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人類を滅亡から救う方法はたった一つ── 「過去に戻り、世界を“なかったこと”にすること」 だが、それを実行する者は、その世界から完全に消える運命にある。 時を巻き戻すために選ばれた少年・燈真(とうま)は、誰にも知られぬまま、恋人・美桜(みお)との未来を犠牲にしようとしていた。 「君が笑って生きてくれるなら、僕はそれでいい」
2032年・東京。人類は正体不明の“時の侵食”により、数年後に滅ぶことが予測されていた。 「原因は、13年前のある“時間事故”にある」と科学者たちは突き止める。 唯一の方法は、「過去へ戻り、その事故を未然に防ぐ」こと。 ただし、それを担う存在は“時間の調整者”となり、その世界線から痕跡ごと消滅する。
その日は、空がやけに青かった。
まるで何かが始まることも、終わることもわからないまま、ただ無邪気に広がっていた。
朝の教室。窓際の席で燈真は静かに目を閉じていた。
他の生徒たちのざわめき、机を叩く音、笑い声。
それらは全部、ガラスの向こうの世界のように遠かった。
___また夢を見た。
焼けた街。 逆さまになった時計塔。
止まった時間の中で、自分だけがひとり立ち尽くしていた。
あの日、家族が消えた光景。
まだ、心の底から消えていない。
叶多
叶多
ドンと机を叩かれる音で我に返る。
隣の席の「叶多」(かなた)が呆れた顔でこちらを見つめていた。
燈真
叶多
燈真は頬をかきながら首を振った。
燈真
叶多
叶多の言葉はどこかキツかったが、どこか本気ではなかった。
燈真が浮いていることも、他の生徒より少し遠くを見ていることも彼は知っていたから。
燈真
答えずに視線をそらす。 その時扉がカラリと開いて、風と共に彼女が現れた。
美桜
その声が教室に響いた瞬間、空気が変わった。
まるで、濁った水の中に一滴の光が落ちたような。
美桜。(みお) 燈真のクラスメイトで、どこか不思議な明るさを持つ少女だった。
肩につかないくらいのショートボブ。無造作に跳ねた髪が、彼女の気まぐれな性格をよく表している。 小さな失敗に笑って、自分のことより他人を気にするようなやつ。
燈真は彼女が苦手だった。
…正確には、"苦手だと思いたかった。"
燈真
思わず漏れた言葉に、美桜がくるりと振り向いた。
美桜
燈真
美桜
無邪気に笑う彼女を見て、燈真はほんの少し目を細める。
その笑顔はどうしても嫌いになれない。
放課後、教室に残っていた燈真は、黒板の前でぼんやりと立ち尽くしていた。
全員が帰った後の静かな空間は、まるで自分の心の中のもののようだった。
すると、誰かの気配がして、彼は振り向いた。
燈真
そこに居たのは、美桜だった。
彼女はカバンを抱えて、首をかしげていた。
美桜
美桜
燈真
美桜
そう言って、美桜は勝手に近くの席に座り、窓の外を見た。
美桜
燈真
美桜
美桜
美桜
燈真はその言葉を、少しだけ心の中に落とし込むように頭に残した。
燈真
ぽつりと呟くと、美桜が嬉しそうに笑った
美桜
燈真
美桜
燈真は少し目を伏せて、やがて、小さく頷く。
燈真
このとき、彼はまだ知らなかった。 彼女と過ごす日々が、自分にとってどれほどの意味を持つことになるのかを。
そして____ その全てが「なかったこと」になる運命を、自分が引き受けることになる未来を。
杏
杏
杏
杏
杏