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降りしきる雨が地面を叩く。
ザアアアアア──。
傘を忘れた蒼海は、校舎の屋根の下で、曇り空を見上げていた。
頬を伝う一筋の涙。
雨の日は、どうにも心が晴れない。
そのとき、背後に気配を感じて振り向くと、そこには傘を広げた彼が立っていた。
蒼海よりも背が高く、柔らかなタレ目の優しい瞳。
蒼海は慌てて袖で涙を拭い、俯いてしまう。
俯く蒼海に、彼は優しく微笑む。
月夜 紫苑
優しい声。差し出された善意。
それなのに、蒼海は無意識のうちに、痛烈な言葉を吐き捨ててしまう。
蒼海 白
ハッと息をのんだ蒼海は、慌ててカバンを頭上に掲げ、雨の中を走り去った。
蒼海のその弱々しい背中は、ただ遠ざかっていくばかりだ。
待って!!
バシャバシャと水たまりを跳ね飛ばしながら、彼は傘を差したまま蒼海の後を追った。
やがて、肩の濡れた蒼海の頭上に、傘の影が落ちる。
月夜 紫苑
彼は、相変わらず優しい瞳を向けていたが、その顔はどこか泣きそうに見えた。
彼のズボンの裾は、泥水が染み込んでいる。
蒼海は、彼の手から傘を払い除けた。
彼は、地面に落ちた傘を見つめながら呆然と立ち尽くす。
蒼海 白
蒼海は無意識に彼に叫んでいた。
あんな態度をとった自分に、優しくされる資格なんてない。
頭の中を渦巻く感情。
そのとき、彼は傘を拾い上げ、もう一度そっと傘を差し出した。
月夜 紫苑
こんなに優しくしてもらってるのに、何もかも偽善だなんて思い込んでしまう。
俺はなんて面倒な人なのだろう。
そう思いながらも、蒼海は彼の言葉から逃れられずにいた。
2人は一つの傘の下、肩を寄せ合うようにして並んで歩いた。
沈黙が続くせいか、雨の音だけがやけに大きく響く。
月夜 紫苑
彼は、優しく微笑みながら、俯いた蒼海の顔をそっと覗き込んだ。
蒼海 白
ぽつりと呟かれたその名前に、紫苑は再び微笑む。
雨はまだ降り続いている。
廊下を行き交う人々の声
教室を満たす騒がしいざわめき
蒼海は机に突っ伏し、昨日、雨の中で出会った月夜のことを思い出していた。
山梨 晃
顔を上げると、そこには同じクラスの山梨 晃が、柔らかな笑顔で覗き込んでいた。
蒼海 白
変わらない日常の中に、あの日の雨の雫だけが、心に降り続いているようだった。
山梨 晃
山梨 晃
蒼海 白
山梨 晃
山梨 晃
蒼海 白
凛堂は、中学時代に一番仲が良かった男友達。
そして、蒼海が人間不信に陥ったきっかけの一人でもあった。
山梨 晃
自分の腕を掴む山梨の手を、蒼海はじっと見つめたまま歩き出した。
山梨は、小学校からの幼馴染で、蒼海が「偽善者」という言葉を向けたことのない、たった一人の親友だった。
山梨と体育館へ向かう廊下で、偶然月夜とすれ違う。
月夜は優しく微笑みかけるが、蒼海はまだ彼を信じきれず、顔を伏せたまま通り過ぎる。
山梨と他愛ない話をしながら、月夜の横を通り過ぎていく。
月夜は、しばらくそこに立ち尽くしていた。
蒼海は、そんな彼の後ろ姿を一瞥し、再び前を向いて歩き出した。
体育の授業終了まで残り5分。
生徒たちはバドミントンのネットやラケット、シャトルを片付け始めていた。
蒼海が更衣室へ行くために荷物を持とうと、床にしゃがみ込む。
危ない!!
誰かの叫び声に驚き、顔を上げた蒼海の視界に、上から落ちてくる支柱の影が映る。
ガンッ──。
見上げる間もなく、支柱は蒼海を打ち付けた。
先生が慌てて駆け寄ってくる。
その声に混じって、山梨の焦った声も聞こえてきた。
蒼海 白
薄っすらと目を開けると、保健室の白い天井が視界に入る。
幸い、支柱は頭を直撃していなかったため気絶だけで済んだらしい。
大事を取って安静にしているよう言われた。
蒼海 白
蒼海は、保健室を出て、先ほどの体育館での出来事を思い出しながら、静まり返った廊下を歩く。
ドンッ──。
階段をのぼろうと角を曲がったところで、誰かとぶつかった。
尻もちをついた蒼海は、慌てて謝る。
蒼海 白
顔を上げると、そこに立っていたのは月夜だった。
彼は慌てて蒼海に駆け寄る。
月夜 紫苑
蒼海は差し伸べられた手を無視し、自力で立ち上がった。
その時、階段から降りてきた男子生徒が声をかける。
男子生徒
蒼海はズボンについた埃を払いながら、その男子を睨む。
蒼海 白
『偽善者』──。頭の中に、その言葉が浮かび上がる。
月夜 紫苑
月夜が蒼海を見つめ、心配そうな声で尋ねる。
その瞳は微かに揺れていた。
男子生徒
蒼海が答える間もなく、男子生徒が割り込んでくる。
どうせこんな『偽善者』に話したところで面倒なだけだ。
そう思った蒼海は、慌てて否定しようと月夜の肩を掴んだ。
しかし、振り返った月夜の瞳は、今までの彼とは違っていた。
どこか怒っているようで…心配しているようで…
そのくせ感情が読み取れない、まるで生きていないような瞳だった。
『偽善者』のくせに……なんでそんな目を向けるんだ……?
⋮ To be continued.