夜の19時。 目の前に並べられた彩りの良い料理。 それが4人分。
見た目は至って普通の料理。 このナクチポックンなんて僕の好物だ。
でも、全く食欲は湧かない。 今日はコンビニで買ったパンとグミぐらいしか食べてないのに。
まぁ… 理由なんて分かりきってるけど。
母
義父
ご飯を並べながら テーブルの前で突っ立ってる僕に笑いかけた母。
ネクタイを緩めながら 椅子に座った義父。
ホソク
コイツらがいるからだ。
家族、とか。 笑わせんな。
ジョングギの事、無視しやがって。
それに、本当の"家族"なら。 子供と…あんな事、しないだろ…っ。
ホソク
こいつらの顔を見ないように俯いたまま ぼそりとそう言うと 踵を返してリビングから出て行った。
ナム
階段を降りてきたナムジュンから すれ違いざまに言われた言葉を無視し サンダルを履いて外に出ると、家の近くのコンビニへ向かう。
家の中にいるより 外にいた方が、よっぽど気が楽だ。 コンビニに入ると真っ先にレジへ進む。
ホソク
スジン
このコンビニでバイトしている、同じクラスのスジンに 小声でそう言うと 思いきり顰め面をされた。
そういうスジンだってこっそり吸ってるくせに…。
ホソク
スジン
ジミンっていうのは スジンの好きな1年生の後輩の名前だ。 僕は別にそこまで仲が良いとは思ってないけど、 廊下ですれ違ったりする時は向こうから話しかけてくれる。
ホソク
僕の提案に無事乗っかってくれたスジンに 両手を合わせてお礼を言う。
会計を済ませてコンビニを出ると 途端に重くなる足取り。 まるで鉛のようだ。
あぁ、帰りたくない。 ジンヒョンのいる あの散らかった部屋に帰れることが どれほど幸せなことだったか。
このまま、どこか 当てもなく遠くへ行きたい気分だ。 例えば、この空の上とか…。
自殺を考えた事は何度もあるけど それを実行に移さなかったのは ジンヒョンと、それからスビンがいてくれるから、
このふたりがいなかったら 僕はきっと今頃 この世にはいなかったと思う。
サンダルを脱ぐと そのまま2階にある自分の部屋へ籠った。
僕がいなくても掃除はしてたのか 部屋には埃ひとつ落ちてなかった。 ベッドの上は綺麗に整頓されてる。 どうせ使わないのに。
コンビニの袋を机の上に置くと そのまま椅子に座って突っ伏した。
見たくなかった。
グレーのレンガ調の壁紙も、 アイスブルーのカーテンも、 白いベッドフレームも、 球体が4つ、交互に連なったような形のシーリングライトも
今では全部、見たくない。
この部屋で1人でいると いつも、漠然とした不安を感じる。 落ち着けない。
認めたくないけど、 ジンヒョンがいる事に慣れてしまってたから 怖いんだ。 ひとりで夜を迎えることが。
ホソク
自分に言い聞かせた。 汗の滲んだ震える手を誤魔化すように 握りこむ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。
壊れた玩具のように ひたすらその言葉を呟いた。
?
部屋の前で 誰かが聞いてるとも知らないまま。
真夜中、 喉が渇いて一階に水を飲みに行った。
真っ暗なリビングでひとり、 冷蔵庫の中にあった ペットボトルの水を喉に流し込む。
やっぱり、寝れない。
あのベッドを使いたくなくて、 その下に敷いてあるラグの上で寝転がってるせいで 身体が痛い。
ひとりで真っ暗なリビングに佇む。 無駄に広い部屋。 無駄に大きなテレビに 無駄に大きなソファ。
ジョングギが産まれて5人家族になるからって この白い革張りのカウチソファを買ったんだ。
確か、僕が白が良いって言って… この色になったんだっけ。 他の3人は汚れが目立つから、黒にしようって言ってたのに。
だから、気に入ってた。 この白いソファ。
ホソク
突然、胸焼けと 胃から何かがせり上がってくるような感覚がして 口元を押さえた。
ペットボトルが倒れて床に転がり落ちる。
ホソク
吐き気が僕を襲う。 気持ち悪い。
僕が1番忘れたい、あの光景は いつまで経っても消える事はなく 僕の頭の奥深くに 鮮明に刻み込まれてるみたいだ。
ホソク
ひとり呟いた言葉。
なんで泣いてるのか、わからない。 ストレスでおかしくなったのだろうか。
溢れ出る涙を手で拭う。
大っ嫌いなあいつの顔が頭に浮かぶと たまに、なぜこんなにも涙が出てくるのか。
いつもはあいつらへの怒りや憎しみで溢れかえってるのに この時だけは 自分の心の中が、分からなくなる。
朝、洗面所で顔を洗っていると 後ろに感じる人の気配。
義父
鏡に映る、白いワイシャツとネクタイ姿。 義父…スンヒョンだ。
無視して顔をタオルで拭いていると 腰に当たる、硬いもの。
ホソク
義父
この変態が…。 下半身を、僕に押し当てている。 朝から…正気を疑う。
こいつの頭の中では 僕のことなんて、 ただの欲を吐き出すための道具にしか… 見えてないのだろうか。
ホソク
義父
ホソク
汚い手が後ろから伸びてきて 僕の唇を触る。 もう片方の手は 後ろで僕の尻を撫で回している。
興奮してるのか あの気色の悪い…荒い息遣いが耳に伝わり 全身に鳥肌がたった。
無理
やめろ やめろ やめろ…
…やめて、
ホソク
震える唇で 必死に振り絞った声は 泣けてくるほどみっともなかった。
こいつを、アッパ、なんて 呼びたくないのに。
抗えなくて… 結局、従わざるを得なくなる。
こんなの、 やっぱり僕は こいつの言う通り… あの頃と何にも、変わってない…。
義父
そう言って笑ったスンヒョンは 僕の頭をぽんぽんと撫でてから 洗面所を出て行った。
ホソク
洗面台に手をつき 震える脚をなんとか支える。
今、僕の頬が濡れてるのは 顔を洗ったからなのか、涙なのか、わかんない。
あんなやつ、人間じゃない。
人間の皮を被った悪魔だ。 僕に一生消えることのない悪夢を植え付けた、悪魔。
それに、 悪魔の息子も やっぱり悪魔なんだ。
ナム
背後から聞こえた声。
睨むように、後ろを見る。 開けた扉の前を塞ぐように ナムジュンが立っていた。
スンヒョンに似た、その顔。 口角を上げて、僕を見ている。
ホソク
ナム
ホソク
どうせ、面白がって見てたんだろ。 まぁいいや。 無視しよ。
邪魔な位置にいるナムジュンの横を 肩をぶつけながら無理やり通って 洗面所を出る。
ふらつく脚で階段を登る。 結局ほとんど寝れなくて 身体がだるい。
ナム
そんな僕の後ろ姿を見ながら呟いたナムジュンの言葉には、 気づかなかった。
コメント
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うぐっ…😖💗とっっても最高です!🥹「今も昔も」とは一体どういうことなの…!!! 次回も楽しみに待ってます!自分のペースで無理せず頑張って下さい💪💪