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第11話 - 第11話儂こそが神なのじゃ！！！

5

2025年07月26日

#VIOLENT_INFERNO

#一次創作

へる

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5

へる

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儂こそが神なのじゃ！！！

これは時間軸がすこし昔のお話……

テオドール

………今日は随分と時間が掛かりますねぇ

オリヴィア

さっき送ったメッセージ、既読つかないのよね

オリヴィア

二人揃って充電切れかしら

爪に塗った直後のマニキュアをふーふーしながら呟く

オリヴィア

GPSは動いているけど、変な方向に向かっているわ

テオドール

そうですか…。

テオドール

面倒事に巻き込まれていないといいのですが…。

オリヴィア

どうせドランが寄り道でもしているんでしょ

テオドール

二人はどこへ向かっているのですか？

オリヴィア

…ん。

マニキュアがつかないように注意しながら携帯端末につけられたGPSの位置情報を見せる

テオドール

………あ、

テオドール

今までとは違う色ですね。
よくお似合いです。

オリヴィア

この前買った新商品、結構発色いいわね〜♪

にこりと微笑みながら、画面を覗くテオドール

テオドール

帰り道からだいぶ逸れてますね…。

テオドール

…………。

テオドール

この方向って……。

2人の行方は…

討伐依頼から終えたドランとリュウ

リュウ

おい、ドラン

リュウ

こっちで合ってんのか？

ドラン

えー、合ってるんじゃない？

リュウ

こんな道、通ってきたか…？

自分の携帯端末が充電切れで、ドランに先導を任せる

だんだんと空が暗くなっていく

ドラン

…………

リュウ

…………

ドラン

………迷った！

リュウ

おいｯｯｯｯｯ！！！！

リュウ

ったく、貸してみろ！

上から降りてきたドランの携帯を借りる

リュウ

あ

受け取った瞬間、プツッと画面の光が消える

ドラン

でんち切れたね

リュウ

最悪だ………

リュウ

はぁ……

リュウ

ドラン、上から正しい道を探してくれ

ドラン

わかった！！

さらに空高く舞い上がるドラン

ドラン

………ほよ？

少し先で何かが光っているのが見える

ドラン

気になる……！

ドラン

りゅー！あっち！！

リュウ

本当か！！！？？？？

明らかに間違った方向にしか思えないリュウ

ドラン

いっくよー！！

リュウ

あっ、ちょっと待ってくれ！

今日も今日とて帰りが遅くなりそうだ

光の方へ向かう2人

リュウ

おい、ドラン！！

リュウ

空気が変わった！！

リュウ

なんかやべぇ気がする！！

上空に向かって叫ぶリュウ

進むほどに感じたことの無い魔力を強く感じる

ドラン

ねぇ！！

ドラン

木がオレンジになってるよ！！

ドラン

なんでだろ！！

リュウ

……！本当だ

季節外れなことに、周りの木がいつの間にか紅葉したもみじに変わっている

リュウ

ドラン！！戻ろう！！

ドラン

もうちょっとだから！！

リュウ

もうちょっとって何が……

リュウ

なんだ、あの光……

リュウも前方の光に気づく

ぶわぁぁぁっ

リュウ

……！

ドラン

…………

不思議な魔力とともに強い風が吹き抜ける

まるで"早くこちらへ"と2人を誘うかのように……

リュウ

一体なんなんだ……

ドラン

……行こう

下に降りてきたドランリュウの腕を掴んで引く

リュウ

……………｡

リュウ

……ああ。

だんだんと光が強くなり、やがて2人を包み込む

するとたちまち眩しかった光が急に消えるそこで2人が見たものは……

？？？

…………

？？？

……？

ドラン

……女の子？

リュウ

……だな。

小さな祠がひとつその上に1人の少女が座っていた

背丈はオリヴィアと同じくらいでフリフリの服を着て、頭にはツノがある

？？？

……

ひゅっ

リュウ

…なっ！！

？？？

……

黙ったまま、少女がリュウの顔の目の前に飛んでくる羽根もないのに宙に浮いている

？？？

……

ドラン

……

リュウをじっと見たあとまた同じようにドランの顔も見つめる

ドラン

あ……えと、

ドラン

こんにちは？

？？？

……

？？？

久しいのぅ……

？？？

客人が来とは

幼く見えるが、妙に落ち着いた口調で話す

？？？

……其方等

？？？

いづれか？

ドラン

んぇ？

何を言われているのかわからないドラン

？？？

おぉ、そうじゃった……

コホンと息を整える

？？？

もう一度問おう

？？？

偶然此処へ来たのか

？？？

それとも儂の力が目的か

？？？

どっちかの？

リュウ

(……なんだ、この感じ)

白と黒の2色で統一された髪と服装

それとは対照的に妖しく光る緋色の瞳が視線を奪う

？？？

ええい！いまだ儂の言っていることが伝わらぬのか！

？？？

現世の言の葉、よくは解せぬ…！

リュウ

いや……なんとなくはわかる……

ドラン

あたしはわからない……

リュウ

あー、とりあえず

リュウ

ここに来たのは偶然だ

リュウ

道に迷ってな

ドラン

光を追ってきたらここに来たんだ！

？？？

そうか……。

？？？

……

再び2人をじーっと見つめる

リュウ

う……。

？？？

……まぁよい。

？？？

嘘を吐いてはいないようだな

ドラン

キミは何してるの？
お名前は？

にぱっと笑顔を見せて少女に問いかけるドランそれに対し、少女は怪訝な表情を浮かべる

？？？

相手に名を尋ねるのなら

？？？

先ずは自分から名乗るのが礼儀ではないかの？

ドラン

ほぇ……

リュウ

あー、っと

リュウ

名前、は

リュウ

俺がリュウでコイツがドラン

ドラン

んぇっ、そう！

ドラン

ドラン！！

リュウ

俺たちはさっきまで東の村で依頼を受けてた

リュウ

普段は依頼の報酬で生活してるんだ

リュウ

その帰り、さっき言った通り道に迷って今に至る。

ドラン

うん！！そう！！

？？？

ほう…。道に迷った、か

？？？

ここに辿り着くのはそう簡単ではないはずなのじゃが

ドラン

なんか、光が見えたんだよ！

ドラン

それに風がぶわーってして、連れてこられたって感じ？

？？？

導かれた…のか。

？？？

ということは…。

リュウ

……？

？？？

………

？？？

(……そうは見えぬが。)

少女の視線がリュウの身体をなぞる時々、隣のドランの羽根や尻尾も凝視する

リュウ

…んで、

リュウ

あんたは何者なんだ

リュウ

当然のように浮いてるし、この魔力。

リュウ

ただの子供じゃねぇな

リュウ

それに、俺の顔を見ても驚きもしない

ドラン

んー？
あたしも驚いてないよ？

リュウの右頬をむにむにつまむ

リュウ

ドラｯ、今そういうのいいから！！！

？？？

仲睦まじいのぅ

ドラン

あ、笑った！

今まで冷たい表情だった少女だが 2人を見てふわりと微笑む

？？？

名乗ってもらった手前悪いが

？？？

儂の名は誰にも教えぬ

リュウ

はぁ！？

ドラン

いじわるだった！！

？？？

すまんの。

？？？

ここ数百年は誰にも話しておらんのじゃ

ドラン

え…

リュウ

数百年？

？？？

あぁ、何者なのか…という問いに答えていなかったのぅ

ヒュｩｩｩ…

ひんやりとした風が吹き、紅い葉が空を舞う

それと同じ色をした瞳を持つ少女は月明かりに照らされながらひらりと宙へ浮かぶ

？？？

ふふ、そうじゃのう…
そうじゃ。

？？？

儂は…

？？？

"神"じゃ。

そう言って少女は目を細め、笑っていた

一方その頃……

オリヴィア

遅い、遅いわ！！

オリヴィア

マニキュアが完全に乾いたわ！！！

両手をパタパタさせて叫ぶオリヴィア

テオドール

GPSが動かないということは……。

テオドール

やっぱり捕まってしまったのでしょうか……。

オリヴィア

はぁー……！！

わざとらしく大きなため息をつく

オリヴィア

もうーｯ、テオ！

オリヴィア

バイク出せる？！

テオドール

いいですけど……。
今から行きますか……？

オリヴィア

しょうがないじゃない！！

テオドール

僕1人で行きましょうか……。

オリヴィア

貴方だけに行かせたら余計ダル絡みされるわよ。

テオドール

……ですよね。

オリヴィア

あー、めんどくさい。

テオドール

では、用意をしてきます…。

テオドールはバイクも車も運転できる

また祠へと戻る……

リュウ

……急に胡散臭ぇな

先程とは逆に2人が"神(？)"を凝視する

神

そっそんなに見つめられたら……

神

恥ずかしいのじゃｯ！！

わざとらしく照れたように顔を隠す

リュウ

はぁ……

リュウ

あんたが言うか……

ドラン

神様、かぁ……

祠の上にいたとはいえ、にわかに信じ難い

というのも身なりがなんだか"今風"でかろうじてツノが生えていることだけがそれっぽい

ドラン

なんか、メイドさんテオくんみたいだね

リュウ

確かに……

神

……テオ？

神

………｡

リュウ

……あ

リュウ

そういえばそこに"神社のやつ"、あったんだな

左を向くと鳥居が立っている通ってきた道は正規のルートではなかったのだろう

神

だから言ってるであろう

神

正真正銘、儂は"神"なのじゃ！

神

というか、"お主ら"！！

神

儂に向かってなんだその態度は！！

神

儂はお主らより百万歳以上年上なのじゃぞ！！

リュウ

はぁ！？

もう一度、少女の姿に上から下へと視線を向ける

リュウ

……なんか、お嬢みたいなこと言ってるな

ドラン

確かに……

神

コホン！

神

よいか！！

神

この大陸を創ったのは儂じゃ

神

もっと感謝すべきであろう！？

神

儂の力を以てすれば、お主らなど簡単に消せるのじゃぞ！！

リュウ

……そうか。

幼い姿で高圧的な態度を取ってもかわいらしく見える

神

だが、何も知らずにここへ来たということは

神

"縁"に呼ばれたということじゃ

ドラン

えん……？

神

近いうち、お主らと儂の間に何かが起こるはず……

神

あまり気は進まんが……

神

そうじゃ……そうじゃのう……

何やらブツブツと呟いている

神

まぁ、この機会に親睦を深め合うのも……

リュウ

ドラン、帰ろう

ドラン

んぇ……うん

神

えっ

リュウ

あんたも早く家に帰った方がいい。

リュウ

そろそろ魔物が活発になる時間だ。

神

なっ！！

神

そこら辺の魔物ごときに儂がやられるとでも！？

ドラン

…おこってる

リュウ

………。

文句を言う神を気まずそうに眺める2人

神

こんの、舐めおって……！

リュウ

じゃあな

ドラン

ばいばい！！

神

あっ……

リュウ

……ったく、もう夜じゃねぇか

リュウ

ドランが寄り道するから！！

ドラン

ほぇー、気になったんだもん

リュウ

またお嬢に怒られるだろ！

ドラン

テオくんもきっと心配してくれてるね……！

ドラン

次はちゃんと帰ろー

だんだん2人の背中が遠くなる

神

あう……

神

……っ

神

ちょっと、待つのじゃ……

リュウ

……あ？

聞き取れない程の小さな声を聞き、振り返ろうとする

神

待て！！！！

リュウ

……！？

ドラン

！！！！

キィィィン_______________

ドラン

(なに、これ……！)

リュウ

(身体が、動かねぇ……！)

神様が叫ぶと同時に魔力が放たれ身体がピクリとも動かなくなる

神

……しまった。
力を使ってしまったか

神

まぁ、よい。

神

戻れ。

リュウ

(…………)

リュウ

(……マジか)

自分の意思と反して足が進む

祠の上に座る神様の前で立ち止まる

神

ふふふ、どうかの〜？

神

儂の力を思い知ったか♪

再び無邪気な笑みを見せる

リュウ

…………。

ドラン

…………。

神

何とか言わぬか

神

あぁ、そうじゃったそうじゃった！！

神

えいっ

再び魔力を発動させる

ドラン

ぷはっ！

リュウ

……っ、おい！！

リュウ

どういうつもりだ！！

口と表情だけは動くようになったが相変わらず身体は言うことを聞かない

神

まぁまぁ、そんなに怒るでない

神

久々の客人。

神

儂もお主らに興味があるのじゃ

リュウの左頬へ手を伸ばす鱗の感触を確かめるようにスリスリと撫でる

リュウ

さわんなッ！

身体の硬直に反するように腕がガタガタと震える

神

ふふ……

神

随分と変わった"血の混じり方"じゃのう

神

この儂でも初めて見た……

ドラン

……なにやってんの？

神

……！

ガシュｯｯ

鮮血が飛び散る

無理やり拘束を解いたドランが背後から神を引き裂いた

……はずだった

神

ほう、儂の能力を解くとはな

リュウ

ぐうッ…い"ってぇ"！！

ドラン

えっ！？

ドランの腕は神の身体をすり抜け鋭い爪がリュウの腹部を掠めていた

ドラン

ごっごめん！！！

リュウ

いや大丈……

リュウ

………？

身体が動かないせいか治癒も始まらない血が滴り落ちる

リュウ

なんで…

神

わぁ〜、痛そうじゃの〜

神

このままだと血も凝固せず止まらぬから大変なことになるぞ〜

ドラン

……もうッ！！

ドラン

なんなの！！

ゴォォォｯｯ

今度は炎で焼き尽くそうと試みる

パシュッ

神

なかなか良い能力を持っているのう

表情を変えることもなく無傷の神炎が小さく集まったかと思うと弾けて消えてしまった

ドラン

ぐぬぬ……

神

儂には効かんぞ〜

神

だって、神様だもの♪

ドラン

わっ！！

また神の能力が発動し身体が動かなくなる

神

ふふふふふっ

神

ずーっと1人で退屈してたのじゃ

神

さぁ、おもしろいものを見せておくれ

神

お主は痛めつけたらどんな声で鳴くかの？

ドラン

うにゅにゅにゅッ！！

どうにか拘束をとこうと力を込めるドランに 1歩、また1歩と笑いながら歩み寄る神

リュウ

ぐｯ、、待て！！！！

リュウ

ドランには近づくな…ッ！！

血液がどんどん溢れ、息が上がっている

神

こらこら

神

そんなに大声を出したらダメではないか

神

儂は時間をかけて楽しみたいのじゃ

神

死に急ぐでないぞ

リュウ

ち、くしょ……

冷や汗が滴り、顔色が悪くなる自分の治癒力にどれ程助けられていたかを実感する

ドラン

りゅー！！

ドラン

どうしよう、どうしよう…！

神

さぁ！！力尽きるのも時間の問題

神

早くしないと取り返しのつかぬことになるぞ〜！！

やけに大きな声で呼びかける

まるで他の誰かに伝えるように…

ダァンｯｯｯ

ｶｷﾝｯ……

ドラン

…っ

ドラン

びっ、、くりした！！
何！？

突然の発砲音

神をすり抜けた銃弾がドランの目前でピタリと止まりそのまま地面に落ちた

神

ふふっ

神

やはりな

そう呟くと、神の表情が蕩ける

神

…待っておったぞ

神

オリヴィア

リュウ

…！

ドラン

あっ！！

3人の目線の先には

銃を構えたテオドールと 1歩下がったところにオリヴィアが立っていた

神

会いたかったんじゃぞー！！！

明るい声を出してオリヴィアの元へ飛んでいく

オリヴィア

あら、そう

オリヴィア

とりあえず、今2人に掛かってるその気持ち悪い術を解いてくれない？

オリヴィア

今すぐに。

冷たい声で神に答える無表情だが、小さな姿から確かな怒りを感じる

神

わかったわかった！

神

すぐに解くのじゃ

少し離れた2人を拘束していた"術"が解ける

それと同時に地面に平伏すリュウ

ドラン

りゅー！！！

リュウ

ーｯ……

ｸﾞﾁｭ…ｽﾞｽﾞｽﾞ…

またいつも通り、嫌な音を立てながら治癒が始まる

神

わーお、アレは凄いのぅ！

神

良い"チカラ"を持っておるな

オリヴィア

…………

感嘆の声を漏らした神をキッと睨みつける

神

すまぬ、すまぬ
そう怖い顔をするな！

リュウ

…はぁ……….ｯ

リュウ

うぇ…気持ち悪ぃ………

まだ血の生成が足りないもののあっという間に傷口が塞がった

ドラン

へーき！？

ドラン

もう傷治った！？

リュウ

ちょ……ど、ら…

飛んでくるや否や、リュウの肩をゆらゆら揺さぶる

リュウ

あ、う……吐きそ……

ドラン

わー！顔色が悪いよ！！
どうしよう！！！

テオドール

…ドラン様ー！

その様子を見かねたのか、テオドールが叫ぶ

テオドール

暫くそっとしておいてくださーい！

ドラン

ほえ…

ドラン

わかったー！

リュウ

(…たすかっ、た………)

視界がぐるぐる巡るまだ血が足りず、身体が動かない

オリヴィア

……介抱してあげなさいよ

テオドール

お嬢様の側を離れるわけにはいきませんので。

オリヴィア

……

オリヴィア

…そう。

再び神の方へと視線を戻す

オリヴィア

私、怒ってるんだけど。

神

すまぬ！

神

まさかそこの二人がオリヴィアの知り合いだったとは思わなかったのじゃ！

オリヴィア

………。

オリヴィア

嘘。

神

…

びくりと身体が動く

オリヴィア

わかってたんでしょう。

オリヴィア

だって、いつもの貴方は人間に手を出さないもの

オリヴィア

どうせ2人と私の『緣』も簡単に"視える"でしょうし

オリヴィア

どうやって2人を誘い込んだのか知らないけど

オリヴィア

追い詰めれば私が助けにくると思ったんでしょ。

神

こっ、ここへ彼奴等を連れてきたのは木々の仕業じゃ！

神

儂が気付くより早く

神

この地が呼び寄せたのじゃ！！

神

儂だって手を出すつもりは毛頭もなかったし

神

そもそも此方の話を聞こうともせぬから仕方なく……！

リュウ

…………ぅ……

ドラン

……大丈夫？

神

……

少し遠くで地面に突っ伏しているリュウの呻き声が微かにに聞こえる

神

……。

神

…………もん……。

神

うぅぅぅぅ〜！

神

わし、悪くないもん！！

うりゅっと大きな瞳から大粒の涙が溢れ出す

神

オリヴィアの所為じゃ！！

神

また来るって

神

言ったのに！！

神

すぐ会えるって！

神

この儂を！

神

此処から出られぬ儂を！！

神

何ヶ月、いや何年放置する気なのじゃ！！！

魔力の大きな揺らぎと共に周囲の提灯がチカチカと点滅する

その魔力に敵対心は感じられず静かに、どこか悲しい空気が混ざりあっていた

オリヴィア

……

テオドール

お嬢、様……。

神の目の前まで歩いてゆくオリヴィア

そして、自分なら触れることのできる神を

強く、抱きしめる

オリヴィア

……ごめんなさい。

オリヴィア

私も、悪かったわ。

神

っ……！

神

オリヴィアぁ……。

久々の他者の温もりを感じる

神

(…あたたかい……。)

オリヴィア

訳あって遠くへ行っていたの。

オリヴィア

どうしても、この付近に居たくなかった。

オリヴィア

ここは、セレスティアのすぐ近くだもの。

神を抱きしめたまま、遠く前方に目を向ける

オリヴィア

(遠くへ逃げたと思っていたのに)

オリヴィア

(いつの間にこんなに近くへ戻ってきてしまっていたのね…)

ドラン達が来た方向と逆側には都市が広がり高い建物の灯りがここからでも見える

オリヴィア

今後は、もっと顔を見せるようにするわ

オリヴィア

貴女の呪縛を解くことが出来れば1番いいのだけれど……

神

……儂だって、できることなら自らの足でオリヴィアに会いに行きたいのじゃ

神

でも、儂の力じゃどうにもならない

神

理解ってくれ……

神

ずっと1人は

神

寂しいのじゃ……

リュウ

………………。

突っ伏していたリュウがふらりと顔を上げる霞んだ視界の中に抱き合う少女が映る

ドラン

……なんかおりゔぃあと仲良さそうだけど！

ドラン

あとで絶対殴る！！

ドラン

りゅーも怒ってるでしょ！！

リュウ

…………。

ドラン

どうしたの？

リュウ

……別に。

再び静かに目を閉じる

オリヴィア

……少しの間、近くに居るわ

オリヴィア

何かおもしろい機械も持ってきましょう。

神

ん。

オリヴィア

だから、もう二度と私の連れに手を出さないで

オリヴィア

約束出来る？

神

わかった……。

"神様"という存在にはそれぞれ天から与えられし力を持っている

神は触れたオリヴィアの "記憶"や"緣"を感じ取っていた

神

…………。

そして、ゆっくりと腕を解く

神

オリヴィアは、やっと前に進めたようじゃの

オリヴィア

……え？

神

お主がどれだけ辛い思いをしていたのかは知っておる

神

以前のオリヴィアからは黒いモノしか感じられなかった

神

でも今は、違う

神

やっと、解放されたのじゃな。

オリヴィア

神……。

オリヴィアの手を取り、作った笑顔は何処か哀しそうでもあった

神

此処に居たくない気持ちはよく理解る。

神

悪かったの。

神

もう、わざわざ会いに来なくて良い。

神

気が向いたら、またいつか顔を見せておくれ。

オリヴィア

ねぇ、急にどうしたの？

オリヴィア

どうしてそんなこと言うの？

先程とは打って変わった態度にたじろぐ

神

(オリヴィアは今、幸せなのじゃ)

神

(心を覗いて、どうしてこんなにも動揺しておる)

神

(とても良いことではないか)

神

(……初めから、オリヴィアは儂を必要としておらぬ)

神

…………。

神

……儂は大人だからな

神

儂の我儘でオリヴィアを縛るようなことはしない

神

それに、また別の遊び相手でも探せばいいのじゃ

オリヴィア

……。

神

さて、もうそろそろ日付が変わる頃ではないかの

神

もう帰るがよい

オリヴィア

…わかった。

オリヴィア

あまりこの地に長居をするつもりはないし

オリヴィア

また2日後、出発ついでにここに立ち寄るわ

神

そうか。

神

では待っておる

返事をした後、ドランとリュウの元へ飛んでゆく

神

具合はどうかの

ドラン

うーっ！！！

ドラン

許さない！！！

ｺﾞｵｯｯｯ

相変わらずドランの炎は神の身体をすり抜ける

神

効かぬものは効かぬのじゃ

神

少しは学べ

ドラン

むきぃー！！！

神

…2人共、すまなかった

神

オリヴィアを怒らせてしもうて、流石に反省しておる

リュウ

……。

ほとんど平常まで回復した身体を起こす

まっすぐに目の前の少女を見つめる

神

……？

リュウ

……なぁ、どうして

リュウ

…………いや、

リュウ

なんでもない

神

なんじゃ、言いたいことがあるなら言えば良いではないか

リュウ

……行くぞドラン。

ドラン

もうッ！！絶対いつか倒すからね！！！

ドラン

ばーかばーか！！！！

文句を垂れながらもオリヴィア達の元へと歩いていく

テオドール

……大丈夫ですか？

リュウ

こんくらいなんともねぇよ

テオドール

相変わらず凄いですね……その治癒力。

オリヴィア

さーて、帰りましょ

オリヴィア

バイクはこっち

停めたバイクの元へと歩いていく

オリヴィア

あっ、そうそう

オリヴィア

もう充電切れには気をつけなさいよ！！

オリヴィア

これで充電して！

ドラン

うーい

リュウ

悪ぃ。

2人に携帯端末の充電器を渡す

ドラン

お腹すいた！！！
早く帰る！！

テオドール

今夜はラム肉です。

ドラン

わーい！！急いで帰ろ！！

オリヴィア

……あ。

テオドール

……あ。

乗ってきたバイク、ドラン、そしてリュウを見比べる

テオドール

……リュウは歩きですね。

リュウ

はぁ！？俺だけ！？

リュウ

怪我人だぞ！！

ドラン

もう治ったでしょ〜

ドラン

あたしは2人に飛んで付いて行くし！

ドラン

お腹すいたもん！！

リュウ

酷いぞ！！

オリヴィア

とは言ってもこのバイク2人乗りだから

オリヴィア

リュウくんはナビあれば帰って来れるわよね

リュウ

ぐぅぅ……！！！

リュウ

わかったよ！！！自力で帰ってやるよ！！！

そう言う割にはバシバシと地面を叩く尾が納得できていない感を醸し出している

オリヴィア

じゃあ、気をつけて帰ってきてよね

オリヴィア

神も……

オリヴィア

また明後日。

神

……ああ。

少し離れた場所でチラリと手を振る

リュウ

………。

リュウ

テオドール。

テオドール

なんですか？

近くまで寄り、小さな声で耳打ちする

リュウ

遅くなるかもしれない。

リュウ

あの女と話したいことがある

3人の姿が見えなくなった頃……

神

なんじゃ。お主は帰らぬのか？

神

まさか儂と2人きりになりたかったのかの？

神

ふふ、やらしーのぅ〜

揶揄う神を横目に話を切り出す

リュウ

さっき、言いたいことがあるなら言えって。

神

お主には悪い事をしたからな。

神

どんな悪口でも聞き流してやろう。

リュウ

どうして

リュウ

お嬢にあんなこと言ったんだ

神

？

神

どれのことじゃ？

リュウ

もうわざわざ来なくていいって言ってただろ

神

……あぁ。

神

そうじゃな。

少し間を置いてから答える

神

もう一度言うておくが、儂はお主よりも百万歳以上大人なのじゃ

神

最初は場の勢いで駄々を捏ねてみたが

神

命短き者の時を安易に奪ってはいけない

神

それくらいの分別は出来ておる。

リュウ

……お嬢もあんたも歳と見た目が合ってないから調子が狂うぜ。

リュウ

詳しいワケはわかんねぇけど

リュウ

ここから出れないんだろ

リュウ

少しくらいワガママでもいいじゃねぇか

神

…はは。

神

重い女は嫌われるのじゃ。

神

今も、昔も……。

過去を思い出しながら悲しげに笑う

リュウ

……じゃあ

リュウ

なんでここから出れないのか教えてくれよ

神

それは、神の世界の掟だからじゃ。

リュウ

神の、世界……。

神

ここは人間が中心となって動く人間界。

神

儂は、別の世である天上界の存在じゃ。

神

そもそも人間界は一軍の神が興味本位で創った世界であり、

神

それをより良きモノへと進化させる為に、儂のような二軍の神々が"用意"されたのじゃ

神

空気、大地、水、生命

神

無だった世界に神々が要素を与えてゆく

神

そうして今の世界の礎を作り上げた

神

その後、人間という自ら世界を発展させていく能力を持った生き物が誕生したことによって

神

儂らの役目は殆ど終わった

神

そのあとに一軍の神によって与えられたのがコレじゃ

リュウ

あ……

ふよふよと宙に舞い、祠の上へと座る神

神

此処で守神として周囲の平穏を護ること

神

それが儂の一生の役割。

神

まぁ、はっきり言えば役目の為に儂をここへ縛り付けたと言うことじゃ。

神

今はだいたい半径2km程までしか離れることが出来ぬ

リュウ

……"今"は？

神

あぁ。

神

どうやら神の力は人々の信仰心が関係しているらしい。

神

それに儂も掟を少々破ったことがあってな。

神

動ける範囲もどんどん狭くなるばかりじゃ。

神

………。

神

儂以外にも、各地に神々と祠がが沢山存在している。

神

人間たちは神を祭り上げ、崇めていた。

神

ただ、儂は運が悪かったのう

神

此処は何分環境が悪い

神

人々はこの祠の存在を忘れていった

神

動ける範囲も狭くなる一方だった

神

儂ら神の力を狙うやつも現れたりしたのぅ

神

だからな、稀に現れる客人が嬉しくて

神

掟に反して少しばかりやんちゃしたものじゃ。

神は少しだけ、いたずらっぽく笑った

リュウ

………

リュウ

……じゃあ

リュウ

コレを壊せばいいんだな

神

ん、なんか言ったか？

リュウ

ちょっとどいててくれ

神

別にいいが、なんでじゃ？

神が退いたのを確認し、祠の目の前に立つ

リュウ

………

リュウ

すぅーッ

神

へっ、？おい、まさか

神

やめ

ドォンッッッ

神

わｯ

砂埃が舞い、視界が遮られる

リュウ

(やったか……？)

ジジッ

バリバリバリｯｯｯｯ

リュウ

ぎゅｯｯｯぎゃああああ！！！

ドサッ

リュウ

あぎゅ…ッ

電流のようなものが身体に走り、堪らず倒れる

神

……

神

ふっ、

神

あははははははっ！

神

なんじゃその情けない叫び声は！！

リュウ

笑うな……

リュウ

"半分"は俺じゃねぇ……

神

阿呆かお主は

神

人間如きに神が創ったモノが壊せるわけなかろう！！

神

特に魔力への対策は十分にしておる

神

攻撃の際に発する魔力に逆流するようにカウンターが入るぞ

神

魔力が強力な程効くであろう！！！

なぜか誇らしげな顔をする神

リュウ

うるせー、疫病神(ﾎﾞｿｯ)

神

なんじゃと！！！！

リュウ

ここに来てからろくな事ねぇ！
疫病神だろが

神

いや、さっきもそうだが勝手に自滅しただけじゃろ！

神

儂は直接的な攻撃を一切しておらぬからな！！

神

…それに、壊されたら困るぞ

神

一応その祠は天上界へと繋がっておるのだからな

神

祠が壊れたら儂がどうなるのか分からぬ

リュウ

え。あー、そうだったのか…

リュウ

それなら引っこ抜けば…

祠の下の方を両手で掴む

リュウ

ぐっ、、オラァッッッ

ジジッ

ビリビリビリビリッ

リュウ

い"ってぇ！！！

神

もちろん触るだけでも魔力に反応するぞ

リュウ

なら地中から攻めて……

リュウ

……あれ

祠の真下の地面から魔力でアプローチするも何も起こらない

神

ここ周辺の地面には結界が伸びている

リュウ

チッ

リュウ

じゃあ、お嬢の道具で……

神

安直じゃのう

神

オリヴィアの魔力で出来た道具を使ったらどうなるか想像できんか

リュウ

じゃあやっぱり力ずくで……

リュウ

カウンターまでにいくらかラグがあるからそれまでに

ジジッ

ビリビリビリビリッッッ

リュウ

ぎゃんッッッ

神

全然ダメじゃの

リュウ

……右手には電流が流れない！

リュウ

ならこっちだけで……ッ！

リュウ

ぐぬぬぬぬぬ

右腕だけで出せる力ではどうにもならない

神

……おい

神

そんなに無茶をしても無駄じゃ……！

神

もう無理なことくらいわかっておる！！

リュウ

わかんないだろ

リュウ

できること、全部、全部試さねぇと

神

そんなに何度も力を浴びていたら死ぬぞ！！

神

どうしてそんなに必死に……

リュウ

ずっと一人は寂しいって

リュウ

あんたが言ったんだろ

神

……！

リュウ

……あー、痛ってぇ

体をさすりながら寝転がる

リュウ

せっかく治ったのにまたボロボロかよ

神

……

ふよふよとリュウの元へ向かい、顔を覗き込む

神

見かけによらず

神

優しいの

てちっ

リュウの右頬に小さな手で触れるその手は意外にもあたたかい

リュウ

…………

リュウ

よく言われる

神

ふふ……

神

ありがとう

テオドール

……何をしているのですか。

リュウ

んえっ、テオドール！？

リュウ

なんで！？

オリヴィアを家まで届け、再び迎えに来たテオドール

ボロボロのリュウを見て神を睨みつける

テオドール

お嬢様との約束をもうお忘れになられましたか。

リュウ

待ってくれ、これは俺が！！

神

すまんの、儂が引き留めてしまった

神

そんなに怖い顔をするな

リュウ

あの、本当に俺が勝手にやられただけだから……

テオドール

勝手に？
意味がわかりません。

神

まぁまぁ、兎に角。

神

儂が傷付けた訳じゃない。
信じてくれ

神

儂とお主の仲じゃろう？

にんまりとテオドールの顔を覗く

神

あー、それとも

神

"あの話"はあくまで幼い頃の契りだから

神

白紙ということに……

テオドール

……はぁ。

テオドール

わかりました。

テオドール

本当に何もなかったのですね。

神

おやおや、

神

まだあの"安直なおねがい"でお主をゆすることが出来るのか〜

神

面白いの〜

テオドール

幾らでも馬鹿にしてください。

テオドール

その代わり、約束はきちんと守ってくださいね。

神

ああ。儂はお主が嫌いだからな。

リュウ

……？

リュウ

なんかヤバい話か！？

テオドール

なんでもありません。

テオドール

帰りましょう。お嬢様に心配されます。

リュウ

そうだな。

リュウ

……疫病神。

神

……なんじゃ。

リュウ

今は無理だけど、いつか、どうにか出来るよう努力はする

リュウ

だから、待っててくれ

神

はっ、期待はしておらぬ

リュウ

じゃあ、また明後日……

リュウ

いやもう明日か？

神

ああ。

神

じゃあの。

やっとお家にGo〜

祠の前にて……

神

2日ぶりじゃの、オリヴィア

オリヴィア

そうね

オリヴィア

なんだか表情が、明るくなった？

神

そうかの？
まだ昼間だからじゃないのか

晴れた青空を見上げ伸びをする風も心地よい

オリヴィア

ねぇ、私

オリヴィア

なかなか来れなかったこと

オリヴィア

本当に申し訳ないと思っているわ

神

だから、もういいのじゃ！

オリヴィア

でも、今後も中々ここに戻ることが出来ないのも事実

オリヴィア

だからね

オリヴィア

じゃーん！

何やらモニターのような機器を取り出す

オリヴィア

昨日急ぎで創っちゃった！

神

これは……なんじゃ？

オリヴィア

この後ろのスイッチを押すと電源が入るでしょ〜

オリヴィア

で、私のパソコンとネットで繋ぐと……

パッ

オリヴィア

ビデオ通話ができちゃいまーす！！

神

……！！

神

すごい、お互いの顔が写っておる……

オリヴィア

それに携帯ももう1つ用意したの

オリヴィア

あげる

神

こ、これはどう使うのじゃ……

オリヴィア

基本的な使い方は……

色々と操作方法を教える

神

すごいすごい！！

神

とっても便利なのじゃ！！

オリヴィア

ソーラー発電と魔力発電もできるから充電の心配もいらないわ！

ドラン

え、これもまりょくはつでん？にできないの！

今日もまた充電の切れた自分の携帯を取り出す

オリヴィア

嫌よ、大変だもの

オリヴィア

ていうかちゃんと充電しないのが悪いんでしょ

ドラン

むー

オリヴィア

……これでいつでも話せるわ

神

……そうじゃの！

神

ありがとう、オリヴィア！！

オリヴィア

ちょっ、きゃあ！！

どさり

神に抱きつかれ2人で地面に倒れる

テオドール

神様！！気をつけてください！！！

神

わー、こわいこわいのじゃ

神

ふふ、

神

やっぱりオリヴィアは

神

儂が見込んだ最高の女じゃ

オリヴィア

重いわよ、退いて

神

早く儂のモノにならないかのう

神

やっぱりオリヴィアは神になる素質があるのじゃ！！

オリヴィア

ならないわ
私は自由に生きるもの

神

残念じゃのう〜

倒れたままドタバタやり取りし合う

テオドール

お嬢様、お洋服が汚れます。

オリヴィア

じゃあ神のこと剥がしなさいよ

テオドール

神様。

神

わ〜、やだやだぁ

神

離すのじゃ〜

オリヴィアから神を引き剥がす

リュウ

さすがお嬢、昨日忙しそうにしてると思ったら。

ドラン

ずーっと部屋にいたね

ドラン

2人は仲良し！

ドラン

でも、でもっ！

ドラン

神さまのこと許さないもん！

ドラン

絶対勝つんだからね！

ドラン

もっと強くならないと……！

リュウ

まだ言ってんのか

リュウ

そういえば次はどこへ行くんだろうな

ドラン

わかんないけど、

ドラン

おりゔぃあ、ここら辺嫌いだから遠くまで行くって！

リュウ

あっちのデケェ街はあの2人の故郷なんだっけか

ドラン

みたいだね！

リュウ

見たことないくらい建物が高いな

ドラン

ちょっと行ってみたいけどまた別の機会だね

リュウ

しばらく移動で暇かぁ

オリヴィア

2人とも、そろそろ行くわよ〜

ドラン

うんっ

神

オリヴィア、気をつけてな

神

……なんだったかの、

神

神の御加護があらんことを

オリヴィア

それ、神本人が言う？w

神

ふふっ、それもそうじゃな〜

神

……オリヴィアのおかげで

神

もうきっと寂しくないな

手元の携帯を優しく指でなぞる

オリヴィア

何かあればすぐに連絡して

神

あぁ。

神

それじゃ、またな。

神

お主のことを誰よりも

神

愛しておる。

神も一緒に旅する日が来るかもしれない