あ゙ー
暑さで喉の水分を奪われたのだろうか。
左隣からは掠れた、意味を成さないただの〝音〟が漂ってきた。
こういうときって、おはようであってたっけ
確実に暑さにやられている。 そうじゃなきゃこんなに脳が溶けた発言なんてしないだろう、たぶん。
朝だからそりゃあ当然「おはよう」だよ
彼の馬鹿な質問に答えたわたしの声も、思ったより掠れていた。
──7月某日。
今日も今日とて猛暑日で、土砂降りの陽射しの中、私と彼は傘を持っていなくて。喉の奥に言葉が張り付いては思考に絡まり、肌には前髪だとか襟足だとかが張り付いて、輪郭を際立たせる。
───そんな何処にでもあるような夏の日。
気がついたときには18歳になってしまっていた少年と少女は
秘密基地にて、ひと夏の逃避行を。
何でおはようって言うんだろうな
・・・さあ、考えたこともなかった。
彼は知りたがりだった。
コレ、逃避行して何日目だっけ
明日で10日目、流石にバテてきた?
んなワケ無ぇじゃん
それで見栄っ張り。
あの雲の名前、何だっけ
入道雲。雨雲だし、夕立が来るかもね。
・・・の割には結構馬鹿。
・・・喉、渇くよな。
あー…公園、行こっか。
自分に忠実な野郎で
てか何で俺たち知り合ったんだっけ
えー…なんだっけ、あれじゃない?
納涼祭?
あー…
それっぽいわ
んね
昔のことには興味無くって
俺たちの小遣いで何処までいけるんだろうな
極限まで節約すれば、最後まで…?
いや無理だろ
確実に夏バテで死ぬぞ
それも確かに!
気兼ねなく笑えて
それでいて。
お前、さ。
…なあに。
気づいてんじゃねぇの。
馬鹿で、賢かった。
…うん。
夏には終わりがあることも、
こんなことしてられないのも、
こんなことしてられるのもさいごだって、わかってるよ。
それならなんで、って聞きたげな双眸がわたしを見つめる。
わたしが無理させてるのも。
ぜんぶぜんぶ、知ってるよ。
君がわたしのお願い、断らないのも知ってる。
・・・へぇ、
そこまでわかってんだ
掠れた声で返事をした彼は、「これだから賢いヤツって嫌んなるよ」って
わらって
笑って
微笑って
嘲笑って
嗤って、そのまま。
サイテーでサイコーな最期の夏の
花火と成った
また、次の夏に。