” 君には ”
” マトリカリアの花が良く似合うよ ”
そう言って僕の頭に花を舞わせた。
結陽
僕はいつも、笑ってそう答えた。
舞夏
両手にいっぱいの花を抱えて
君はいつも首を傾げる。
舞夏
それもいつも、必ず目を伏せて
花が大切そうに微笑みながら。
” この花が、貴方に。 ”
結陽
結陽
” 泣いたのは 決して貴方のせいではないよ ”
結陽
そう、彼の遺書には書かれていた。
声も
体温も
服装も、装飾品も
全部、嫌なほど覚えてる。
朝起きていちばんに君の目の前へ行く。
結陽
夏が舞う、と書いてマナ。
舞夏
舞夏
結陽
陽を結ぶ、と書いてユウヒ。
舞夏
結陽
僕らは正真正銘
生きていてはいけない人物だ。
締め切ったカーテン
〈 現在逃走中の 相川舞夏容疑者は _
垂れ流したテレビの音
結陽
舞夏
結陽
舞夏
結陽
舞夏
結陽
舞夏
結陽
” 嘘じゃないよ ”
それはあまりにも突然の事で
なんで家がバレたのかも、僕がバレてたのかも
なにも分からないまま
結陽
舞夏
ただ、君との約束だけが頭の中を駆け巡って
舞夏
舞夏
結陽
結陽
君との合図。
きっと、絶対 いつかまた君と出会えるから
仕方のなかったことなんだ
あの家族は ” 死なないといけなかった ” 。
ただ、それだけ。
結陽
” 本当に綺麗だね ”
舞夏
ずっと叶えたかった夢が、
貴方を縛っていないだろうか。
結陽
結陽
それを ” 諦めていい ” と
舞夏
舞夏
言える勇気が
結陽
結陽
俺にもあったら
舞夏
結陽
本当に欲しかったものも
舞夏
結陽
カバンもペンも、捨てよう。
舞夏
結陽
舞夏
結陽
貴方は美しくて
マトリカリアみたいにキレイで
だから、運命だと思った。
そんな貴方を殴った母親は
性犯罪を犯した父親は
罵り 刃物を向けた兄は
絶対に、死ぬべきだった。
ただ、今思えば
” 貴方の意見を、もう少し聞けばよかった。 ”
僕と君とでは、なにが違う?
結陽
同じ生き物さ、そう分かってる。
結陽
でもね 僕は何かに怯えている。
舞夏
舞夏
きっと、正常な判断なんて出来なかった。
結陽
結陽
ただ、逃げたかった。
それだけ。
結陽
舞夏
青すぎた春を
結陽
舞夏
忘れずにいたいと
結陽
舞夏
駆けるは 雪の大地
舞夏
結陽
その先の言葉は
普通なら発しちゃいけない。
結陽
でも、普通を教えてくれなかったのはアイツらだから
結陽
特に理由は分からないけれど
きっと、君が大好きだった。
愛してた。
舞夏
結陽
君の遺書にはこう綴られていた。
舞夏
結陽
僕との日々が大切だったこと
舞夏
結陽
僕を大切にしなかった人達が憎かったこと
結陽
殺したのは 悪かったと言うこと
舞夏
それまでが前文。
その後は僕に向けて。
舞夏
あの日、泣いたのは
舞夏
結陽
僕のせいではないと言うこと
結陽
それは嘘じゃないということ
舞夏
きっと、今から泣くのも
結陽
絶対に僕のせいじゃないということ
舞夏
結陽
舞夏
最後の最後は
僕と花占いがしたいと言うこと
結陽
実は、僕も同じこと思ってたことを書き足して
舞夏
結陽
舞夏
結陽
結陽
君は初めて驚いた表情を見せて
舞夏
ちぎった花弁を両手に集めて
伏し目がちにこう呟いた。
” 結陽は、マトリカリアの花が良く似合うよ ”