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第1話 - あ

2023年06月03日

#恋愛

結城真矢

ラン

おかあさま、台所の洗剤、ちょっと変じゃありませんか？

リツ

ヘン？いいえ、何も変わった所はありませんよ。

ラン

そうですか…？すすいでも全然ヌルヌル感が消えないし。

ラン

匂いが違うんですよ。むしろシャンプーみたいな匂いがします。

リツ

あら、そうなの？

ラン

買い置きしておいたシャンプーが無くなっていますけど、

ラン

もしかしたら、間違えて洗剤の容器に入れちゃったとか…？

リツ

あら～、もしそうならランさん、ちょっと間抜け過ぎよ。

ラン

え？私がですか？

ラン

私、洗剤を入れ替えた覚えはないんですけど。

ラン

間違えたのなら、誰がやったのかと思いまして。

リツ

そりゃ、あなたに決まってるでしょう。

リツ

だって、ウチの人はそんな細かい事はしないし、レツも家事は何もしないでしょう。

ラン

確かに。おとうさまもレツさんも、まったく何にもしませんよね。

ラン

でも私も、昨日は洗剤の入れ替えはしていませんけど…。

リツ

私がやったって言いたいの？

リツ

人の事をボケ老人みたいに言わないでもらいたいわ！失礼な嫁ね。

ラン

いえいえ、そんな事は言ってません。

ラン

ただ、ちょっと間違えちゃったかなと思っただけで。

リツ

それが失礼って話なのよ。

ラン

それはごめんなさい。

リツ

いい？間違えたのはきっとあなたよ。

リツ

今度から気を付けてちょうだい。家族みんなの大事な洗濯物なんですからね。

ラン

はい、気を付けます…。

～3日後～

ラン

おかあさま、今よろしいですか。

リツ

なぁに？お出かけ中なのよ、私。

ラン

お忙しいところ申し訳ございません。

ラン

ちょっと肌の調子が悪くて。病院に行って来てもいいですか？

リツ

肌の調子が悪いくらいで病院？大げさじゃないの。

ラン

ただの肌荒れなら放っておくんですけど、顔や頭がヒリヒリするんです。

ラン

昨夜、シャンプーしてから調子がおかしくて。

リツ

あらそう。お気の毒(笑)。

ラン

肌が真っ赤になって、液みたいなのが滲んでくるんです…。

ラン

どうやら、かぶれてしまったみたいです。

リツ

へえ～。そうなの。

ラン

それに、食器用の洗剤もなんだか使い心地が変で…。

ラン

普通に洗ってるはずなのに、異常に手が荒れるんです。

リツ

あら可哀そう。

ラン

何かの薬品を被ったみたいに、手が真っ赤に腫れてるんです。

ラン

ちょっと病院で診てもらおうと思います。

リツ

あら。わざわざ病院にいくの？

リツ

軟膏でも塗っておけば治るわよ。ちょっと大げさじゃない？

ラン

それが…水に触れただけで涙が出るほど沁みるんです。

ラン

これじゃ、ルルのおむつも替えられません…。

リツ

手荒れなんて、主婦なら当たり前じゃないの？

ラン

え。

リツ

あなた、ウチに嫁ぐまで家事もロクにやらなかったんでしょう？

リツ

手荒れや肌荒れは、立派な主婦の勲章よ！病院なんか行く必要ないわ。

ラン

いえいえ、そんな古くさい勲章は欲しくないです。

ラン

それより、おかあさまは何ともないんですか？手とか顔とか。

リツ

さぁ、私はなんともないわよ？肌が荒れてるのはアナタだけみたいね。

リツ

私は昔から肌がキレイだから、殆ど荒れないのよ。

ラン

それはうらやましい事ですね。

ラン

でも、普通の洗剤やシャンプーでこんなに肌が荒れるのは異常です。

ラン

私が使っているモノに、なにか混入しているような気がします。

リツ

大げさねぇ。まるで命を狙われてるみたいww。

ラン

そこまでとは言いませんけど…。

ラン

ほかにも、砂糖と塩が入れ替わってたりとか。

ラン

最近、私が使うものばかりが入れ替わるんですよ。

リツ

ランさん、ちょっとお疲れなんじゃないの？

ラン

そうですかね。

リツ

きっとそうよ！赤ちゃんのお世話で忙しくて、ボケちゃってるのよ。

ラン

はぁ。

リツ

もう少ししっかりして下さいね。うっかり赤ちゃんのお世話で失敗したら大変よ？

ラン

ご心配ありがとうございます。

ラン

もう病院に行きますので、失礼します。

リツ

そうそう、帰りに買い物してきてちょうだい。

リツ

お米と牛乳とジャガイモと人参と、あとペットボトルのお茶も1ダースね！

ラン

あの、今日は車じゃないので、そんなに重いモノばかり買えませんよ…。

リツ

何を言ってるの！ルルちゃんは抱っこ紐でしょう。

リツ

ベビーカーにお買い物の荷物を乗っければ大丈夫でしょ。

リツ

もっと頭を使いなさい！

ラン

わかりました。

リツ

わかったなら宜しい。では行ってらっしゃい。

～その夜～

ラン

あなた、私ちょっと肌の調子が悪いの。

ラン

色々とかぶれてて、水を触っても飛び上がるほど沁みるのよ。

レツ

それは大変だ。大丈夫か。

レツ

病院は行ったのか？

ラン

病院には今日、行ったわよ。医者が言うにはね、

ラン

薬品かぶれだと思われるって。

ラン

アレルギーではなさそうだって診断だったわ。

レツ

薬品？そんな危険物を触ったのか？

ラン

違うわよ。普通にお風呂に入ったり、家事をしたり。

ラン

いつもどおり生活していただけで、こうなったのよ。

ラン

顔も体も赤くヒリヒリして、お風呂も辛いわ。

レツ

それは参ったなぁ。

ラン

ね。だから今日は早く帰ってきて、ルルをお風呂にいれてあげてほしいのよ。

レツ

うーん。今日は残業になりそうなんだけど。

レツ

母さんに頼めないのか？

ラン

無理みたい。ルルはすぐ泣くから、お世話したくないって言われたわ。

レツ

まぁ、母さんは子供が苦手だから。

ラン

しかも、病院から帰った私の顔を見て何て言ってくれたと思う？

ラン

「もともと肌が汚いのにますます荒れて、腫れてるから顔も大きくなったみたい」

ラン

って笑ったのよ。ヒドいと思わない？

レツ

母さんの口が悪いのは昔からだよ。

レツ

冗談で言ったんだろ？真に受けるなよ。

レツ

ランは本当に冗談が通じないなぁ。もっと気楽に考えろって。

ラン

冗談？あれが？デリカシーが無さすぎだと思うわ。

レツ

おい、母さんの悪口を言うなよ。

レツ

ただの愚痴なら、もうやめるぞ。これからまた会議だから！

ラン

ごめんなさい、ただ早く帰ってきてほしかっただけなのよ。

レツ

ルルの世話はランに任せてるだろ。

レツ

母さんとも仲良くやってくれよ。じゃ。

ラン

もう…。

～3日後～

リツ

ちょっと！ランさん、これはどういう事？

ラン

はい？どうかしましたか。

リツ

どうかしましたか、じゃないわよ！

リツ

お風呂のボディソープとシャンプーの事よ！

ラン

それが何か…？

リツ

昨日使ったら、全身が真っ赤に腫れたのよ！

リツ

あなたが何か入れたんでしょう。

ラン

いえいえ、私じゃありません。

ラン

そのボディソープとシャンプーはね、おかあさまが入れたモノですよ。

リツ

へ？

ラン

私、肌の調子がずっと悪いから、シャンプーもボディソープも、

ラン

ルルと同じものを使ってるんです。

リツ

何ですって？

ラン

今まで使ってたシャンプーやボディソープは、使うのを控えなさいって、

ラン

医者に止められたので、使っていないんです。

ラン

今私が使っているのは、赤ちゃん用の肌にやさしいものだけです。

リツ

へぇ…？

ラン

でも、ボディソープもシャンプーも、それにコンディショナーも。

ラン

おかあさまがご親切に全部入れ替えて下さってたんですよね！

ラン

私、物陰から見ていたから気付いてました。

リツ

そ、そうなの…見てたの…？

ラン

ええ♪おかあさまって親切で優しいですね。

ラン

でも、しばらく私、普通のモノが使えないし、

ラン

おかあさまのご厚意をムダにするのは良くないかなって。

リツ

え、ええ…。

ラン

ちょうどおかあさまも同じメーカーのボディソープ類をお使いなので、

ラン

おかあさま用のモノが置いてある場所に、私のモノを置いておいたんですよ♪

ラン

せっかくだから、全部使い切って頂こうと思いましてね。

リツ

そっそんな…わざわざ私のボディソープとかを置き替えたってわけ？

ラン

あら？私、何か余計な事をしちゃいましたか？

リツ

余計な事も何も！

リツ

あなたの使っているシャンプーやボディソープに、漂白剤をたっぷり入れておいたのに！

ラン

ええ？そんなものをどうして入れたんですか？

ラン

どうりで匂いも変だと思いましたよ。

リツ

決まってるじゃない！あなた、肌が弱くて困っているっていうから。

リツ

肌を鍛えてあげようと思って、仕込んでおいたのよ！

ラン

え～信じられない。

ラン

そういう健康法が、おかあさまの世代では流行っていたんですか？

ラン

漂白剤なんて、肌に悪いに決まってるじゃないですか。

リツ

う、うるさいわね。そんな健康法があるわけないでしょう。

リツ

人の親切心をそんな風にバカにしないでもらいたいわ。

ラン

あら、独自の思いつきで、そんな健康法を思いついたんですか？

ラン

そうとは知らず、余計な事をしちゃいましたね～。

ラン

私、余ったにボディソープやシャンプーを使って頂こうと思っただけです。

リツ

うっ。

ラン

だって、もったいないですもの。

ラン

余っているモノは有効活用しないとね。

リツ

そんな、私のかぶれた肌はどうしてくれるのよ！

ラン

軟膏を塗れば治るんじゃないですか？

リツ

へ？

ラン

おかあさま、数日前に私にそう教えて下さったでしょう。

ラン

何なら、私の軟膏を差し上げますよ。

ラン

私は病院で処方してもらったお薬がありますから。

リツ

い、いえ…病院に行くから結構よ…。

リツ

それに、なんだか昨夜からお腹の調子もおかしいのよ。

リツ

昨夜、暑かったから、多めにお茶を飲んだら腸が緩くなっちゃって。

ラン

あら大変ですね。

ラン

昨日、冷蔵庫にお茶をしまっておいたんですが。

ラン

それを飲んだんですか？

リツ

え？どういう事？

ラン

普段、私が飲んでいるミネラルウォーターで作った、お茶ですよ。

ラン

だいぶ減ってると思ったら、おかあさまが飲んでたんですね。

リツ

まさか…あのお水をお茶に使ったの？

ラン

ええ。でも「あの水って、何か心当たりでもあるんですか？」

リツ

ふざけないで！あの、あなたがいつも飲んでいるミネラルウォーターはね、

リツ

あなたの体のデトックスの為に、下剤を仕込んでいたのよ！！

ラン

デトックスの為に下剤？どうしてそんな事を？

ラン

私、健康そのものですよ？下剤なんて必要ありません。

リツ

うるさいわね！あなたね、胸とお尻が大きいのが自慢みたいだから、

リツ

ちょっと痩せてもらおうと思ったのよ！

ラン

いえいえ、なんですか、その無駄な気遣いは…。

ラン

それで、うっかり自分が飲んでお腹を壊しちゃったんですね。

リツ

なんて事かしら…こんな筈じゃなかったのに。

ラン

どんな事になるはずだったんですか？

リツ

少しあなたを困らせてやろうと思っただけよ！

リツ

レツも主人も、若いあなたにデレデレで、見ていて気分が悪いから！

ラン

デレデレって。普通に一緒に住んでいるだけですよ？

ラン

そんなしょうもない理由で、私の飲み物やシャンプーに、

ラン

薬や漂白剤を入れたんですか。

ラン

これって、警察に行ったらどうなりますかね？

リツ

やめて！そんな事をされたら主人に離婚されちゃう！

ラン

でもね。もし、危険なお茶やシャンプーがルルの口に入ったら、

ラン

ただ事では済みませんでしたよ。

ラン

許せと言われても、許せません。

リツ

そんな…。

ラン

まず、おとうさまとレツさんに相談します。

ラン

警察に行くかどうかは、その後で決めますから。

リツ

まって、ランさん！

～後日談～

ラン

宣言通り、夫のレツと義父にはすぐに報告を入れました。

ラン

「なんて危ない事をするんだ！と2人とも大激怒していました。」

ラン

息子であるレツと、義父から厳しく叱られた義母は、しおらしく反省し、

ラン

もう２度とこんな真似はしないと誓ったので、警察に行くのはやめました。

ラン

でも、今回は被害者が私だけで済みましたが、

ラン

万が一、娘のルルにも危害を与えられたら…。

ラン

そう考えると、同居を続けるのは難しいと夫に伝えた所、

ラン

夫も真剣に考えてくれて、同居は解消する事になりました。

ラン

姑というストレスの元凶がなくなり、

ラン

悩みの種だった肌荒れもすっかり良くなりました。

ラン

これからは、夫と娘と３人で平和に暮らしていこうと思います！

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結城真矢

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