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太宰治

.....助かったか。......ちえっ

ああ、違う。こんなことを言いたいんじゃな い。

太宰治

君かい?私の入水を邪魔したのは

もっと感動の再会! というようなセリフを言いたいのだ。

中島敦

邪魔なんて!

中島敦

僕はただ助けようと......

中島敦

入水?

太宰治

知らんかね。入水、つまり自殺だよ。

中島敦

は?

太宰治

私は自殺しようとしていたのだ。

太宰治

それを君が余計なことを.....

違う、違う。助けてくれた君を否定することは言いたくない。

中島敦

は、はあ.....

太宰治

まあ……人に迷惑をかけない清くクリーンな自殺が、私の信条だ。

太宰治

だのに君に迷惑をかけた。

太宰治

これはこちらの落ち度。

太宰治

何かお詫びを……

ぐうううううう

彼のお腹からそんな可愛らしい音が鳴り響いた。

胸を締め付ける愛おしさを懸命に殺しながら、私は用意された言葉を言う。

太宰治

……空腹かい? 少年

中島敦

じ、実はここ数日、何も食べてなくて……

ぐうううううう

つい、私のお腹も鳴る。彼の眼前で、恥ずかしい。

太宰治

私もだ。ちなみに財布も流された。

中島敦

ええ? 助けたお礼にご馳走っていう流れだと思ったのに!

もちろん、私もそうしたかった。

だって、約百年ぶりの再会なのだ。君に男らしさというものを見せてやりたかった。

太宰治

中島敦

「?」じゃねえ!!

それでも、いつの時代にいても、君は可愛らしい。

私はニヤニヤが止まらなかった。

国木田独歩

おーい!

国木田独歩

こんなところにおったか、唐変木!

太宰治

おー、国木田くん、ご苦労様

国木田独歩

苦労はすべてお前のせいだ。この自殺嗜癖!

国木田独歩

お前はどれだけ俺の計画を乱せば……!

太宰治

そうだ、君。良いことを思いついた。

太宰治

彼は私の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう。

中島敦

へ?

国木田独歩

聞けよ!

太宰治

君、名前は?

中島敦

中島……敦ですけど……

太宰治

ついて来たまえ、敦くん。何が食べたい?

中島敦

はぁ……あの、茶漬けが食べたいです

太宰治

はっはっは! 餓死寸前の少年が茶漬けを所望か!

太宰治

良いよ、国木田くんに三十杯奢らせよう。

国木田独歩

俺の金で太っ腹になるな、太宰!

中島敦

太宰……?

途端、敦くんの目が、懐かしいものを見るような目つきに変わった。

太宰治

ああ、私の名だよ。

太宰治

太宰、太宰治だ。

ここまで、来てしまった。

私はシナリオ通りのセリフしか、言えないのか。

主人公になった君と、昔を懐かしむ話すらもできないのか。

いや、そもそも、記憶なんてないのだろう。

織田作も安吾も中原も芥川先生にもなかったのだ。

敦くんだけ、特別にあるはずがないだろう。

そして、その後、特に特別な展開があるわけでもなく、

中島敦くんは、シナリオ通り、この武装探偵社に入社した。

とんとん拍子に話が進んでいった。

今日もいつも通り、平和な日常を過ごすだけ。

中島敦

太宰さん! 仕事してくださいよ!

太宰治

私は今寝るという仕事をしているのだあ、ふはは

中島敦

国木田さあん

国木田独歩

この唐変木が! 部下ばかりに仕事を押し付けるな!

国木田独歩

貴様はとりあえずこの資料をまとめておけ!

太宰治

……めんどくさい

中島敦

太宰さん……

太宰治

やればいいんでしょー? やればー!

国木田独歩

子供のように駄々をこねるな、太宰

太宰治

うへえい

太宰治

……あ、そうだ

太宰治

敦くん、この資料、足りないところあるから、一緒に取りに行こ

中島敦

ええ? 僕、別のが……

太宰治

いいじゃないかあ!

中島敦

……仕方がないですねぇ

こうやって平和な日々を過ごすたびに、君と接する時間が長くなるたびに、

もっと君が好きになって、もっと君の特別に入りたくて仕方がない。

資料室に入った敦くんは私をまったく疑うこともなく、

どの資料ですか、と私に問うていた。

私は、彼を後ろから抱きしめていた。

中島敦

うおっ! 太宰さん?

中島敦

びっくりしましたよ〜。どうかされたんですか?

太宰治

……少し、君に似ている人を、思い出しちゃって。

太宰治

もう少しだけ、このままでいさせてくれない?

もう、溢れ出てしまう。

君を思う気持ちが、とどめなく溢れて溢れて、仕方がない。

だけど、私は“太宰治”だ。

シナリオに反した行動は、“太宰治”ではない。

そう、自分に言い聞かせていた時、

ふと、

中島敦

……まったく。あの頃から全然変わってないですねえ、先生。

中島敦

いい加減、その何も言わない癖、直した方がいいですよ。

と、この物語の主人公としてではなく、私が愛した作家の敦くんの気配がした。

あなたも君も裏切り者

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