはらってもらいましたよ。

ナオコ

出産だけでもヘトヘトだったのに、

ナオコ

夫の不倫のせいで、本当に大変な妊娠生活でした。。。

ナオコ

しばらくは実家の両親の厚意に甘えて、子育てに専念していきたいと思います。

ナオコ

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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