仮眠室で寝ていたら、甘い匂いに鼻腔が擽られ、覚醒する。まだはっきりと覚醒しないまま、匂いのもとを辿り、給湯室に足を踏み入れる。
城戸丈一郎
浅倉おはようさん
浅倉潤
城戸の兄貴、おはようございます。何か良い匂いしてますね
城戸丈一郎
今日は何か甘いもん食べたい気分でな、朝食はホットケーキにしょうと思ってん
浅倉潤
ホットケーキ?何です、それ?
城戸丈一郎
なんや、お前、ホットケーキも知らんのかいな。人生の半分損しとんで。
浅倉潤
俺ん家、無駄に金持ちだったさかい、飯はシェフが作るんで、庶民的なもんは一度も食べたことあらへん
城戸丈一郎
そうやったな
城戸は浅倉の面倒を見ていたので、浅倉が置かれていた家庭環境を知っている。貧乏だが父親の愛情に包まれた温い環境で育った自分と違い、裕福な家庭に生まれたにも関わらず、寒々しい環境で育った浅倉と、生育環境による差が、こういう場面でも出るのは仕方ない事だった。
浅倉潤
残念やわ。そんな、うまいもんがあることを知らんと生きてきたなんて、俺は本当損してますわ
城戸丈一郎
いや、充分間に合うで。今日食べたらええねん。人生の半分戻ってくんで。ほら、食べや
軽口をたたきながら、焼き上がったホットケーキを皿に乗せ、浅倉の前に置く。
浅倉潤
これ城戸の兄貴の朝食でしょ、ええんですか?
城戸丈一郎
ええねん。また焼いたら済むことやし。遠慮せんと食べや
浅倉潤
おおきに
浅倉は出されたホットケーキを口をつける。ふわふわとした食感に、バターとはちみつの甘じょっぱい味が口の中に広がる。
城戸丈一郎
急にどしたんや!?不味かったか?
ホットケーキを食べた浅倉から、一粒の涙が零れ落ちる。それを境に、またぽつりぽつりと浅倉の頬を涙が伝う。
浅倉潤
いえ、ちゃいますねん。美味いです。ただ、しあわせを具現化したら、こんな味がするんやろな、と思ったら涙出てもうてん
城戸丈一郎
・・・俺もイチゴパフェの次に好きなんや、また作ってやるさかい。今まで損しとった分、一緒に取り戻すで
浅倉潤
はい
特別感はなくとも、二人で過ごす何気ない日常が本当の一番の幸せ。
おわり







