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そして、私の肉体が完全にこの世を去ってから、いくつもの時が経った。
ずっと消化不良のようなわだかまりが喉に詰まったまま、時は残酷にも過ぎていったのだ。
その中で、私の『太宰治』という作家の名前は瞬く間にさまざまな人に使われ、
“実在した人物の名前を使った物語”が、次々と作られていった。
理由はわからないが、私はその物語の中の登場人物として、あの世から連れ戻された。
そして、気づけば、ポートマフィアの最年少幹部、太宰治として生きていた。
やはり、どの世界にいても、つまらなく、死にたくなる毎日だった。
ヨコハマという街で、たくさんの思い出のある人たちと出会った。
織田作にも、安吾にも、
あの凶暴チビ蛞蝓中原も、
そして私が最も敬愛していた芥川先生まで。
芥川先生に会えた時は、嬉し過ぎて死んでしまうかと思った。
だけど、私の役目としてこの物語が終わるまで“太宰治”に与えられた任務をまっとうしなくてはならない。
だから、芥川先生に冷たい態度を取るしかなかった。
ずっと、申し訳なくて、たまらなかった。
だけど、芥川先生が私に気持ちを向けてくれていることが、たまらなく嬉しかった。
この世界では、私を必要としてくれた。
私がこの世界の大きな鍵と言ってもいいほど、周りの人たちは私の思考を必要とした。
私の力を必要としてくれた。
この物語を読んでいる読者諸君も、私のことが好きだと言ってくれた。
この世界にいる限り、私は必要とされる!
みんながみんな、私に夢中なのだ!
だけど、この世界では、私の文学は必要としない。
この世界は文学ではない。
この世界は狡猾な思考回路が必要なのだ。
私の心も。私の文学も。私の元の性格も。
誰も、必要としない。
目を向けてはくれない。
……死にたい。
死にたくてたまらない。
だけど、周りは死なせてくれない。
私には大切を守り続ける力なんてない。
ほら、ほら、織田作が死んじゃったよ。
守れたかもしれないのに、死んじゃったよ。
今世では愉快な話をながらくできると信じていたのに。
『人を救う側になれ』
なれると思うの? 私に?
無理だよ。だって、自分ですらも救えないんだもの。
だけど、“太宰治”の役割は、“織田作之助”が死んだ後、武装探偵社に入社しなくてはならない。
これを覆せば、この世界は酸化しきってしまう。
だから、私は、ポートマフィアを抜けた。
すべては、この世界のシナリオ通りに。
探偵社に入社して、しばらくは与えられた通りにお調子者を演じようと思っていた。
それなのに、
それなのにどうして、
中島敦
なんでこうしてまた、君に会ってしまうんだ。
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