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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

グク

なんでわざわざこんなところ予約したの?

ジミン

ステーキが美味しいって聞いたから、
一回来てみたかったんだよ。

ジミンとジョングクの会話は当たり障りのないやつで、それはそうなんだけど 俺だけが何処かソワソワとしている。

それは確かにデニムはNGだろうなという見るからに敷居の高いこの洋食の店のせいか。 それとも

ジミン

ホソギヒョンもお腹空いてるでしょ?

ジミン

ワインも飲む?

そう聞くジミンの胸元のボタンが2個空いてる黒いシャツ姿があまりにも淫靡に見えるからか。

個室席に3人。 こうして見ると2人とも見た目は良いのに、蓋を開けてみたら女の数は数知れずなのだから、恐ろしい。

そういえばジョングクは終わりにするって言ってたっけ、なんて今朝のことを思い出していると

グク

ちょっとトイレ。

ジョングクが席を立った。 個室席が一時的に2人に。

パタンと静かにドアが閉まって、それを合図かのようにジミンの指が俺の太腿をなぞった。

ジミン

この服、挑発的すぎるでしょ。

ジミンの視線が俺の足元から頭の先まで隈なく沿う。

ホソク

挑発してるつもりはないんだけど、
そう見えたならそうかも。

ジミン

今日はジョングギがいるし、
こんなところでできないのに。

ジミン

残念。

そう言って眉尻を下げたジミンの顔を見て、表情と指の動きのギャップに軽く笑う。 だってそんな事を言いながら、俺の太腿から手を退かす気はないみたいだから

でもあんまり触られると俺だって耐えられる物も耐えられなくなるというもの

だから太腿の上で遊び続けるジミンの手を掴んで

ホソク

もうダメ、これ以上は。

俺にとって何とも耐え難い言葉を口にする。 ジミンの表情は俺とは違って余裕があって強気で色気に満ち溢れていて

ジミン

じゃあキスで我慢してあげる。

ホソク

んッ//

やっぱり俺の好きな言葉遣いで、駄目だと思う事をあっさり成し遂げてしまう 俺が抵抗しないのをジミンも既によく知っている。

いつジョングクが戻って来るか分からない。 ドアがカチャンと軽い音を立てるまで。 それまではジミンの唇と舌と俺の頬を撫でる手に身を委ねるしかない。

グク

あ、なんか来てる。

戻って来たジョングクはテーブルの上の物を見るや否や、ご馳走様を見る子供みたいに目を輝かせた。

ジミン

先に食べてるよ。

その言葉通りジミンがナイフとフォークを器用に使って口へと料理を運ぶ。 割と豪快に。

俺だけ、内心まだ心臓が落ち着かなくてワインを一口飲んだだけ。 ときめきの方の意味ではなくて、焦りの方の意味だ。

だってジョングクが入って来る直前。 あと一歩遅かったら見られてたっていうその瞬間、ジミンがほんの少し荒い呼吸で耳にキスしたりするから。

それが嘘の様に飄々としているのはジミンだけだという事だ。

グク

いらないの?

まだ手付かずな俺の分の料理を見たジョングク。 もう自分のお皿が空で俺の分を狙っている目付きだ。

ホソク

…食べます。

グク

ワインばっか飲んでるから
何も食べないかと思った。

ホソク

そんなわけ。

ジョングクのおかげで落ち着いた。 だからジミンの様にとはいかないけれど、ナイフとフォークでそれをやっと口に運んでみる。 まだ落ち着いてなかったようで、味がよく分からなかった。 多分、美味しい。

グク

ねえ、ジミニヒョン聞いて?

ジミン

何?

グク

ララップモンスタ〜😂

ジミン

何回目だよそれ(笑)

ジョングクが笑わせてジミンが笑う。 それを見てる俺。 時々料理。

こんな時間の過ごし方も悪くないと、割と荒んだ生活を送っているからそう思うのか。 不倫なんかして、靴投げたりして。

ジョングクの言葉じゃないけれど、ヤるヤらないに関わらず俺もそろそろ落ち着くべきか。 でも、例えば落ち着くとするなら相手はーーー

ジミン

いやそれダメじゃん(笑)

思いっきり笑いながら身を捩るジミンが言った。 何が駄目だったのかは聞いてなかったけれど、ジミンが楽しそうでそれに連動して赤い髪がさらさらと揺れるのを見れるだけで充分。

ジミンと付き合えたらーーー

眩しく見える存在に感情的な欲が出る。 俺がジミンとヤる事ヤってるだけでもほぼ奇跡に近いのに、付き合うとか。

頭の中で2人の俺が討論しているみたいだ。 騒がしくなりかけた頭を冷やす為に、ステーキを綺麗にたいらげた後で

ホソク

トイレ行ってくる。

今度は俺が席を立った。

ソウルという街がどれだけ狭いかをこんな場所で思い知らさせるなんて思ってもみなかった。 愉快な時間に現を抜かしていた事への、戒めなのかもしれないけれど。

ジャケットは脱いで来たのにポカポカと暑い。 トイレの鏡で自分の顔を確認してみたけれど、やっぱり。 顔が赤い。 昔からそうだ。

ワインをちょっと飲み過ぎたのと、個室の中の温度が高いからかも。 手を水で洗うとひんやり冷たくて気持ち良かった。

暑いけどこれ以上脱ぎようがない。 だから少し長めに手を冷やしてクールダウンさせる他ない。 俺が少し遅く戻ってもあの2人はさほど気にしないはず。 それ程楽しそうに見えた。

首元のしっとりと滲んだ汗は程なくして引いた。 だから今度こそ戻ろうと鏡で少し髪を直してトイレを出た。

トイレに長居したのが良くなかった。 暑いのなんか気にせず戻っていれば良かったのに。

店長

ホソガ…?

トイレから出てすぐ。

店長

うわ、こんなところで…

俺が言いたい台詞を口にした"店長"だ。

店長

最悪だよ。

ホソク

俺も同じ気持ち、もう二度と顔も見たくないと思ってたのに、
ソウルって狭くていやになる。

何の未練も感情もない。

なのにまるで俺がまだ好きでいるかの様な振る舞いに腹が立った。 だから口角を上げて俺がそう言ったのは本心だったし、お互い"最悪"だと思ってるなら当然、これ以上話す事もない。

だから'じゃあ'と言って横を通り過ぎようとしたのに。

店長

お前みたいな男、誰も本気にならないからな。

俺の事は構わない。 でも、この場所に完全に適さない言葉が衝撃的で、つい足を止めてしまった。

こんな低俗な言葉を軽率に吐くやつなんかに、身体も心も許してたなんて反吐が出そうで。

何の偶然か今日履いてるのががその時の靴で。 あの時のリベンジができると踵に手を掛けた。 この距離なら絶対当たる、いや、当ててやる。

グク

だから、やめなって。

宥める様な手が俺の背中を2回叩いた。 その声はジョングクのもので、見上げるともう一回'やめな'と。

それから俺の肩に手を回した後で

グク

俺は本気ですけど。

悪戯っぽく笑ったジョングクの言葉は店長に向かって投げられたやつだった。 見上げて見るジョングクの表情が、また"男"の顔に見えた。

何はともあれ、靴を2回投げずに済んだのは幸いな事だろう。

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