「大好きだよ」
昨日、電話でしゅんに伝えた言葉を思い出していた。
睦月
しゅんは睦月のその言葉を本気にしない。
いつも冗談めかして流されてしまうことに、睦月の胸にはもどかしさが 募るばかりだった。
睦月
しかしながら、睦月はその想いが伝わって欲しいという気持ちとは裏腹に、しゅんとの関係が崩れてしまうことを恐れていた。
睦月
睦月
湯船に浸かりながら、ぼーっと真っ白な天井を眺めていた。
睦月
しゅんに対する気持ちは、日を増すごとに強まっていく。
そんな時、とある考えが睦月の頭によぎった。それはとても利己的で、非常識で、頭ではダメだとわかっている。しかし、その恍惚とした輝きを放つアイデアに、心が支配されていくのを感じた。
しゅん…僕だけのものにならないかな
翌日
いつものように、しゅんの姿を求めて教室に視線を巡らせた。
みお
しゅん
しゅんがクラスの女子と会話をしている。
普段、睦月に向けているものとは少し異なる笑顔で、仕草で、声色で。
その何気ない日常の風景が、睦月の胸をきつく締め上げた。息が詰まる思いに、咄嗟に廊下に出た。
睦月
しゅんが女子と話している光景なんて、今更珍しくも何ともない筈だ。そうだというのに、何故…
睦月
睦月
気づくと涙が頬を伝っていた。睦月の中に渦巻く黒い感情は、少しずつ睦月の心を蝕んでいく。
睦月
睦月
睦月
教室に戻ると、今度はしゅんの方に目を向けることなく席についた。
その日は一度もしゅんと話すことなく終わってしまった。
しゅん
帰宅してスマホを開くと、しゅんからのメッセージに気づいた。
睦月
しゅん
睦月
僕なんかの事を気にかけてくれる、優しくてカッコいいしゅん。
いつもみんなのこと考えてて、頭も良くて運動だって僕よりできる。
どうやったらしゅんは 僕のことだけ見てくれるのかな
何をすればもっとしゅんの 気を引けるのかな
気づくとカッターナイフを持ち出して、浴室に向かっていた。
無機質な刃の輝きを確かめながら、数センチほど露出させた刃先を手首に当てがった
少し力を入れて刃を引くと、鋭い痛みが走った。
睦月
少しの間をおいて、真っ赤な鮮血が傷口から顔を出した。
しばらくの間、手首を伝って滴る血液を眺めていた。浴槽には小さな血溜まりができていた。
睦月
ふと我に返った時、遅れてやってきた虚無感に襲われた。
睦月
シャワーで固まりかけている自分の血液を洗い流し、風呂場を後にした。
翌日
昨夜から振り続ける雨が、鬱々とした気分を増長させた。
しゅん
しゅんが笑顔で話しかけてきた。
少しだけ気分が爽やいだ。
睦月
しゅん
睦月
しゅんが指差すのは、昨日切った手首の傷を隠すためにつけたリストバンドだ。
睦月
悟られないように、しゅんに向かって微笑んだ。
笑うのがこんなにも難しく感じたのは、今日が初めてだった。
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