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変わりは、いつも静かに訪れる。 蘭の携帯に、知らない名前の通知。

りな

蘭それ誰?

灰谷 蘭

仕事

りな

うそ。あんたそういう時の声いつも低くなる

蘭は煙草に火をつけて、黙った。 りなは笑って、ワイングラスを手に取った。 震える手で、最後の一口を飲み干す。

りな

ねえ蘭

灰谷 蘭

りな

もし私が昔も今も普通の女の子だったら今も隣に居た?

蘭は答えなかった。 その沈黙が、すべての答えだった。

りなは机にイヴ・サンローランの瓶を置いた。 ピアスの片方を外して、 蘭の前に置く。

まだ安定してないせいかりなの左耳からは血が垂れていた

りな

もう。これでいいの

そう言って微笑んだ顔は、 涙よりも綺麗だった。

りなが去ったあと、部屋には香水の甘い残り香と、 光を反射するティファニーのピアスがひとつ、 床に転がっていた。

数ヶ月後。 蘭はバーでグラスを回しながら、 リブレの香りが通りすぎた瞬間に目を上げた。

りながいなくなって、街が静かに見えた。 蘭は夜を生き続けたけど、 香りだけが、いつまでも彼の中に残った。

クラブの帰り道。 誰かがすれ違いざまにつけていた香り――リブレ。 一瞬で、心臓の奥が熱くなった。

灰谷 蘭

その匂い、誰につけても似合わねぇな

独り言のように呟いても、 風は何も答えなかった。

ポケットの中で、小さなピアスが指に触れる。 もう片方のピアスは、りながつけたまま、 どこかの夜で光っているのだろう。

いつかの夜竜胆が言った

灰谷竜胆

にぃちゃんまだあの子のこと考えてるの

灰谷 蘭

考えてねぇよ

灰谷竜胆

ならそのピアスなんで捨てねぇんだよそんなの何個でも買えるだろ?

蘭は答えず、グラスを空けた。 氷の音が、やけに遠くで響く。

窓の外には、雨上がりの東京。 街が光るたびに、リブレの香りが蘭の記憶をくすぶる。

灰谷 蘭

りな。お前が俺を変えたな

小さく笑って、煙を吐く。 その笑みの奥で、 彼はようやく“愛してた”という言葉の重さを知った。

日の出前、蘭は眠れないままベランダに出た。 空は淡い灰色。 街の音がゆっくりと戻っていく。

灰谷蘭は、夜を愛しすぎた男だった。 そして、りなは夜に愛されすぎた女だった。

香水は消える。 ピアスの輝きも、いつかは鈍くなる。 でも、あの夜に見たりなの笑顔だけは、 どうしても色あせなかった。

愛は終わっても香りは残る

それが、蘭が最後に知った“本物”だった。

そのピアスとっても高いやつだよね!!

りな

うん!可愛いでしょ

今も尚りなの右耳はティファニーのピアス

そして香水は

イヴ・サンローランのリブレ

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